脳外科医 澤村豊のホームページ

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小児脳腫瘍について

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著者:榮島四郎,発行所:生活の医療株式会社

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まず何よりも大切なこと

医師からご両親にお子さんが脳腫瘍だと告げられる時には,MRIという検査が終わっていると思います。このMRIをみれば,たいていの診断と治療方針は決まってしまいます。小児脳腫瘍に詳しい医師に少しでも早く見ていただきましょう。悪性か良性か解らないから入院して,いろいろな検査してから説明するというのではだめだと思います。小児脳腫瘍はものすごくたくさん種類があるので,専門家が見ないと治療の最初の方向性は決まりません。

小児脳腫瘍で活動している先生やに詳しい先生を下に書いておきます。外来に行きたいときは直接外来日などを尋ねるといいかもしれません。札幌北楡病院小児科 小林良二先生,埼玉医大脳外科 鈴木智成先生,埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科 福岡講平先生,獨協医大脳外科 阿久津博義先生,慈恵医科大学脳神経外科 柳澤隆昭先生,成育医療センター脳神経腫瘍科 寺島慶太先生,国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科 杉山未奈子先生,北里大学脳外科 隈部俊宏先生,横浜市立大学脳神経外科 山本哲哉先生,河村病院 夏目敦至先生,名古屋大一赤十字病院脳外科 波多野寿先生,京都大学病院脳外科 荒川芳輝先生,北野病院小児科 塩田光隆先生,大阪市立総合医療センター血液腫瘍科 山崎夏維先生,神戸市立医療センター小児科 濱畑啓悟先生,寺崎脳神経外科 寺崎瑞彦先生,長崎大学小児科 舩越康智先生,宮崎大学脳外科 竹島秀雄先生,沖縄南部医療センター脳外科 長嶺知明先生などです。

澤村のところでは,札幌北楡病院小児科(小林良二先生のグループ)と北海道ガンセンター放射線治療科の協力で小児脳腫瘍の治療をしています。

出生数激減による希少化:かつての4分の1しか発生しない

日本の出生数のピークは1970年代に270万人でした,2023年に生まれたは赤ちゃんは72万人で,四分の一になりました髄芽腫の発生数は,この間に年間 180人から60人以下 へと減少していると推計されます。珍しい小児脳腫瘍は,出生数の減少とともにますますめずらしくなってきています。小児脳腫瘍は限られた施設でしか治療してはならない病気です。

小児脳腫瘍の会というのがあります(ここをクリック)
小児脳腫瘍の目次です
2021年のWHO分類は,他のページなるのでここをクリックしてください
全ての小児脳腫瘍が載っています

グリオーマを知りたい方はここをクリック

グリオーマだろうという診断をされることがありますが,なんだかわかりません,いろいろな種類の脳腫瘍の総称なのです


大まかなこと

小児脳腫瘍の死亡数は,小児白血病の死亡数の1.2倍に達します。小児に発生する固形ガンの中では最も頻度が高くて,かつ死亡率の高い疾患です。脳腫瘍は病理組織がいろいろですから,全ての脳腫瘍は稀少疾患(とてもまれな病気)といえます。さらに病理組織診断が同じであっても。発生する部位と患者さんの年齢によって予後が変わるために,治療法の選択がとても複雑になります。

低年齢児の脳は放射線治療でとても障害を受けやすいので,化学療法が重要な治療手段となっています。髄芽腫や胚細胞腫瘍などの悪性腫瘍では脳外科医と小児科医の協力が欠かせません。2024年現在でも日本では,小児脳腫瘍の症例はたくさんの施設に分散していて,全ての子供たちに高い水準の治療ができていないこともあり,地域ごとの治療センターを確立することが望まれています。また,複雑な治療法の選択は常にcase-to-case decision(個々の患者で逐一異なること)であり,深くてレベルの高い知識をもち経験豊かな小児神経腫瘍医の育成が求められています。でも残念ながら,小児神経腫瘍医は日本では絶滅危惧種です。

まず最初に主治医を選ぶ場合に,悪性腫瘍を含めて大部分の小児脳腫瘍では,手術治療の選択と結果が予後(治るかどうか)を決める最も大きな要素だということを考えなければなりません。小児脳腫瘍の手術経験の件数が多い脳外科医を捜して下さい。もちろん小児科医と麻酔科医のいない病院での治療はできません。また,治ったとしても重い後遺症をもって生存して行く子供たちが多いです。後遺症をできる限り少なくする治療方法を選ばないと,成長した後に自立した人生を送れません。2018年の調査でも,小児脳腫瘍生存者の6割は成人になってから自立できていないとされています。

住んでいる地域を問わずに,セカンドオピニオンからさらにサードオピニオンも聞いてもいいと思います。子供の長い一生がかかっていますから,この点は妥協しないようにして下さい。日本脳腫瘍ネットワーク小児脳腫瘍の会などの患者会がこれらの情報を集めて下さることを期待しています。

2013年新たに制定された小児がんの拠点病院でも脳腫瘍の治療ができるとは限りません。そこに”脳腫瘍の手術”に長じている脳外科医や小児脳腫瘍の臨床に精通した小児科医がいなければ,その病院は拠点病院でも何でもありません。2021年時点でも,この拠点病院より大学病院の方がよい地域があります。雲の上の人が勝手に決めた拠点と言えましょう。

どこで治療を受けるのが良いか

よく質問されますが,難しくてわかりません。でも考えてみましょう。

例えば診断で使うCTを考えて見ましょう。CTは放射線なので1回の検査で5-30mSv被曝します。細かいCD-CTAなどを撮影すると被曝量は大きくなります。小児では,50mGy以上で後々の白血病や脳腫瘍の発生率が3倍高まるといわれています。乳幼児では認知機能の発達も遅れます。それを知らないで,CT検査を10回以上繰り返された小児脳腫瘍患者を何人も見たことがあります。医師は,そんな何年も後のことなど気にしないのです。

手術だけで治る腫瘍があるとしましょう。でもその手術は難しそう。それならば小児の脳腫瘍に経験の多い熟練した脳外科医を捜した方がいいですね。それで腕のいい外科医が見つかって,手術で全部とれてほとんど後遺症もなかったとしましょう。でも,ほんとは,その腫瘍が手術をする必要がないものだったらどうします?? その手術はまったく無駄ですね。なぜ子供は開頭術を受けたのか,こんなことはあってはならないのですが現実にあります。なぜ起こるのでしょう。小児脳腫瘍の治療を受けるための解説に書いたように小児の脳腫瘍があまりにいろいろあるから,手術前の予想がよく外れるのです。治療に踏み切る前に,症状やMRIをみて,治療の方向性をしっかり判断できる医師(放射線診断医)が必要なのです。手術をする前に,手術が本当に必要かどうか(しないほうがいい場合もあります),どの程度の手術をしたらいいのかを極めて正確に判断できるお医者さんを探すというところが,全ての出発点ではないでしょうか。

化学療法とかほかの補助療法とかはまたそれから後の問題です。でも小児脳腫瘍は補助療法が必要なことも多いので、少なくとも小児科(特に血液腫瘍科,小児神経と内分泌の専門の先生),麻酔科、放射線治療設備,病理部,眼科、耳鼻咽喉科,などなど,欲を言えば限りがないのですが、その程度はそろっている病院で治療を受けるべきです。手術だけ脳神経外科で受けてから、他の病院に移って放射線治療や化学療法を受けたりすると治療が手遅れになってしまうこともあるのです。

説明を詳しく受ける権利

インフォームドコンセントという言葉が有名になりました。患者さん側からみれば,十分納得のいく説明を文書などで詳しく受けてから,医師の提案した治療方法に同意して治療をしていただくということです。小児脳腫瘍と診断されたら担当医師からいろいろな説明を受けるはずです。考えられる病名,症状の説明,治療の必要性,予想される病理組織、治療の方向性,治る可能性,手術の必要性とリスク,化学療法の説明,放射線治療の説明,予想される後遺症と社会復帰の可能性などです。

特に小児の化学療法については,標準的治療や保険診療で認められたものがほとんどないので,患者の保護のための倫理的事項が守られなければなりません。効果の確定していない化学療法プロトコールは、一種の臨床試験に近いものになるので,小児の悪性腫瘍に用いる化学療法は各施設の倫理審査委員会または機関審査委員会(IRB)で承認されているのが普通です。同時に患者への説明文書が承認されているはずですから,それを見せていただきましょう。

例えば,私が1992年頃から使っていたICE化学療法というのも,かつては保険診療で認められてなくて,北大病院の倫理審査委員会で承認されて文書にしていました。もちろん文書に書いてある以上にかなり詳しい説明を実際には行いました。現在は,ICE化学療法は現在は保険診療で認められています。かつて日本での小児脳腫瘍の大きな問題は,各施設が思いつきの化学療法を患者さんに十分に説明もせずに行っていたことにあります。これは徐々に過去の問題となりつつありますが—–。とにかく親の権利として詳しい説明をはっきり求めましょう。

医療費の問題

小児脳腫瘍は小児慢性疾患の手続きをすると医療費が補助されます。小児慢性特定疾患患者の医療費等の自己負担額を公費負担する制度です。対象疾患(11疾患群)のうちの悪性新生物群に入ります。 この制度を受けるには申請が必要ですから申請書類を地域のお役所の窓口に提出してください。脳腫瘍と言われたらすぐにこの書類を主治医の先生に書いてもらわなければなりません。提出が遅れると最初にかかった医療費の自己負担分が返してもらえないことがあります。 承認の場合には医療受診券が発行されます。公費の有効期間は原則1年以内ですから,継続する場合には毎年申請が必要となります。2004年に制度が変わって,病気がほとんど治ったと見なされる状態では保護を打ち切られます。

小児慢性特定疾病情報センター(手続き情報はここをクリック)

注意してほしいのは,脳腫瘍の場合は,病理組織が良性であっても小児慢性特定疾患慢性疾患(悪性新生物)として認められることです。良性といわれる髄膜腫,上衣腫,頭蓋咽頭腫,毛様細胞性星細胞腫も入ります。とても珍しい脳腫瘍は,「91. 70-90に掲げるもののほか,中枢神経系腫瘍」という分類にできますから,諦めないで申請する。

病名別の早見表(ここをクリック)

小児脳腫瘍の診療体制(特に長い入院になる悪性腫瘍の場合)

脳神経外科:手術をします
小児血液腫瘍:通常化学療法や末梢血幹細胞移植をつかう大量化学療法は小児科病棟でします
小児内分泌:視床下部や下垂体ホルモンの検査と治療をしていただきます
小児神経:症候性てんかんの治療や認知機能,精神身体の発達を見守っていただきます
放射線科診断部門:CT, MRI, PETなどなど
放射線科治療部門:通常の分割照射から定位放射線治療やIMRT(強度変調放射線治療)など
手術部:訓練されたスタッフが必要です
病理部門:脳腫瘍の病理診断は難しいですし,遺伝子検査まで必要です
小児外科:長期留置型のカテーテルの挿入をお願いします
眼科:視野検査や視力測定です
耳鼻科:化学療法前後に毎回,聴力検査をしていただきます
リハビリテーション:麻痺や失語,高次脳機能障害とかの治療をします
麻酔科:小児の麻酔に慣れた先生がいいです
集中治療室:とくに重い状態のこどもをお願いします
院内学級:大きな総合病院では整備されています
ファミリーハウス:家族の方が長期宿泊するための施設です

治療後のこと

治療が終わって退院しても様々なことが生じます。治療後に生じることは別なところに書いてありますから,ここをクリックして下さい。

新しい治療への希望

世界中の研究者が,髄芽腫や脳幹部神経膠腫や星細胞系腫瘍の治療方法を探しています。ですから,今は治療法がなくても,来年までがんばれば新しい治療が開発されるかもしれません。分子生物学の発達で,小児の珍しい腫瘍の原因遺伝子が発見される速度は早くなってきています。その原因遺伝子の作用に対しての,分子標的治療薬の登場も間近です。
数年前に,エベロリムスという薬剤が,小児の上衣下巨細胞性星細胞腫 SEGA に有効なことが見いだされました。巨大な腫瘍が小さくなるので,手術の前に投与して小さくして,全摘出を目指すという治療法の開発です。
BRAFという遺伝子に異常がある腫瘍では,BRAF阻害剤のタフィンラー(ダブラフェニブ)などの分子標的治療薬が有効で臨床応用されています。
但し逆に,気をつけなければならないこともあります。特に「ワクチンや免疫治療」なのですが,藁をもつかむ親の心に乗じて,高額な医療を,有効性もはっきりしないのに,さも最新の治療法のように勧める医療者がいます。

ソフィーの選択のお話

小児脳腫瘍の治療後に生じること・晩期障害(ここをクリック)

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2016年6月の神奈川県での小児脳腫瘍の会のお泊まり会です。9年目のお泊まり会はとても盛況でした。子どもたちがホタルをみることができます。医師の参加は6名です。

2019年9月 三浦海岸でのお泊まり会です,医師の参加は10名になりました

あまりお医者さんが気にしない怖い話

低線量放射線が乳児の認知機能発達に与える影響

Hall P: Effect of low doses of ionising radiation in infancy on cognitive function in adulthood: Swedish population based cohort study. BMJ 2004
古い時代ですが1930年から1959年までに,生後18ヶ月以内に頭皮の血管腫に対して極低線量放射線治療が使用されました。この研究はスウェーデンの3,094人の男児が対象で,18−19歳の時に認知機能テストが行われた結果です。前頭部と後頭部に照射を受けていない例では32%,250mGy以上を受けた例では17%が高校へ進学できていました。照射を受けた例では,learning ability and logical reasoningの低下があったそうです。
「解説」1Gy以上のionizing radiationが乳児の認知機能発達に影響を与えることは,2000年までの知られていました。この論文では,さらにCT検査などのものすごく低い線量の放射線の影響を調べています。乳児が頭部CT検査を受けると120mGyの頭部被曝が生じるとされています。結論として,2度CTを受けると将来の知能が低下するといえます  (;¬_¬)

こんなことはお医者さんは全く気にしていませんねー

乳幼児の脳腫瘍に何度もCT検査をしてはなりません
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