神経鞘腫 schwannoma
- 脳神経と脊髄神経からでる良性腫瘍です
- 発生した脳神経の名前を付けて呼びます
- 聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が一番多いです
- 次に多いのが三叉神経鞘腫です
- 動眼神経鞘腫,顔面神経鞘腫,舌咽神経鞘腫,迷走神経鞘腫,副神経鞘腫,舌下神経鞘腫があります
- 良性腫瘍ですから治療をあわてる必要はありません
- 聴神経腫瘍と同じように放射線治療で治りますから,手術をするかどうかはとても慎重に考えます
- 手術は難しいし,意外につらい合併症が多いので手術経験の多い脳外科医を捜しましょう
- 三叉神経鞘腫は手術摘出するべきです,でも,ひどい顔面の痛みが残る危険あり
- 顔面神経鞘腫は,安易に手術をすると完全顔面神経麻痺になりますから,放射線治療をします
- 動眼神経鞘腫を手術すると片方の目が動かなくなって瞼が閉じて使えなくなってしまいます
- 頭蓋底の頚静脈孔にできる腫瘍を頚静脈孔腫瘍といいますが,これには舌咽神経鞘腫,迷走神経鞘腫,副神鞘腫が含まれます
- 頚静脈孔腫瘍(迷走神経鞘腫)では,嚥下障害(ご飯がむせての見込めない)が後遺症として心配ですから,あまり手術しませんし,かなり大きなものでも放射線治療でいいと思います
- 手術治療の目的は,いまある症状を良くすることか,放射線治療できるように腫瘍サイズを小さくすることです
注意しなければならない水頭症
- 神経鞘腫は,頭の中に水がたまる交通性水頭症 (髄液吸収障害)という合併症を生じることがあります
- 水頭症が進行すると,意欲がなくなって精神機能が低下して認知症になったり,歩行が不安定になったり,おしっこを失禁したりする症状が出ます
- 放射線治療をしてもしなくてもこの合併症は生じることがあります
- その時は、シャント手術といって頭の水(髄液)をお腹の中にチューブを入れて流す簡単な手術をしなければなりません
下の項目をクリックすると詳しい説明がみれます
聴神経腫瘍,前庭神経鞘腫 (ここをクリック)
三叉神経鞘腫 (ここをクリック)
頸静脈孔腫瘍,迷走神経鞘腫 舌咽神経鞘腫(ここをクリック)
神経線維腫症2型と神経鞘腫症 (ここをクリック)
顔面神経鞘腫 facial schwannoma(ここをクリック)
悪性末梢神経鞘腫 MPNST(ここをクリック)
舌下神経鞘腫(ここをクリック)
副神経鞘腫(ここをクリック)
ここから下は余分な知識
神経鞘腫 schwannomaの一般的な知識
- 神経鞘腫は末梢神経のシュワン細胞より発生する腫瘍です
- 原発性脳腫瘍中およそ10%と頻度の高い腫瘍で,成人20〜50歳代に多いです
- 前庭神経(第8脳神経いわゆる聴神経)に最も頻度が高く,次いで三叉神経,稀に顔面神経,舌下神経,迷走神経(頚静脈孔腫瘍)にも発生します
- 脊柱管内では,頸部や腰部の脊髄後根にも発生します
- 両側の聴神経(第8脳神経)に腫瘍がある場合や多発性神経鞘腫では,神経線維腫症2型 neurofibromatosis type 2 (NF-2)が疑われます
- 神経鞘腫は,第22染色体長腕上のNF-2遺伝子の欠失あるいは変異によって発生するとされています
- この細胞骨格を形成する蛋白 merlinをコードするNF-2遺伝子は,髄膜腫や脊髄上衣腫の発生にも関与すると推定されています
神経鞘腫の病理(他のページにあるのでここをクリック)
Cushing chronology
前庭神経鞘腫の多くは内耳道内より発生し,内耳道を拡大し小脳橋角部へ発育するためその症状発現には一定の特徴があります。まず耳鳴に聴力低下が加わり次第に進行して,平衡障害としてめまい感,歩行不安定,眼振,小脳の圧迫症状として腫瘍と同側に小脳性運動失調が出現します。続いて,近接の脳神経である三叉神経(顔面のしびれと痛み),外転神経,顔面神経の障害も加わり,最後には脳幹を圧迫して頭蓋内圧亢進をきたすというものです。これらの症状発現経過は, 古典的なCushing chronologyとして知られますが,現代ではここまで進行する例はありません。