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検体とりあつかいの基礎知識

胎児診断における採取検体のとりあつかいの基礎知識

                                  (室月 淳 2014年3月12日)

これは宮城県立こども病院産科病棟の勉強会のための資料としてつくったものです.

 最初は基本知識の確認,国試の復習です

血液検査用抗凝固剤の知識

EDTA

EDTAは二価金属イオンを不活化する強力なキレート剤.血液が凝固するときに必要なカルシウムイオン(プロトロンビン⇒トロンビン)をキレートして凝固を抑制する.おもに血球計算用

EDTA採血管内でまれに血小板が凝集する場合があり,これを自動計測器にいれると血小板数著減としてカウントされてしまう(偽性血小板減少症pseudothrombocytopenia).このような場合には,ヘパリン採血管またはクエン酸ナトリウム採血管で再検する

EDTAのそのほかの作用として,赤血球,血小板の膜の保護,DNA分解酵素の活性阻害(DNA分解酵素は,マグネシウムなどの金属イオンの存在が活性発現に必須だが,EDTAはそれをトラップする),リンパ球の増殖の抑制(PHAによるリンパ球幼若化反応を著明に抑制し,PHAで刺激しても全く分裂しなくなる←細胞分裂にはCaが必要)

 

ヘパリン

アンチトロンビン(AT)の作用を高めることで凝固しない検体を作成.おもにガス分析用

EDTAやクエン酸はpHを変化させるために,動脈血ガス分析には使いづらい

ヘパリンは遺伝子増幅反応(とくにPCR)を阻害する

高濃度のヘパリンでも血小板が凝集することがある

PUBSによる胎児血についてさまざまな検査をおこなうときはヘパリン採血でおこなうことが一般的である.試験管や注射器にヘパリンをいれすぎないよう注意.希釈のほかにさまざまな影響をおこす可能性がある

 

クエン酸

EDTAほど強力ではないが,カルシウムイオンをブロックする作用がある(クエン酸NaはCaと塩を形成).カルシウムイオンを添加することで凝固が再開し,何秒で固まるか(凝固時間)を検査する.血液凝固検査(PT、APTTなど)や赤沈用

クエン酸は血球容積を変化させる(血球計算用には不適)

 

フッ化ナトリウム(NaF)

NaFは解糖系をブロックするため,採血後にも血糖値が低下しない.血糖検査用NaF単独では溶血が起こりやすいため,ほとんどの場合でEDTAを付加されている

 

ACD液/CPD液

おもに輸血用血液のための抗凝固剤

 

 ここから産科病棟用.胎児診断のための応用へ

  • 羊水穿刺
  • 絨毛生検(CVS),あるいは流産/出生直後の絨毛/胎盤検体
  • 超音波ガイド下臍帯穿刺(PUBS),あるいは出生直後の臍帯血採取
  • 胎児腹水・胸水採取

 

病理組織検査

ほとんどがフォルマリン固定(まれに凍結固定)

ただし一絨毛膜双胎の胎盤では,病理提出前に胎盤表面の血管の走行および吻合の有無をルーティンでみるので,ビニール袋にいれて冷蔵か,常温でそのまま置いておく(フォルマリン固定したり凍結すると,血管の観察ができなくなる)

フォルマリン固定をすると,肉眼観察もDNAのための検体採取もなにもできなくなるため,固定する前に最終確認を

 

染色体検査

染色体をみるためには細胞(おもにリンパ球)を培養増殖させる必要があり,そのため検体の細胞を生かしておかなければならない.凍結したりフォルマリン固定すると組織や細胞は死んでしまい染色体検査は不可能となる

血液の場合,EDTAは細胞増殖を阻害する作用があるため,かならずヘパリン採血をおこなう.

羊水は24時間以内に培養開始することが望ましい

清潔操作が必要.もしコンタミすると培養時に細菌が増殖して検査不能となる.

保存は常温ないしは冷蔵(冷凍すると組織は死ぬ.冷蔵で雑菌の繁殖を抑制する)

 

遺伝子検査用

組織よりDNA抽出をおこなう.DNA は2重らせんでできている長い生体高分子であり,検体採取後にどんどん機械的に,あるいはDNA分解酵素により細かく切断されていく.それを最小限にしたい

そのために凍結,EDTA(DNA分解酵素阻害)など.採血はかならずEDTAで

ヘパリンは解析のときのPCR反応を阻害するので用いない

DNAではなくRNAを検査するとき(ウイルスRNA検査など).RNAはもっとも壊れやすいので,採取したら−70度(−20度)に保存し,ドライアイスで送付する

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カウンタ 217602(2014年3月12日より)