当科では、胃がん治療のエキスパートが、現時点で最良の治療で推奨される治療(標準治療)を、合併症のない緻密な手技で行うことを常に念頭におくことにより、高い生存率が得られています。当科で治療を受けた多くの患者さんが治癒しています。
胃がんでは、治療によりがんが消失してから5年後までに再発がない場合を「治癒」とみなします。5年経過後に生きている患者さんの割合(5年全生存率)は「治癒」の指標としてよく用いられます。胃がん以外の原因で亡くなられた患者さんが多いと全生存率は低くなってしまいますので、5年経過後に胃がんで亡くなっていない患者さんの割合(5年疾患特異的生存率)も「治癒」の良い指標になります。Ⅰ期であれば100%近く、がんが進行したⅢ期でも60%前後の患者さんが治癒しています。
胃切除後の患者さんは、体重が10%程度減少することがよく知られています。特に胃を全部切除した胃全摘の患者さんでは、術後に食事摂取量が減ったり、消化能力が減少することなどによって、体重が減少し、これが術後の生活の質に大きく影響することが報告されています。また、消化液の逆流によって、重篤な誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあります。そこで当科では可能な限り「胃全摘を避ける」ことを一つの目標としており、通常では胃全摘が必要と判断されるような症例でも、胃亜全摘術や噴門側胃切除術を行って、胃をできる限り温存し悪いところは完全に切除することを目指しています。胃の温存のためには、外科医の手術手技だけでなく、消化器内科医による的確な術前診断や手術中の内視鏡検査などもきわめて重要であり、外科・内科・放射線科などによるカンファレンスを毎週行い、胃食道診療チームとして力を合わせて取り組んでいます。
胃から離れた場所に、リンパ節転移が存在する場合には、手術のみで治すことが困難な場合があります。このような患者さんに対しては、手術前に抗がん剤治療を行い、少し離れたリンパ節転移を始めとするがんの微小な転移を抑えてから手術を行う治療方法があります。この方法のうち、胃から少し離れた場所にリンパ節転移が存在する場合に対する術前補助化学療法は治療成績を改善しうるエビデンスがあり、積極的に行っています。
また、肝臓など胃以外の臓器に転移が見られる場合や、遠くのリンパ節に転移した場合は、ステージ4と言われ、基本的には手術適応はないとされています。しかし、抗がん剤での治療を行い、治療が著効して、転移が消失した場合に、手術による切除(コンバージョン手術と言います)を行って治癒を目指します。
このように外科と化学療法を組み合わせた集学的治療を行うことで、非常に進行した胃がんに対しても決してあきらめることなく、積極的な治療に取り組んでいます。
腹腔鏡下手術は、腹部に数ヵ所小さな穴を開け、そこから腹腔内を腹部を炭酸ガスでふくらませ、棒状の感度の高い小型カメラや鉗子(かんし)などの器具を入れて手術をする方法です。医師は、腹部に入れた小型カメラによって、モニターに大きく映し出された映像を見ながら、緻密な手術を行います。比較的早期のがんが適応となる腹腔鏡下手術は、開腹手術よりも傷が小さく、手術後の回復が早く、術中術後の合併症や長期の治療成績も開腹手術と同等であることが証明されており、現在は早期胃がんの標準治療として確立されています。
胃食道外科では、積極的にロボット支援手術も行っています。医師は、操縦室のような場所(コンソール)に座って、画面に映し出される腹腔内の3Dカメラの映像を見ながら、画面の中の鉗子を遠隔操作します。もちろん、ロボットが自動で手術をするわけではありませんし、手術する医師は手術室の中にいます。ロボット支援手術で使用される鉗子は、通常の腹腔鏡手術とは異なり、医師の操作で関節を自由に曲げることができ、さらに医師の手のわずかな震えも器械で制御されますので、腹腔鏡下手術よりも、さらに正確な操作が可能です。胃がんに対するロボット支援手術は、安全性を確かめるための臨床試験が先進医療制度のもと国内で行われ、この試験で良好な結果が得られたため、2018年より一定の条件を満たす施設では、胃がんに対するロボット支援下手術を保険診療で行えるようになりました。
化学療法には大きく分けて、手術後に行われる術後補助化学療法と、切除不能の進行・再発胃がんに行われる化学療法、そして、進行したがんに対して集学的治療の一環として行う術前補助化学療法があります。
手術後の病理検査でステージⅡ~Ⅲcと診断された胃がんでは、根治手術後に術後化学療法を行うことで有意に生存率が向上したことが報告されています。
そのため、ステージⅡ~Ⅲc胃がんに対する術後補助化学療法は標準治療(効果・安全性の面で最も優れており、推奨される治療)となっています。ステージⅡに対する術後補助化学療法はS-1単剤療法を1年間、またはカペシタビンとオキサリプラチンの併用療法を6ヵ月間実施しています。ステージⅢ胃がんに対する術後補助化学療法は、S-1+ドセタキセルの併用療法を標準治療として実施しています。
切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法は、日本を中心として世界中で多数の臨床試験が実施され、数多くの新しく有効な薬剤が使用されるようになったことで、高い奏効率や延命効果が報告されるようになってきました。胃がんでは、一次治療、二次治療、三次治療として効果が認められる薬剤を使うことが非常に重要であることが証明されています。
現在、日本では、一次治療(最初に投与される薬)として、S-1+オキサリプラチン+ニボルマブ併用療法、または、カペシタビン+オキサリプラチン+ニボルマブ併用療法が標準治療として認められており、入院または外来での投与や副作用を考慮して治療を選ぶことが可能となっています。また、HER2という蛋白が認められる胃がんに対してはトラスツズマブの併用が有効で、S-1+シスプラチン、カペシタビン+シスプラチン、S-1+オキサリプラチン、カペシタビン+オキサリプラチンなどと併用で使用され高い効果をあげています。当科では、これらの他に効果が期待される複数の「治験」への参加も可能です。
一次治療後の二次治療については、パクリタキセル(ナブパクリタキセル) +ラムシルマブの併用療法の有効性が臨床試験で認められており、これを標準治療として実施しています。
三次治療としては、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブを始め、イリノテカンおよびロンサーフが標準治療です。
その他に、当科では、条件を満たせば、今後効果が期待される新規抗がん剤の治験を多数行っています。
当科は、世界的に重要な治験や臨床試験を実施・分担してきています。治験や臨床試験に参加するには、事前に病状・体調等の審査を通過する必要があり、すべての患者さんが参加できるわけではありませんが、患者さんによっては非常に有効であることも少なくありませんので、どうぞお尋ねください。また、担当医からご案内する場合もあります。
三次治療には3つのお薬がありますが、その先の治療を決めるのが最先端医療のゲノム医療です。標準治療が終了した患者さんに効果のある薬を、がん組織から抽出した遺伝子を詳細に調べて探します。ゲノム医療は2019年より保険診療で受けられるようになり、高額療養制度が利用できます。当院はその拠点病院になっており、「ゲノム医療」も当院で受けられます。
ゲノム医療における遺伝子パネル検査の種類と費用
・OncoGuideTM NCCオンコパネル システム
(遺伝子数:114、国内検査、採血あり)
・FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル
(遺伝子数:324 、国外検査、採血なし)
保険診療:3割負担で168,000円(高額療養制度が利用できますので、実際はもっと少ない費用で行えます)