第131回
2018年1月24日

新潟大学死因究明教育センターについて

新潟大学大学院医歯学総合研究科
法医学分野・死因究明教育センター
高塚 尚和先生

本邦では,力士傷害致死事件,婚活詐欺事件,湯沸器死亡事故等の見逃し等を契機に,死因究明体制を強化する気運が高まり,平成23年3月に発生した東日本大震災では身元確認が困難を極めたことから身元確認体制を整備する必要性が明らかとなった。また,人口高齢化による死亡者数の増加及びライフスタイルの多様化等による孤独死の増加の結果,警察における死体取扱数は飛躍的に増加している。このような状況を踏まえ,我が国では,平成24年9月に,「死因究明等の推進に関する法律」が施行され,平成26年6月には,「死因究明等推進計画」が閣議決定された。しかし,本邦では,死因究明に従事する医師が約200人余,法歯科学を専門とする歯科医師が約20人余と非常に不足しており,死因究明に係る人材養成が喫緊の課題となっている。

新潟大学では,平成29年7月,法医学分野内の「死因究明センター」を改組して,大学院医歯学総合研究科内に,死因究明に係る人材養成及び高度な死因究明を可能とする「死因究明教育センター」を設置した。従来の死因究明では解剖病理検査に重きを置く傾向が見られたが,死因究明では画像検査,薬毒物生化学検査,歯科検査等の各検査も必要であり,さらに近年,社会的問題となっている子ども虐待やドメスティック・バイオレンス等に対応するため生体検査(キズの検査)も求められている。このようなニーズに応えるため本センターでは,「法医解剖部門」,「薬毒物生化学部門」,「画像診断部門」,「歯科法医学部門」,「社会法医学部門」の5部門を設置し,人的資源は非常に不足しているが,死因究明で求められる諸検査に対応できる体制を整備した。その他,死因究明では法的知識が欠かせないことから法学部,大規模災害では災害医療チームとの連携等が求められることから災害医療教育センター,認知症と犯罪・事故とは非常に関連が深く,今後,認知症が関連する事件・事故がこれまで以上に増加することから脳研究所神経内科学分野,同神経病理学分野の学内各部局と連携し,新潟大学が有する総合力を結集して死因究明ならびに人材の養成を目指している。教育プログラムの対象は,医師,歯科医師,診療放射線技師,検査技師等の医療職のみならず,検察,裁判,警察,海上保安,地方公共団体等の各職種も対象としており,教育方法はe-learningを主体とすることから,全国から多くの方々が受講されることをお待ちしている。

死因究明が注目されることになった事件の一つが,本県出身力士の傷害致死事件であったことから,死因究明教育センターが核となり,新潟が死因究明のモデル地区となることを目指している。会員の皆様方には,今後ともご支援,ご理解を賜りますようどうかよろしくお願い申し上げます。