脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。

テモゾロマイド(テモゾロミド,テモダール)temozolomide

テモゾロミドという商品名で,薬価が4割になりましたo (^-^o)
2018年からは,3割負担の患者さんが300mg/日の使用で,月の薬剤費が7万5,000円から3万1,500円まで下がりました (^o^)ノ
商品名 テモダール Temodal(先発),テモゾロミド Temozolomide(後発,ジェネリック)
  • 口から飲む経口剤という制がん剤でカプセルに入っています,飲めない患者さんには注射でも投与できます
  • 適応症は悪性神経膠腫悪性グリオーマ)です
  • 悪性神経膠腫の定義は広いですし,膠芽腫,びまん性星細胞腫,乏突起膠腫,退形成性星細胞腫,退形成性乏突起膠腫,髄芽腫,脳幹部神経膠腫なども含まれます
  • 欧米では膠芽腫と退形成性星細胞腫だけに認可されていて,それらの腫瘍には標準的治療薬とされています
  • 例えば膠芽腫には2とおりの方法で使われます
  • 一つ目は主に入院で,放射線治療期間中に照射の前の日に毎日飲む方法で,1日に体表面積あたり75mg (75mg/m2)使います
  • 2つ目は主に外来で,維持療法といって28日(4週間)に5日間だけ飲む方法で,1日に体表面積あたり100から200mg (100-200mg/m2)使います
  • 代表的な使用法で,これをStupp regimen スツップレジメンと呼びます
  • 空腹時に飲むのが原則なので,お腹いっぱいの時には飲まないようにしましょう
  • 患者さんが元気であれば働きながら飲んで行くこともできます
  • 維持療法はだいたい月に1回で6ヶ月とか2年間とか続ける方法です
  • 有効性は後ろの方に書いてありますので読んで下さい
  • 副作用(有害事象)は全般的にとても軽いと評価していいでしょう
  • 軽い骨髄抑制(白血球や血小板の減少),吐き気と嘔吐,便秘,頭痛,体のだるさや頭痛などです
  • 吐き気はテモゾロマイドを飲む前に吐き気止め(ナゼア,カイトリル,ゾフランなど)を飲んでおくと抑えられます
  • 白血球(好中球)の減少は血液検査で見て行きますが,あまり強くでると感染症や出血の危険があるものです
  • リンパ球減少というのに特に注意した方がいいです
  • 骨髄抑制の強いときには間質性肺炎ニューモシスティス・イロヴェチ肺炎(カリニ肺炎とはいいません)という重篤な感染症が生じることがありますから,予防的に抗菌剤(バクタ,ST合剤)を飲むか,ベナンバックスの吸入を定期的にします,それでもだめならサムチレール(アトバコン 1500mg)を服用します
  • この肺炎はステロイド投与をたくさん受けている時,リンパ球の数や機能が低下した時に最も注意です
  • B型肝炎が悪化(再活性化)して重症化することがありますから,肝炎ウィルスを保有しているかどうかを検査してからテモダールの投与を受けます
  • テモダールの使用が長期間になると副作用は強くなってきますから,飲む量の調整が必要になります

テモダールの飲みかた

テモダールはpH 7.4以上のアルカリ性になると効果が無くなってしまう薬です。空腹時は胃の中は強い酸性ですが,胃の中に食物が入っている状態でこの薬を飲むと薬の効果が落ちます。ですから,空腹時に飲まなければならない薬剤です。夜寝る前だと飲みやすいと思います。
カプセルを飲めない小児には,脱カプセルといってカプセルをはずして薬を取り出して飲ませる方法があります。でもこれは抗がん剤に触れることになるので当然お医者さんと相談してどうするか決めます。でもそれしか方法の無い小さな子どもでは工夫して脱カプセルをしなければなりません。カプセルから取り出した薬はリンゴジュース(酸性)か何かに溶かして飲ませます。ポカリスエットなどでもいいですが,アルカリ性の飲料は避けなければなりません。

飲めない場合には,テモダールの点滴静注薬 100mgがあります

投与量などは経口薬と同じですが,90分間かけて点滴します。薬剤費は経口薬の3倍くらいになりますから高額です。

テモゾロマイドの効果を明確にした歴史的な論文

ローザンヌの研究者からの発表です。New England Journal of Medicineというとても権威の高い雑誌に膠芽腫へのテモダールの効果が発表されました。
Stupp R, et al. : Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005
Hegi M, et al.: MGMT gene silencing and benefit from temozolomide in glioblastoma. N Engl J Med. 2005

ヨーロッパとカナダで行われた臨床試験の結果です。573人の患者さんは放射線治療(60グレイ)のみと放射線治療(60グレイ)とテモゾロマイドを併用する群に振り分けられて治療されました。テモゾロマイドはまず75mg/m2の量を放射線治療中に毎日飲むという方法で投与されています。それから150-200mg/m2(5日間服用,28日周期)を1コースとして6コースまで追加します。
追跡期間中央値28ヶ月の時点での全生存期間中央値は,放射線治療単独群が12.1ヶ月であったのに対して,テモゾロマイドを併用した群では14.6ヶ月でした。ちょっと寂しいのですが,テモゾロマイドを併用すると2.5ヶ月の生存期間の延長が得られています。放射線とテモゾロマイドの併用群での2年生存割合は26.5%で,放射線治療単独群では10.4%でした。
副作用としては7%の患者さんにグレード3-4の血液毒性が見られていますが,これはとても軽いものと評価できます。
膠芽腫の腫瘍細胞の中にMGMTという遺伝子があります。この遺伝子は化学療法の効果を消してしまう働きをするということで知られていました。MGMTという遺伝子のプロモーターの部分にメチル化がある膠芽腫をもつ患者さんの方が生命予後がよいことが判りました。プロモーターのメチル化がある膠芽腫に,放射線治療とテモゾロマイドを使った治療をすると,全生存期間の中央値は21.7ヶ月であったとのことです。ところがメチル化がないとテモゾロマイドを追加してもはっきりした効果がないようであるとも書かれています。この事実は,メチル化を調べることによってテモゾロマイドを投与した方が良いかどうかがあらかじめ判るということを示しています。
この2つの論文は,グレード3と4の星細胞系腫瘍(退形成性星細胞腫と膠芽腫)に対して,放射線治療とテモゾロマイドの併用が世界的な標準的治療として用いられるようになるというインパクトを与えました。もちろんテモゾロマイドの服用で得られる効果は大きなものではなくて,この2つの腫瘍型の死亡率がとても高いという事実を覆すものではありません。しかし,この30年くらいの間にほとんど何の進歩もなかった悪性星細胞腫の化学療法に大きな転機をもたらした臨床研究には違いありません。メチル化があるかないかを調べる方法は難しいので,一般化されるのはまだ将来のことになります。

テモダールで生じるスードプログレッション(詳細はここをクリック)

  • 放射線治療とテモダールを一緒に使うとスードプログレッションという現象が生じます
  • MRI検査で一見,腫瘍が大きくなってしまった様にみえるのですが,実は腫瘍再発(早期再燃)ではないのです
  • 逆説的ですが,テモダールが有効な例に認められるものです

テモダールと感染症

  • テモゾロマイドで生じる有害事象の最も有名なのがニューモシスチス・イロヴェチ肺炎です
  • この肺炎の死亡率が高いので予防的に抗菌剤(バクタ)を服用します
  • これとは別にテモゾロマイドは,リンパ球の数を減らしたりリンパ球の活性(機能)を抑えたりします
  • リンパ球はウィルスから体を守る働きをしていますから,テモダールはウィルス性疾患を悪化させることがあります
  • 例えばB型肝炎ウィルスをもっている人(不顕性感染者とB型肝炎の後で治った人)では,B型肝炎が悪化(再燃)して重症化することがあります
  • ですからテモダールを飲む前にB型肝炎ウィルスをもっているかどうかの血液検査 (HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体) をします
  • 感染者ではこれを予防するためにバラクルード(核酸系逆転写酵素阻害薬エンテカビル)を飲んだほうがいいです。

テモダールの晩期有害事象

  • テモゾロマイドはアルキル化剤と呼ばれる仲間の制がん剤です
  • 遺伝子に作用する薬ですからそれ自体で発がん性をもっています
  • 容量依存性にリスクが高くなるので,長期投与で特に問題となります
  • 長期投与がどのくらいの期間かははっきりしません,2年以上という目安もあるようです
  • そのためにテモゾロマイドを服用して数ヶ月から数年後に,,急性白血病 treatment-related acute leukemianon-Hodgikin lymphomaなったという報告があります
  • ほんとの白血病になる前には骨髄異形成 myelodysplasiaという状態になります
  • これは血液検査をすると異常値が出るので発見できます
  • とても稀ですし,テモダールを服用しないと治らない神経膠腫グリオーマがあるのですから,この確率が低い将来の心配をしない方がいいです
  • テモゾロマイドを2年以上投与すると1%くらいの患者さんで白血病などの二次癌が発生するとも言われます
治る可能性の高い小児の脳腫瘍では,長期投与は避けて下さい

テモダールの値段

  • 20mgが1カプセルで3,345円,100mgが1カプセルで16,746円します
  • 体表面積が1.5m2の成人で維持療法に使えば,1日あたり300mgになりますから5万円くらい,月に5日間飲むとして25万円です
  • 医療費が3割負担の患者さんでは,テモダールの薬剤費だけで月に7万5千円の自己負担がかかることになります
  • その他に受診費用とか検査料金とか他の薬代が加算されてきます
  • 高額医療制度というのがあって月にある程度額以上の医療費の自己負担が生じた場合には患者さんの自己負担が軽減されますから,手術や放射線治療を受ける入院中は高額医療になってしまうのでこの値段はあまり気にしなくていいでしょう
  • 問題は退院してから外来で維持療法を受けることを勧められたときの毎月の自己負担額です
  • 幸い2017年に,テモダールのジェネリック(てモゾロミド)が発売されて,値段は半額になりました,それでも高額医療になることがありますから,医療費請求額をしっかり見てください

感染症を生じないための大切なこと

  • 白血球のなかに好中球 neutrophilという細胞があります
  • 好中球数 (ANC absolute neutrophil count) の数が1,500/ml以上であれば,テモダールを200mg/m2で服用できます
  • それ以下だと50mg減量します
  • 徐々に減らしていって100mg/2以下に減量しなければならないようなANCの値になれば中止します
  • ANCが下がりすぎると重症感染症をまねくことがあるからです
  • もっとも重症となるニューモシスチス肺炎は,発熱,悪寒,呼吸困難などの症状をだします,重い風邪のような症状がある場合には疑います
  • ニューモシスチス肺炎を予防するためには,テモダールの服用中にバクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム 400mg,ST合剤)を1日1錠毎日服用します
  • バクタがアレルギーなどで飲めない時には,ベナンバックス(ペンタミジン)の吸入をします
  • ベナンバックスにもアレルギーがある場合には,サムチレール(アトバコン 1500mg)を1日1回服用します

吐き気のコントロール

  • 患者さんがテモダールを飲んでいてもっともつらいのは吐き気です
  • 催吐性リスク分類では中等度とされます
  • 外来投与では,テモダールを服用する前に5-HT3受容体拮抗剤,ナゼアOD錠0.1mg(ラモセトロン),カイトリル錠2mg(グラニセトロン),ゾフラン錠4mg(オンダンセトロン)などを飲んでおくとだいたいの吐き気は抑えられます
  • それでもどうしても吐き気が強い時には,デキサメタゾン8mgを併用することがあります
  • しかし,デキサメタゾンはステロイドなので感染のリスクの特別高い患者さんには避けます
  • アロキシ0.75mg(パロノセトロン)静注とデキサメタゾン8mgを1日目に使用するという方法もあります

小児の悪性グリオーマへの効果について

小児の星細胞系腫瘍には有効な制がん剤はないといっても言い過ぎではない時代が続きました。テモゾロマイドは第2世代の経口アルキル化剤で,成人の退形成性星細胞腫と膠芽腫に対して有効性が認められていますから,小児の治療にも使用できます。
成人例では乏突起膠腫と退形成性乏突起膠腫にテモゾロマイドの高い有効性が報告され,PCV化学療法に代用し得る薬剤であるとされています。小児においても乏突起膠腫系腫瘍はテモゾロマイドに反応する神経膠腫であるのかもしれません。
小児の治療抵抗性悪性神経膠腫と脳幹部神経膠腫に対する第2相試験が欧州で行われました。200mg/m2を5日間連続投与したものですが,登録された55例において有効性は認められないと結論されました。さらに初発例のびまん性脳幹部膠腫29例(年齢中央値6歳)に対し放射線治療後に同様なテモゾロマイドの投与を行った報告では,生存期間中央値12ヶ月で全例が死亡して,テモゾロマイドが脳幹部神経膠腫の予後を改善することはないとされました。
毛様細胞性星細胞腫の第5選択肢として,再発胚細胞腫瘍,PCNSL(脳リンパ腫),髄芽腫・胎児性腫瘍の維持化学療法などで使用されることがあります。しかし,科学的な根拠はまだありませんし,どのような小児脳腫瘍に有効なのかはこれからの臨床研究を待たなければなりません。


ここから下は難しいです

膠芽腫では,6コース以上のテモゾロマイド維持療法に有効性はない

Balana, C: A phase II randomized, multicenter, open-label trial of continuing adjuvant temozolomide beyond six cycles in pati ents with glioblastoma (GEINO 14-01). Neuro Oncol 2020
膠芽腫 159例で無作為試験されました。temozolomideを6コース以上継続しても,PFSとOSに延長はなかったとのことです。有害事象がますだけなので6コースで止めるべきとの結論です。

テモゾロマイドは,IDH変異のある低悪性度グリオーマにhypermutaiton 過変異を誘導する

ASCO 2020でのGralnis Eらの発表です。テモゾロマイドでlow grade IDH mutant gliomaを治療すると,57%でhypermutationを誘導したとのことです。hypermutationは腫瘍の悪性度に比例して増加します。high risk low grade gliomaへの手術後の標準治療は,放射線とPCVであり,テモゾロマイドは代用できないとしています。でも,びまん性星細胞腫 diffuse astrocytoma grade IIにPCVが有効であったことは証明されたことはありませんから,low grade gliomaと一つ括りにする結論は受け入れらません。

グリオーマにテモゾロマイドを使用すると腫瘍細胞の過変異が生じる

Tauat M: Mechanisms and therapeutic implications of hypermutation in gliomas. Nature 2020
腫瘍細胞DNAの変異の多さ mutational burdenは,腫瘍の悪性度にも比例します。10,294例のグリオーマで遺伝子変異の多さ hypermutation を生じる原因が調べられました。DNA polymelaseとmismatich repair (MMR) 遺伝子の欠損が一つの原因です。もう一つは,治療後のMMR欠損です。腫瘍のテモゾロマイドで治療され,かつ化学療法な有効であった患者さんで,このMMR遺伝子の欠損がありました。MMR欠損があるグリオーマでは,T細胞浸潤が少なくて,腫瘍細胞不均質が高く,生存期間が短く,PD-1阻害剤への反応が低かったとのことです。化学療法が腫瘍細胞の過変異を誘発すると結論されています。
「解説」テモゾロマイドはアルキル化剤なので腫瘍細胞そのもののDNA変異が増すということは予想されるものです。免疫治療がグリオーマに有効と証明されたことはありません。抗腫瘍免疫能の低下が生じるからグリオーマが治りにくくなると推測 speculation するのは言い過ぎでしょう。

グレード2のびまん性星細胞腫にテモゾロマイドを使用すると悪性化する?

Choi S: Temozolomideassociated hypermutation in gliomasNeuro Oncol. 2018
びまん性星細胞腫は,グレード3の退形成性星細胞腫やグレード4の膠芽腫へと変わることがあります。テモゾロマイドは壊れた遺伝子を修復する作用を抑制するので,遺伝子変異を招きやすいという欠点があります。テモゾロマイドで治療されたIDH mutantのグレード2のびまん性星細胞腫が,多数の遺伝子変異を有するより悪性度の高いグリオーマ hypermutated phenotype へと進行するという疑いがもたれています。メチレーションを確認しないで安易にグレード2 びまん性星細胞腫にテモゾロマイドを使用しないほうが良いという意見につながっています。

テモゾロマイドを6コース以上継続しても生存期間の延長は得られない

Blumenthal D, Gorila T, Gilbert MR, et al. Is more better? The impact of extended adjuvant temozolomide in newly-diagnosed glioblastoma: a secondary analysis of EORTC and NRG Oncology/ RTOG. Neuro Oncol 2017
過去に行われた大規模試験で膠芽腫2214例が解析されました。6コースのテモゾロマイド維持療法の時点で無増悪であった624例のうち,291例で維持テモゾロマイドが継続さえれ,333例では中断されました。テモゾロマイド継続例で生存期間の延長があるという事実はなかったとのことです。結論としては,膠芽腫の初発例ではテモゾロマイドは6コースで打ち切るということです。しかしこの中で,MGMTメチレーションがある群ではやや無増悪生存期間が長いとのことです。しかし,MGMTメチレーションのある例では現実的に12コース以上の投与が行われることが多いでしょう。
Gramatzki D, et al.: Limited role for extended maintenance temozolomide for newly diagnosed glioblastoma. Neurology 2017
ドイツからの報告で,同じ命題を論じています。7コース以上のテモゾロマイド投与でPFSもOSも延長できないと結論しています。

MGMTプロモーター・メチレーションを見なければならない時

  • 初発膠芽腫ではメチレーションがあってもなくてもテモゾロマイドを使います
  • 高齢者の膠芽腫ではメチレーションがある場合にのみ使用します
  • IDH野生型のグレード2と3のグリオーマで,放射線治療と併用する時あるいはテモゾロマイド単独使用する場合には,メチレーションのある時のみに使用します
  • EANOのガイドライン2017年で,エビデンスクラス1,推奨度Bです
  • 初発膠芽腫でメチレーションがあれば,再燃時にもメチレーションはあることが多いです

グレードII グリオーマで,テモゾロマイドと放射線治療のどちらを選択するか

Baumert BG: Temozolomide chemotherapy versus radiotherapy in high-risk low-grade glioma (EORTC 22033-26033): a randomised, open-label, phase 3 intergroup study. Lancet Oncol, 2016
477人のグレードIIグリオーマ (astrocytoma, oligoastrocytoma, or oligodendroglioma)の患者さんを対象とした臨床第3相試験です。治療を行った基準は予後が悪そうに思える例で,40歳以上,進行性病巣,腫瘍サイズが5cm以上,正中を超える病変,神経症状があったという基準です。無作為に,放射線治療 (conformal radiotherapy; up to 50·4 Gy; 28 doses of 1.8 Gy once daily) あるいはテモゾロマイド化学療法 (75 mg/m2 for 21 days, every 28 days, maximum of 12 cycles)がなされました。
PFS 無増悪生存割合に差はありませんでした。また,生存の質 health-related quality of life (HRQOL)にも差はありませんでした。

テモゾロマイドの増量で効果はあがるか

Gilbert MR: Dose-dense temozolomide for newly diagnosed glioblastoma: a randomized phase III clinical trial. J Clin Oncol, 2013
Armstrong TS.: Net clinical benefit analysis of radiation therapy oncology group 0525: a phase III trial comparing conventional adjuvant temozolomide with dose-intensive temozolomide in patients with newly diagnosed glioblastoma. J Clin Oncol, 2013
テモダールを量的に多く使用すること dose-dense (dose-intensive) temozolomideで,OSあるいはPFSという生存割合が改善するかどうかを,膠芽腫の833人の患者さんで確かめられました。結果,効果はありませんでした。また,症状の改善などを見た NCB net clinical benefitは低下して,逆に症状,健康状態,日常生活の質が低下してしまいました。テモダールの投与量を増やしても利益はありません。

テモゾロマイド 21日間投与法の評価

Brada M, et al.: Temozolomide versus procarbazine, lomustine, and vincristine in recurrent high-grade glioma. J Clin Oncol 28: 4601-4608, 2010
再発の悪性神経膠腫の患者さん447人に行なわれた大規模試験です。PCV (porcarbazine, lomustine, vincristine)が224人の患者さんに投与され,TMZ (temozolomide) 200 mg/m2を5日間投与が112人の患者さんに,TMZ 100 mg/m2を 21日間連続投与が111人の患者さんに投与されました。いずれの群でも生存割合に有意な差がありませんでした。従来のテモゾロマイド5日間投与を受けた患者さんで生存期間中のQOLが良かったとのことです。この結果は当たり前で,テモゾロマイド5日間が副作用(有害事象)が最も軽いということは容易に予想がつくことです。

テモダールを増量する試み

Wick W, et al.: New (alternative) temozolomide regimens for the treatment of glioma. Neuro-Oncol 11: 69-78, 2008

  • 5/28 days regimen : 200mg/m2/day, dose intensity 1,000mg/m2/28 days
  • 28 days daily regimen : 75mg/m2/day, dose intensity 1,575mg/m2/28 days
  • 10/28 days regimen : 150mg/m2/day, dose intensity 1,500mg/m2/28 days
  • 21/28 days regimen : 75mg/m2/day, dose intensity 1,875mg/m2/28 days
  • 14/28 days regimen : 150mg/m2/day, dose intensity 2,100mg/m2/28 days
  • 21/28 days regimen : 100mg/m2/day, dose intensity 2,100mg/m2/28 days

テモゾロマイドの使用量を増やす投与法が試みられました。少量分割投与で,総投与量を増加させるという方向です。これは腫瘍細胞の中のMGMTという酵素を減少させるためにはテモゾロマイドを続けて投与した方がいいし,そうすればテモゾロマイドの抗腫瘍効果が上がるという推論に基づいたものです。

ヨーロッパでの長期成績

Stupp R, et al.: Effects of radiotherapy with concomitant and adjuvant temozolomide versus radiotherapy alone on survival in glioblastoma in a randomised phase III study: 5-year analysis of the EORTC-NCIC trial. Lancet Oncol. 10:459-466, 2009
先のヨーロッパでの大規模研究の最終報告です。573人の膠芽腫の患者さんが85施設で治療を受けました。放射線単独治療では5年全生存割合は1.9%でしたが,テモゾロマイドを併用すると9.8% でした。統計学的に差が明らかとなっています。

テモゾロマイドで致死的肝炎が生じることがある

Grewal J et al: Fatal reactivation of hepatitis B with temozolomide. N Engl J Med 2007

テモゾロマイドは制がん剤なので使用するとつらいことになるのか?

Taphoorn MJ, et al.: Health-related quality of life in patients with glioblastoma: a randomised controlled trial. Lancet Oncol 6:937-944, 2005
572人の患者さんの追跡調査です。テモゾロマイドを飲んだ患者さんと,飲まないで放射線治療だけ受けた患者さんの生存の質 HR-QOL が,違うかどうかの調査がなされました。結論はテモゾロマイドの副作用のためにQOLが著しく低下することはなかったとのことです。この意味でも副作用(有害事象)の軽い制がん剤と言えます。

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