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複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)について

複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)とは「その文化において通常予期される範囲よりも、悲嘆に関連する症状の強度と持続時間が過度であり、それによって実質的な生活の支障をきたしている状態」であると言えます。この臨床的状態は、遷延性悲嘆、外傷性悲嘆、病的悲嘆など様々な用語が当てられ、研究者によってその定義も様々でした。

複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)については既に広く研究がなされており、その結果、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)は心理社会的なケアが必要な状態として捉えられるようになってきました。

その結果、DSM-5においては“持続性複雑死別障害 Persistent complex bereavement disorder”として、精神障害として位置づけられるようになりました。これまでの様々な調査から、死別を経験した人の2.4~4.8%がこの状態になる可能性があると考えられます。また、2018年に改訂されたICD-11、2022年改訂されたDSM-5-TRでは prolonged grief disorder として精神障害に含まれることになりました。

複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)は他の心身の疾患や生活機能の悪化につながることも、研究によって明らかになっています。例えば、強い悲嘆が半年以上続いている複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)の人は2,3年後も同じように強い悲嘆の状態にある可能性が高いことが報告されています。他にも、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)はうつ病や心的外傷後ストレス障害といった精神疾患や、高血圧や心疾患などの身体疾患、さらには、生活の質の悪化や自殺念慮の高まりにつながることが報告されています。このように、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)はそれ自体がとてもつらい状況であると同時に、様々な健康リスクにつながることがわかってきました。

また、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)は抑うつやPTSDの症状とは明確に区別されること、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)の人に特有の脳の機能変化が見られる可能性があること、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)に焦点を当てた心理療法によって複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)を和らげることができることがわかってきました。これまでの研究では、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)を測定する尺度として、19項目からなる複雑性悲嘆質問票(Inventory of Complicated Grief; ICG)が最も頻繁に使われています。研究上では、操作的には、ICGの得点が26点(Prigerson et al. 1995)あるいは30点以上(Shear et al. 2005)をもって複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)とみなす研究がほとんどです。また、スクリーニング用の尺度としては、5項目からなる複雑性悲嘆スクリーニング尺度(Brief Grief Questionnaire)があります。どちらの尺度も、日本語版を当研究グループで作成し、信頼性と妥当性の検討を進めています。