呼吸器外科、内科の患者さんは6W病棟に入院していただいています。6W病棟は病床数49床で約30名の在籍看護師がおります。そのほかに、業務をサポートする医療補助、MEセンター、清掃や環境整備を行うスタッフも多数おります。廊下の端からは、隣接する運転試験場と、遠方には丹沢山系や富士山が見ることができます。
呼吸器外科の手術患者さんのほとんどはクリニカルパスを用いた看護を行っており、基本的には手術前日に入院していただき(休日を挟む場合はその前日)、肺部分切除や胸腔鏡下縦隔腫瘍切除では術後3-4日間、肺区域、肺葉切除では術後6日間、気管支形成や血管形成などの拡大手術では術後10日程度の入院期間を基本としています。
術前とは、患者さんが心と身体の準備を行う大切な期間です。手術が安全に行なわれるように、病棟看護師と医師、薬剤師や栄養士などで構成される多職種がチームとしてまとまり、準備をサポートします。患者さんの疾患理解や手術準備だけでなく、手術後の合併症予防に向けて、身体的・精神面での支援を行う大切な時間でもあります。 入院した後は、入院案内、事務手続き、全身状態のチェック、問診、術前検査、使用物品の準備確認、外科や麻酔科医師からの病状や手術、処置に関する説明、術後生活に対するオリエンテーションや保清など、限られた時間で多くのことを行います。同時に、手術や疾患への不安を強く抱えていらっしゃる患者さんには、最大限に精神的にサポートを行えるよう配慮します。
多職種チームで情報を共有し、術後の看護につなげていくために、さまざまなリソースを活用しています。術前オリエンテーションパンフレットを用いた説明により、患者さんとご家族の治療、疾患に対する理解を深め、不安を軽減し、患者さんが手術に臨む心構えを援助するとともに、 多職種が介入し、術後合併症予防だけでなく、入院生活が安全・安楽に過ごせるような準備と支援を目指していきます。
手術前オリエンテーション動画は病室のテレビ画面からも視聴できますが、下記からも見ることができます。
当院はがん専門施設であるため、多くの患者さんは、肺がんやその疑いと診断を告げられており、衝撃を受け、多くの不安を抱えていらっしゃいます。この内訳は人それぞれなのですが、痛みと不快に対する恐怖や、病気や進行度がわからない不安感、身体に傷が加わり生活が変化すること、生命を脅かされることへの恐れ、人生計画の変更、全身麻酔で意識を一時的に失う事への不安などがあげられます。
看護師として不安緩和のため、最大限援助を行ってまいりますが、完璧な対策は率直なところ難しいです。人それぞれの悩みがあり、不安に感じる点も異なり、また解決策も人によって異なります。患者さんからの訴えを傾聴し、ご家族を交えて解決できることや、可能なアドバイスを提案します。また医師の説明で理解しにくかったこと、不安を覚えたこと、治療内容や方針へ補足などは、必要に応じて再度医師に説明を行ってもらう調整も行います。
手術が順調に行われ一安心ですが、この時期が最も重要です、合併症なく、リハビリが順調に進められることで、退院後の生活の質の向上や、社会復帰に向けた準備を始めることができるからです。術後も、日一日と容体は回復に向かっていき、それに応じて観察項目や患者さんの不安事項も変わっていきます。低侵襲手術が主流になったとは言え、痛みや息切れ感がないわけではありません。退院後の生活に強い不安を持たれる方には、病棟看護師は積極的なサポートを行っていきます。
患者さんが主体的に術後生活を送れるように、丁寧な説明とともに、看護師と一緒に歩行訓練や排痰補助を行っていきます。そのためにも、質の高い、統一された指導の実践が必要となります。看護スタッフ皆がオリエンテーションの質を確保し、的確な指導ができるよう努めています。この補助として、クリニカパスや術前オリエンテーションビデオなどを活用しています。
一番多いのは、肺瘻や無気肺、肺炎などの呼吸器合併症です。早期離床は合併症予防として非常に重要です。看護師はその必要性を丁寧に説明し、共に頑張りましょうという声掛けを行い、具体的な目標を設定します。合わせて、痛みなどの症状の観察と積極的な緩和を心がけることと、ドレーンや点滴などのルート類が早めに整理できないか、医師と綿密に相談をしていきます。 具体的な目標は、術後1日目は少なくとも病棟5周、術後2日目は10周、一日ごとに5周増やしていきます。もともと足が不自由な方もいるため、安全には十分配慮して離床を進めていきます。
最も多いのは、術後創痛に関連したものです。疼痛管理が不十分なことで、移動や喀痰排出が障害されてしまい、結果無気肺や肺炎の原因となってしまいます。もちろん精神衛生上も良くなく、不眠になり体力、筋力低下の心配もあります。患者さんの腎障害、胃潰瘍や喘息などの併存疾患や検査結果を踏まえ、適切な痛み止めを服用していただきます。ロキソプロフェンを中心として、カロナールを代替としています。屯用としてトラムセットを用いていますが、痛みが強い方にはトラムセットを定時内服していただいています。痰が切れなくて出しにくい方には、ネブライザーや去痰剤を使用したり、背中をさすって優しく叩いたりすることで手助けをします。
つらい症状を看護師にお話しいただくことで、医師と速やかな連携を取り、場合によってはリハビリテーション科にも手伝っていただき、合併症を起こさないよう未然に対処してまいります。
退院後は在宅でも主体的に合併症予防を行いながら少しずつ手術前の生活へと戻ることとなります。そのため、退院後の自己回復力を助ける目的で、患者さんご自身やご家族にセルフケアの方法を入院中にマスターしていただきます。手術後2、3日目~退院まで間に看護師が指導します。術前で得た情報や術後の状況などを踏まえて、退院後を見据えた支援をしていきます。具体的には、主体的な合併症予防行動の継続、創洗浄の必要性と実施、内服薬の管理と対症行動、どのような時に病院に連絡する必要があるか、についてです。
創部や胸腔ドレーン抜去後は毎日シャワー浴を行っていただいています。創部まで手が届かない場合はご家族にも支援を依頼し、退院後も継続できるようお願いしています。
パス通り経過している患者さんであれば、術後5日目に実施しています。パンフレットを使用し、術後の注意事項や連絡方法、どのような時に病院に連絡するかなどを説明しています。可能であれば、患者家族にも一緒に説明を聞いていただけるように準備を整えています。
70歳代男性。重喫煙歴、脊柱管狭窄症、高血圧症などの併存疾患あり。脊柱管狭窄症に伴う下肢のしびれがあり、杖歩行、間欠爬行を行っていました。肺がんの診断のもと、胸腔鏡腔鏡下右上葉切除+リンパ節郭清を施行しました。手術2日目、離床の必要性や大切さを説明し、離床を促すも受け入れてくれません。
家族から話を聞いてみると、これまでも自由に生きてきた人柄で、なかなかご家族の言うことも聞き入れなかったそうです。脊柱管狭窄症等により、もともと行動に制限があり、さらにブリンクマン指数1600の重喫煙者で、残念ながらもともと術後合併症のリスクは非常に高いと想定していました。
術後5日目に術後肺炎を起こしてしまい、更に日常生活の活動性(ADL)が低下してしまいました。看護師のチームと、呼吸器外科医師と相談し、ADL拡大の為リハビリテーション科に介入を依頼いたしました。リハビリ導入と、多職種からの粘り強い説明により、徐々にADLの拡大が図られた結果、自力での排痰も可能となり、肺炎も改善していきました。術後28日目に在宅酸素療法を持って退院されまして、その後も日常生活でリハビリを進めたことで、在宅酸素療法も術後2か月で終了いたしました。
看護師は術前からリスクアセスメントを行い、多職種チームで患者さんと関わり情報共有していくことで、患者さんとの繋がりを深め、合併症予防の手助け含め、より良い支援を行ってまいります。お困りの際には、ぜひ身近な病棟看護師にご相談ください。