手術紹介
未破裂脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤とは
脳の血管の分岐部にできるコブのことで、破裂していないうちはそのほとんどが症状を認めませんが、破裂した際には“くも膜下出血”という大変重篤な状態になります。MRIのない時代には発見は容易ではなかったのですが、近年、脳ドックの普及に伴い未破裂の脳動脈瘤が発見される頻度が高くなってきました。
未破裂脳動脈瘤の発見頻度と破裂の危険性(年間破裂率)
脳ドック、あるいは脳の病気を疑いMRIによる検査を行った結果では、日本人の脳動脈瘤保有率は4-5%くらいと言われており、20人に1人くらいの頻度で発見されます。
これだけで、脳動脈瘤を持っている人が比較的多いことがわかりますが、肝心の破裂の危険性はどれくらいかというと、年間で1%くらいと言われています。1998年のヨーロッパの論文では、年間破裂率が0.05%とかなり低く報告されましたが、その後の追跡調査では、7mm以上で0.5〜8%と修正されています。日本でも同様に調査を開始し、現在では年間0.5〜3%で破裂の危険があると言われています。しかし、脳動脈瘤は大きさ、発生場所、形、性差や年齢、生活習慣、家族歴などにより、その破裂率は少しずつ異なると言われおり、それぞれの患者さんに合わせた説明と治療方針を必要となります。
検査により見つかった脳動脈瘤 |
実際の脳動脈瘤(赤く膨らんでいる) |
脳動脈瘤が見つかった方はどうすればよいか?
一般に脳動脈瘤は
- 大きさでは5mm以上で4mm以下より破裂しやすく、
- 発生場所では前交通動脈瘤、脳底動脈先端部動脈瘤、内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などが他の脳動脈瘤より破裂しやすいと言われ、
- 形状は風船状でなく、“でこぼこしている”“コブの上にコブがある”方が破裂しやすい。
と言われています。また男性より女性、高齢になるほど破裂の危険は高く、高血圧、喫煙、大量の飲酒なども危険因子となります。
また、年間の破裂率が押し並べて1%と言っても、20-30年経てば単純に将来の累積破裂率は20%、30%と高くなります。
私たち脳神経外科医は患者さんのこれらの所見や社会的背景を考慮し、治療を行う必要性が高いのか、あるいは様子を見ていってよさそうなものかを説明させていただいています。小さい動脈瘤や破裂しづらい場所の動脈瘤、ご高齢の方などは定期的な検査を行いながら、動脈瘤の大きさや形状に変化がないか確認しています。
しかし、治療の必要性が高そうな患者さんには、その根拠と治療法の選択(2種類あります)、合併症の危険などをお話して、よく考えていただきます。
脳動脈瘤の治療方法
脳動脈瘤の治療方法は現在2つの方法があります。1つは開頭して脳動脈瘤に直接クリップを掛け、動脈瘤に血液が入らないようにする方法(開頭脳動脈瘤クリッピング術:図1)と、もう1つは血管の中からプラチナ製のコイルを動脈瘤内に詰めて血液が入らないようにする方法(血管内コイル塞栓術:図2)です。どちらかが治療として優れているということはなく、動脈瘤の場所や大きさ、形により治療の向き不向きがあるため、それぞれの患者さんに合わせて、治療をお勧めしています。
図1:開頭クリッピング術 |
図2:血管内コイル塞栓術 |
開頭脳動脈瘤クリッピング術は40年以上の歴史があり、動脈瘤の根治性(完全に動脈瘤をつぶすこと)において確立された治療法で、様々な動脈瘤に対応できますが、近年では脳の最深部の動脈瘤には血管内コイル塞栓術を行う病院が増えています。
血管内コイル塞栓術は、1990年代より徐々に発展してきた治療法ですが、脳の深部の動脈瘤に対して治療効果を発揮出来ますが、動脈瘤の根元(頚部、ネックと呼びます)が広いものや、10mm以上の大型の動脈瘤にはやや不向きと言われています。
このように当院では個々の患者さんに合った治療方針を患者さんと一緒に考え、行っています。もし病状説明や治療方針についてご不満やご心配があるようでしたら、他の病院をご紹介すること(セカンドオピニオン)も可能です。ご希望がある場合は外来担当医にお申しつけください。
16mmの右内頚動脈-後交通動脈瘤 |
クリッピング後に動脈瘤は消失 |