第130回
2017年9月12日

医療事故調査制度における放射線科医の関わり

Ai学会理事長(千葉県がんセンター医療局診療部長)
髙野英行先生

私は平成26年3月よりAi(オートプシーイメージング:死亡時画像診断)学会の理事長を拝命している。その関係で、Aiのコンサルトを受けることが多く、最近は、医療事故調査や訴訟における依頼が多いので、その有用性について述べたい。また、一方で、画像診断レポートが付いているにも関わらず、弁護士や裁判所からの鑑定依頼も数多く受けている。

医療事故調査制度は、医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を医療事故調査・支援センターが収集・分析することを、医療法に位置づけ、医療の安全と再発防止につなげる仕組み等を確保するものです。医療機関には、WHOガイドラインに基づき、管理者が「非懲罰性」「秘匿性」を担保することにより、医療従事者との間で、中立性(分離・公平)、透明性(情報の開示・共有)、公正性(科学的な調査)が求めることができる。つまり、医療従事者の証言が、本人の不利にならないことを担保することにより、医療安全への取り組みを行う。その現場でのAiの活用法について述べる。

今回の前身の制度として、診療関連死モデル事業が行われ、解剖重視だが解剖で死因が特定される事例は少なく、死亡まで時間が経過すると役に立つ所見は見つからないと報告された。そのため、Aiを活用することになった。解剖が医療事故の死因究明に役立たない理由として以下が考えられる。医療事故を疑った時点で、医療者は、再手術や延命などを行う。これにより、死亡した時点では、修飾、治癒するため、死因かどうか分からない。一方、Aiは生前の画像を含めて、連続的な解析が可能である。術後出血は、血液検査やカルテだけ見ても手術が主因であると判断できない。手術部位の出血と断定できるのは、CTなどの画像診断だけである。また、術部位の陰性の所見を残すためのAiだけでも十分であるが、全身スキャンで、他の部位の異常を見つけることである。たとえば、腹部のバイオプシーの後に、脳動脈瘤破裂で亡くなった場合などが想定される。つまり、「医療事故」でない証拠として、全身検索結果を残すことが必要です。頭部の解剖が難しい日本では、Aiが必須である。解剖は、時間的(事故直後に解剖できない)に、空間的(全身を解剖できないことも多い)にも制限が多いが、Aiは全身検索が容易で、生前画像との連続性がある。

この様な医療事故調査において、画像診断レポートのみでは、意味が通らないかという理由について考察したい。まず、画像診断レポートは鑑別診断を上げるなど途中経過の事象のピックアップであるが、Aiに求められるのは、最終診断として、その経過をきちんと説明できることである。そのため、画像診断レポートでは、重要視していない陰性所見が経過として重要であったりするなど、視点を変えた再読影が必要になる。その時、デジタルの画像診断はタイムスタンプ的な役割をする。医療事故調査におけるAiは、死亡時の画像診断であり、生前のデータ、臨床情報、画像も参照し、時間経過を基に読影しなおすことが可能である。つまり、死亡までの統合的画像診断である。また、医療事故調査におけるAiは、遺族側目線で、性悪説的な解釈が必要である。争点になりそうな部位では、明確な客観的証拠(事故が無いという証拠)を示すために、遺族側に納得いただける撮影方法や第三者読影をも含めた院内体制作りも大切である。