第127回
2017年7月3日

白骨鑑定とAiとの連携への期待

警察庁 科学警察研究所 生物第二研究室
今泉和彦先生

警察では科学警察研究所(科警研)をはじめ、全国都道府県警察におかれている科学捜査研究所(科捜研)において白骨死体の個人識別が行われている。DNA型検査が一般的となった今、同検査が実施されることもあるが、対照するための親族のDNA資料が得られない場合も多い。

白骨死体からは、形態学的検査により性別、年齢、身長等の情報が推定される。また、頭蓋骨があり、該当者と思料される人物の写真が入手できたならば、両者をPCモニター上で重ね合わせる「頭蓋-顔写真スーパーインポーズ法」により身元が確認される。現在これらの検査には、Aiで扱われるCT画像が深く関わっており、病院やAiセンター等より多くのご協力を頂いているところである。

形態観察(骨計測を含む)による各種検査には、50年あるいはそれ以上昔から用いられているものが少なくない。これら検査は、検討資料を増やす等の再検証を経て今に至っているが、近年はヒトの骨標本を得ることが極めて難しくなっている。一方で、日本人の体格は大きく変わり、性別や身長推定のための基礎データの更新が必須となっている。また、高齢化が進み、過去にはあまり見られなかった高齢者の白骨死体に遭遇する機会も増え、60歳代を超える骨の加齢変化の検討も必要となってきた。

そこで当研究室では、筑波剖検センターと筑波メディカルセンター病院の協力により、死後CT画像を用いた各種検討を行っている。おおむね全身が撮影されたCT画像から骨格を抽出し、各骨について、加齢に伴って粗となる骨表面や、境界が明瞭となる関節部周辺等に着目し、既知の年齢との関連性を検討している。ひと昔前までは過去の研究報告や実際の鑑定経験の蓄積に頼るしかなかったところ、CTにより実物に近い状態の骨が多数観察できることの意義は極めて大きい。また、骨の形状は死後変化の影響を受けないことと、死後CTでは多スライス撮影による精細な形状が得られるという利点からも、白骨鑑定技術の充実・進歩に向けてAiの普及に寄せる期待は大きい。

当方とAi領域が連携することで期待されるもう一つの効果として、上記「頭蓋-顔写真スーパーインポーズ法」の普及がある。従来、本法は実物の頭蓋骨と顔写真をビデオモニター上で重ね合わせることで行ってきたが、軟部組織の除去に手間を要し、機材も高価であったため科捜研に普及することはなかった。しかし今では、白骨化の有無に関わらずCTにより迅速に頭蓋の3次元形状が得らるようになったことから、警察ではDICOM画像を3次元形状化して顔写真と重ね合わせるソフトウェアの配備を全国科捜研に対して進めている。このソフトウェアは現在約15の都道府県に導入され、捜査課を通じてAi関連諸施設に頭部CT撮影を依頼し、提供されたDICOM画像により検査を実施する科捜研が増えつつある。

以上のように、白骨死体の鑑定においては、研究資料の充実、実際の検査への活用という点でAiから受ける恩恵は極めて多い。特に後者のスーパーインポーズ法への活用は今後全国的に進むものと考えられる。この場をお借りして、関連諸施設の先生方には、撮影のご協力等、何卒よろしくお願い申し上げます。