VIFM(メルボルン)のPostmortem CT Interpretation 3 Day Courseに参加して
Ai学会員の皆様、こんにちは。杏林大学病院放射線科の吉田真衣子と申します。(Aiセンターの読影協力医もさせていただいております)
今年の8月6-8日の3日間、メルボルンにありますVIFM(Victorian Institute of Forensic Medicine)で行われた「Postmortem CT Interpretation 3 Day Course」と題された死後画像レクチャーに参加してまいりましたので、その体験、内容について御報告いたします。
約3日間のレクチャーは、8:45~18:00まで、たっぷりと10のセッションに分かれていました。内容は、Session1: Basics of CT, Session2 :Artefacts of CT, Session 3 :Post Mortem Angiography, Session 4 :Abdominal CT, Session 5 :Neuro CT, Session 6 :Pediatric CT, Session 7 :Forensic Aspects of CT, Session 8 :CT as Evidence, Session 9: Victim Identification, Session 10: Interactive Session 、さらにそれぞれが2-3の細かいトピックに分けられ、法医学者・放射線科医の双方の参加者が死後画像を読影するときに必要な知識が一通り網羅されていました。レクチャラーは、VIFMの’Forensic Radiologist’であるChris O’Donnell 先生を中心として、法医学者や小児放射線科医、Coronerなど多彩な専門家が登場するという非常に充実した内容です。(レクチャラーの一人であったVIFMの准教授David Ranson先生は、折しものウクライナ上空でのマレーシア航空の撃墜に関しての身元確認作業のために不在でした)
一方の参加者はといいますと、Forensic pathologistとRadiologistが約半数ずつ、出身は、オーストラリア国内やニュージーランドなどの近場からの参加者がほぼ8割、その他はカナダ、シンガポール、南アフリカ、スリランカ、日本(私)という構成でした。
初日の冒頭に短く自己紹介をすることになりその際、「My name is very easy to remember. My name ‘Maiko’ just sounds like ‘Michael Jackson’s Michael’. So you can call me ‘Michael’, I am female though..’ と挨拶をし、無事に笑いをとって皆さんに名前を憶えてもらうことに成功しました。個人的にはこうした細かい努力は大事にしております。
閑話休題。
イギリス英語ほどではないもののオーストラリア訛りを聞きなれるのに少々時間を使いましたが、レクチャー自体はvisual aidもありますし、画像は見慣れているものが多いから聞き取りは特に問題ありませんでした。Q&Aタイムの参加者とレクチャラーとの熱のこもったやりとりはさながら白熱教室のごとくで、法医学者の視点からの意見、画像診断医からの意見が、対等かつ正当な好奇心をもって交わされる場というのは、大変刺激的で有意義であり、日本でもこんな場の形成がされると理想的だなァと夢想する瞬間でした。
レクチャー以外のお楽しみとしては、Sessionの合間毎に挟まれるコーヒータイム(情報交換がすすむ、雑談もまた楽し)、1日目の夜にはバーで一杯、そしてハイライトの2日目の夜の懇親会、これは中心街の川沿いのJapanese Restaurant(Sake Restaurant)で行われました。参加者で日本人は私ひとりということもあり、Chris先生やその他の皆さんから、「これは日本人がたべてもほんとに日本食か、Maikoはどう思うか」「いらっしゃいませ、ってどういう意味?」「日本人は実際どのくらい鯨を食べているのか」などの質問攻めにあいまして、場の和んだ空気や当方の飲酒力も手伝い、実に盛り上がった楽しいひと時を過ごしました。このように大変勉強にもなり、交流の場としても楽しく、視野も人脈も広げることのできるSummer Course at VIFM。来年以降も数年継続し(5年は続けるそうです)、今年よりは規模を大きくするということです。(今年は30人限定でした)ご興味のある方にぜひ、お勧めいたします。
報告の最後にお礼を。今回の参加にあたり、慶応大学の飯野守男先生に大変お世話になりました。飯野先生はVIFMへの留学経験がありChris先生は飯野先生の元Boss、飯野先生を介してあらかじめ日本からMaiko Yoshidaという放射線科医が参加するということを連絡していただいていたことで、滞在がより濃密になりました。人脈の大事さも今回改めて学びました。個人的には、Chris先生は2008年のClinical Radiologyに発表された「Post-mortem radiology –a new sub-speciality? 1)」と題された論文を読んで以来のファンであり、その憧れの存在に身近に接する機会をもてたことは自分のmotivationの何よりのエンジンとなりました。
Chris先生のその論文には、臨床的な知識のみに頼って死後画像を読むことの危険性、CTやMRIは今後ますます法医学の現場で日常的に使われるようになるだろうという予言、その中で「forensic radiologist」というsubspecialtyが成熟してゆくという言及がなされています。日本の死後画像の現状として、まだまだ「放射線科」「放射線科医」の死後画像に対する理解や熱意、関与が希薄であるという印象をもっております。その現状が少しづつでも変化してゆくように祈念しつつ、Chris先生の論文の締めの文章をここに引用して、報告記を閉じたいと思います。
In order for radiologists to be an integral part of this important development in forensic investigation, radiological organization must recognize the subspecialty of post-mortem radiology and provide a forum for radiologists to advance scientific knowledge in the field.
- 1) C. O'Donnell, N. Woodford, Post-mortem radiology—a new sub-speciality?, Clinical Radiology, Volume 63, Issue 11, November 2008, Pages 1189-1194