第129回
2017年9月12日

救急医学はAiを死因の究明だけで終わらせない

独立行政法人国立病院機構
北海道医療センター救命救急センター救急科
救命救急部長 七戸康夫先生

救急医学は臨床医学の原点である。

突然に生命の危機が訪れた患者さんを如何に救い、如何に障害を減らし、如何に社会復帰させるか。常に一瞬のぎりぎりの判断が求められ、そしてその結果は即座に目の前にもたらされ、しかし何と残念なことに悪い知らせの方が多いのである。我々は常に振り返る。何とか救えなかったか。何が足りなかったか。何を知るべきであったか。救えなかった患者さんからそれを学ぶ。

心肺停止症例の救急蘇生は我々の重要な仕事である。総務省消防庁の統計では年間の総死亡数が130万人弱で、心肺停止として救急搬送された方が年間12万6000人、そのうち社会復帰されるのは数千人であるため、日本人のほぼ10人に1人が突然死でお亡くなりになられているのである。我々救急医は、残念ながら救えなかったその心肺停止の患者さんの死因が知りたいのである。

勿論、致命的な内因性疾患や外傷、あるいは加齢や回復の困難な慢性疾患の終末期であり、現在の医学では救命不可能な死因であることが多い。しかし中にはその死因が明らかになればそれを振り返り、「あの時こうしていれば」と言う経験が次に生かされるかもしれない。特に、外傷性心停止の場合は極めて低い救命率ではあるが、穿通性心損傷などは的確な救命治療が行われた場合には社会復帰が可能な病態である。悲しい経験を幾つも積み重ねてわずかな救命例に出会う。

先日我々の施設でも初めての穿通性心損傷による外傷性心停止の社会復帰例を経験した。これまで何例もの同様の症例に出会った経過で死後画像を検討し、ERにおける治療戦略を構築してきた賜物である。確かに努力や投資から考えるとわずかな成果かもしれないが、大きな喜びであった。

Aiに関わる医師職はさまざまな領域に跨っている。法医学、行政職、病理学、放射線診断学、そして救急医学。我々救急医はAiに関わる医師の中では「生きている」患者さんに一番近い領域であり、死後画像診断を用いて「次の患者さんを救う」ことの出来る唯一の人間である。他の専門領域の方々と情報交換することにより、さらなる救命率の向上、そしてそのためのデータベースの構築など、救急医がAiを通じて行わなければならない責務は多い。そのためにこれからも私に課せられた仕事に責任もって取り組んでゆくつもりである。