第128回
2017年8月7日

Postmortem CT Interpretation Short Course 2017 (VIFM)について

島根大学医学部 法医学講座
助教 木村かおり 先生

島根大学医学部附属病院Aiセンターは2011年6月に開設され、ご遺体専用のCTが設置されており、2016年3月までに2,000件以上のAi検査が行われました。対象者は死亡退院された患者さんや医学生の解剖実習のために献体された方が含まれており、そのうち我々法医学者が関与する警察等の司法機関から依頼のあるご遺体は年間約50体です。法医解剖への補助診断としてAiを活用しており、ときには法医解剖を行わずAiのみで死因を特定していますが、法医学者をはじめとして関係する放射線科医や診療放射線技師は臨床放射線学、独学、経験を基に診断しているにすぎず、死後画像診断に特化した教育を受けたことがありません。そのため、死後画像診断に関する知識を深め、今後の死後画像診断にさらに貢献できたらと考えオーストラリア、メルボルンにあるVictorian Institute of Forensic Medicine (VIFM) 主催のPostmortem CT Interpretation Short Course(7/25~28)に参加しました。

このコースは今回で5回目の開催となります。3年前には吉田真衣子先生(現 千葉大学法医学)が第105回Ai1000字提言としてご自身の体験を配信されています(VIFM(メルボルン)のPostmortem CT Interpretation 3 Day Courseに参加して)。今後の講義内容改善に役立てるため、1日の講義終了後にはその日の講義内容についてのアンケートが配られていました。そのため、3年前と比べ講義内容もさらに充実したものになっていたようです(昨年のコース参加者のうち2名は今年も受講しておられましたが、昨年と全く同じ内容ではなくとても勉強になったと言っておられました)。まず、今年のコースは4日間に延長され、1日目は法医学者と放射線科医の2グループに分かれ、法医学者は放射線医学について、放射線科医は法医学についての基礎講義がありました。2日目以降は法医学者と放射線科医が合流し、一緒に受講しました。トピックスはPostmortem CT (PMCT) のアーチファクトから始まり、頭部、胸部、腹部、骨盤、筋骨格等の部位別PMCT所見、小児のPMCT、PMCT血管造影、裁判におけるPMCTの重要性や提示方法等、実際のPMCTを読影する際に役立つ情報が満載でした。VIFMでは2005年にCTが設置されて以来、6万体以上のご遺体がスキャンされており、その膨大なデータから臨床放射線学とは異なるPMCTならではの所見、読影時に陥りやすいピットフォール等を実際の症例を基に説明され、理解しやすい内容となっていました。また、講義だけではなく、VIFMで普段使用しているワークステーション(syngo.via, Siemens)を用いて、法医学者と放射線科医がペアとなり2人で35症例の診断も行いました。

コース期間中に講義プリントのような配布資料はありません。初日にシラバスや講師の紹介が入った冊子と共にメモ取り用のレポート用紙1冊を受け取り、必要に応じてメモを取りました。コース終了後約1週間すると、google cloudからPDFファイルとして講義スライドがダウンロードできるようになっています。私はダウンロードしたPDFファイルに自分のメモを書き加えて保存しました。復習にもなりますし、もう一度確認したいと思ったときに参考になります。

今年の参加費は2,750オーストラリアドル(およそ25万円)で、講義だけではなく朝食、昼食、モーニングティーやアフタヌーンティー(午前、午後の休憩)、1日目と3日目の夕食も含まれていました。夕食はVIFMから徒歩5分程のレストランにて懇親会のような場が設けられており、その他の朝食等はVIFM内(講義室の前)に用意していただいたので建物外へ出歩かずに済みました。宿泊先ホテルは、事前にVIFM近辺のホテル情報を頂いていましたので、ネットで予約することができました。宿泊費は1泊1万5千円~2万5千円程です。私が宿泊していたホテルのすぐ隣にはEureka Skydeck88という南半球で一番高いタワーがあり、フリーだった2日目の夕方に展望台からメルボルンを見渡すことができました。ホテル横にはセブンイレブンもあり、日本のコンビニに比べると商品は少ないですが便利でした。また、オーストラリアは日本よりもカード社会のようです。ゆうちょの外資宅配サービスを利用してオーストラリアドルの現金を持って行きましたが、現金はほとんど使用せずクレジットカード1枚だけでも良かったかなと思います。

個人的にはアメリカに10年住んでいたこともあり英語は問題ないと思っていましたが、やはりアメリカ英語とオーストラリア英語では発音が異なり、オーストラリア英語は聞き取りにくかったのですがなんとか理解できました。オーストラリア英語は解りづらいかもしれませんがすぐ慣れると思います。

興味のある法医学者、放射線科医、診療放射線技師の先生方、是非、来年以降のコースへの参加を検討してみてください。なお、来年は同じメルボルンで開催される国際学会ISFRI(International Society of Forensic Radiology and Imaging,2018年5月10~12日)に合わせて,5月3~9日の間,身元確認(DVI)・PMCT・小児等各種コースが開催される予定です。