遺伝子治療
RNA標的型CRISPR-Cas13dシステムを用いたハンチントン病モデルの治療
An RNA-targeting CRISPR–Cas13d system alleviates disease-related phenotypes in Huntington’s disease models.
K.H. Morelli et al. Nature Neuroscience. 2023, 26; 27–38.
メッセンジャーRNAを標的とした遺伝子発現抑制は、遺伝子治療の1つの手法として研究開発が進み、一部は薬として実用化されつつある。これまでアンチセンスオリゴなどの核酸治療薬、shRNA/miRNAなどをAAVなどのウィルスに組み込んだ遺伝子治療の開発が進んでいるが、今回、新たな手法としてCRISPR-Cas13dを用いた手法が本研究で報告された。従来のCRISPR-Cas9を代表とするゲノム編集技術は、DNAを標的とするものが主体であり、劇的な効果の反面、オフターゲット効果が医療面での応用において危惧されてきた。こと核DNAの切断は、ガン化などのリスクを伴う点が臨床応用における懸念材料とされている。
今回、筆者らはハンチントン病の患者由来iPS細胞から分化誘導した神経細胞やCAGリピート延長を持つモデルマウスに対して、リピートが延長したハンチンチンmRNAを特異的に認識し分解するガイドRNAを設計し、このCRISPR-Cas13dを用いて治療した。患者由来細胞でも、モデル動物でも、リピートが延長した変異体mRNAを特異的に分解し、遺伝子発現プロファイルや表現型が改善することを示した。オフターゲット効果も認めず、高い安全性が示された。
従来のDNAを標的とするCRISPR-Casシステムは、サイズが大きいため、AAVベクターに搭載することが困難であったが、このRNA標的型のCRISPR-Cas13dはAAVに搭載可能なサイズであることから、遺伝子治療との相性が良い。今後、核酸治療薬の対抗軸として、臨床応用にむけた開発が進む可能性がある。
文責:井上 健
https://doi.org/10.1038/s41593-022-01207-1
2つの作用を持つAAV遺伝子治療は進行期カナバン病マウスモデルの病態を改善しうる
Dual-function AAV gene therapy reverses late-stage Canavan disease pathology in mice
Fröhlich D. et al. Front. Mol. Neurosci. 15:1061257.
カナバン病(CD)は、脳内に豊富なアミノ酸NAA(N-acetyl-L-aspartate)を代謝する酵素をコードするASPA遺伝子の変異が原因で起こる白質変性症の1つである。CDに対するASPA遺伝子補充療法は、白質変性症に対する遺伝子治療の先駆的な取り組みとして、すでに臨床研究も実施されているが、必ずしも十分な治療効果が得られていなかった。そこで様々な工夫が凝らされた新たな遺伝子治療の手法が試みられている。今回紹介する論文では、NAA代謝酵素ASPAを補充すると同時に、NAAを合成するために必要な酵素NAT8Lの働きを抑制するというもう1つの治療プロセスを、1つの遺伝子治療用のAAVベクターに合わせ持たせることで、その治療効果を高めようとする取り組みについて紹介されている。著者らは、AAVベクターにNAT8Lに対するshRNA/miRNAとコドンの最適化を行ったASPA cDNAを組み合わせて搭載し、CDモデルマウスであるAKOマウスに対する治療を行った。特筆すべきは治療開始時期を症状が全て出現している生後12週から開始したにもかかわらず、この治療により全ての症状の進行が停止し、さらにすでに出現している多くの症状(NAA蓄積やMRI画像所見を含む)を改善した点である。これは、既にCDの症状が出揃った患者に対しても本治療法が有効である可能性を示唆するものであり、本研究の臨床的意義は高いと考えられる。
文責:井上 健
https://doi.org/10.3389/fnmol.2022.1061257
スプライシング依存的フレームシフトを用いた細胞種特異的な遺伝子発現の制御
Cell-specific regulation of gene expression using splicing-dependent frameshifting
Jonathan P. Ling et al. Nature Communications | (2022)13:5773
AAVを用いた遺伝子治療において、組織あるいは細胞種特異的に必要な遺伝子を発現させることは、治療効果と安全性を高めるために重要であるが、技術的には依然として困難である。これまでの技術として、ウィルスベクターの血清型の指向性や細胞種特異的ミニプロモーターが用いられてきたが、これらのみで厳密な細胞種特異性を発揮することは困難である。本研究は、これらに加えて用いることができる新たな技術の開発に関する報告である。選択的スプライシングは細胞のサブタイプや時期に特異的な遺伝子発現に重要な役割を担っていることが知られている。筆者らは、トランスクリプトミクス・データベースの検索から、細胞種特異的な選択的スプライシングにより包含あるいは除外されるエクソンを選択し、さらにこの可変エクソンを含む、あるいは含まないトランスクリプトにフレームシフトが生ずるように変異を挿入することで、標的細胞のみで特定のフレームの翻訳が起こるようなシステムを構築し、これをsplicing-linked expression design (SLED)と名付けた。SLEDを用いることで、例えばパワフルな広域プロモーターの転写活性を損なうことなく、ニューロンや視細胞での発現の選択性を確保することができる。AAVに組み込んだSLEDベクターは、蛍光タンパク質やカルシウム・インジケーターをニューロンの興奮性/抑制性のサブタイプ別に選択的に発現することもできる。遺伝子治療への応用として、広域プロモーターを用いて視細胞特異的に遺伝子を発現させ、細胞特異的プロモーターを用いた従来型の遺伝子治療と同等の治療効果を発揮したり、腫瘍細胞特異的に細胞死誘導遺伝子を発現させたりすることが可能であることが示された。本法の欠点として、SLEDがイントロンを含むため、DNAサイズが比較的大きいためAAVへの応用が困難になることがある。今後、様々な細胞種のバリエーションとサイズを小さく改変したSLEDが開発されるとより有用性が高まると期待される。
文責:井上 健

https://doi.org/10.1038/s41467-022-33523-2
脳血管関門を標的とした遺伝子治療によるMCT8欠損症モデルの神経学的症状の改善
Gene therapy targeting the blood–brain barrier improves neurological symptoms in a model of genetic MCT8 deficiency
Sundaram SM et al. Brain 2022 in press.
MCT8欠損症は、Allan-Herndon-Dudley症候群とも呼ばれており、比較的頻度が高い先天性大脳白質形成不全症の1つである。原因遺伝子MCT8は甲状腺ホルモンを細胞内に取り込むため必要なトランスポータータンパク質をコードする遺伝子である。甲状腺ホルモンは、脳においても重要な働きをすることが知られており、MCT8欠損症では、血液の中にある甲状腺ホルモンが脳に入っていかないことが原因であることが知られている。髄鞘化にも甲状腺ホルモンが必須であり、MCT8欠損症では髄鞘化が適切に進まない。これまでにMCT8を介さずに脳の中に入っていくと考えられる甲状腺ホルモンに類似する化合物(トライアックなど)が薬剤候補として開発され、海外では治験が開始されている。これとは別に、アデノ随伴ウィルス(AAV)によりMCT8遺伝子を導入する遺伝子治療法の開発の試みがされているが、どの細胞を標的にして遺伝子治療をするのが最も効果的なのかは明らかではなかった。今回、筆者らは脳の神経細胞やグリア細胞ではなく、脳の血管内皮細胞を標的とすることで、高い治療効果が得られることを報告した。血管内皮細胞は、脳血管関門と呼ばれる血管系と脳を隔絶する障壁の血管側にある細胞で、MCT8が持続的に発現しており、甲状腺ホルモンを血管から脳の中に効率的に通過させる働きをしている。今回、筆者らはMCT8欠損症のモデルマウスに対して、この血管内皮細胞だけを標的とするアデノ随伴ウィルス(AAV)にMCT8を搭載して、静脈内投与により治療を行なった。その結果、モデルマウスでは脳の中に甲状腺ホルモンが効果的に導入され、神経細胞の障害や髄鞘化の障害を改善し、さらに甲状腺ホルモンに依存的な遺伝子の発現や動物の運動障害も改善した。これらの効果の一部は、ある程度症状が出現した後に治療を行なっても再現できた。脳の疾患の遺伝子治療に共通する問題は、AAVをいかに脳血管関門を超えて脳の中の送り届けることができるか、という点であるが、MCT8欠損症については、脳血管関門にある血管内皮細胞を標的とすることで、実に効果的な治療が可能になるということが示された。今後のMCT8欠損症の治療法開発に関する大きな方向性が示された研究成果である。
文責:井上 健
https://doi.org/10.1093/brain/awac243
ナンセンスコドンに対するAAVを用いたsuppressor tRNA遺伝子治療
AAV-delivered suppressor tRNA overcomes a nonsense mutation in mice
J. Wang et al.
Nature 2022 Apr;604(7905):343-348.
AAVによる遺伝子治療の限界として、導入する遺伝子のサイズに制限があること、遺伝子発現量が過剰になること、などの問題点が知られている。この論文では、ナンセンスコドン(読み枠がストップコドンになり、翻訳が止まってしまう変異で、ヒトの疾患遺伝子変異の約11%を占める。)に対して、サプレッサーtRNAをAAVに組み込んで導入することで、安全かつ効果的にナンセンスコドンが原因の疾患モデルマウスを治療できることが報告された。この効果は、単回投与で少なくとも6ヶ月間持続することが示された。
サプレッサーtRNAは、人工的に設計されたtRNAで、ストップコドンに対するアンチコドンを通常のtRNAに組み込んだものである。コンセプトは40年前に報告されたが、治療的有用性は培養細胞での検証にとどまっていた。筆者らは、今回、このサプレッサーtRNAを最適化し、Tyr tRNAを用いたサプレッサーtRNA が最も効率よくストップコドンのリードスルーを誘導することを示した。また同様のリードスルーを誘導するアミノグリコシド系の薬剤と比較して、野生型遺伝子のストップコドンのリードスルーの誘導は低く、オフターゲット効果が低いことが示された。次にこのサプレッサーtRNA をAAVに組み込んで、ムコ多糖症I型の原因遺伝子IDUAにW402X変異を持つモデルマウスに投与し、その治療的有効性を証明した。またNMD標的遺伝子の発現、小胞体ストレスの惹起など起こり得る副反応についての検証も行われ、安全性についての評価も行われた。
サプレッサーtRNAによるAAV遺伝子治療AAV-NoSTOPは、多くの遺伝性疾患の治療の可能性を広げるものである。AAV-NoSTOPは、通常の遺伝子導入治療で見られる過剰発現による毒性(例えばMECP2遺伝子など)の問題を避けることができる選択肢となり得る。また、疾患特異的、遺伝子特異的な治療ではなく、ユニバーサルな治療薬となり得る点も大きなメリットであろう。
文責:井上 健
doi: 10.1038/s41586-022-04533-3.
テイ・サックス病患者に対するAAV遺伝子治療
(AAV gene therapy for Tay-Sachs disease)
Nat Med. 2022 Feb;28(2):251-259.
これまで治療法がなかった遺伝性難治性疾患に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療の実用化が進んでいる。本稿では代表的なライソゾーム病の1つであるテイ・サックス病患者に対するAAVを用いた遺伝子治療のファースト・イン・ヒューマンの結果が報告されている。テイ・サックス病はヘキソサミニダーゼA(HexA)の欠乏によって引き起こされる常染色体劣性遺伝の疾患で、進行性に重篤な神経障害をきたす。本研究では、一次エンドポイントを安全性とし、二次エンドポイントは設定されていない。2名のテイ・サックス病の乳児が対象である。患者1(30ヶ月齢)では、AAVrh8-HEXAおよびAAVrh8-HEXB等モル混合液を髄腔内(大槽と胸腰椎接合部)で総投与量(1×1014ベクターゲノム(vg))が投与された。患者2(7か月齢)では、両側視床(1.5×1012 vg×2)と髄腔内(3.9×1013 vg)に投与された。両患者とも免疫抑制薬が投与された。手技に対する忍容性は高く、ベクター関連の有害事象はなかった。脳脊髄液(CSF)のHexA活性はベースラインから軽度に増加し、安定を維持した。患者2は、髄鞘形成が進行し、注射後3か月までに疾患の安定化を示し、乳児テイ・サックス病の自然歴と比べて一時的な改善を示したが、治療後6か月で疾患の進行が明らかとなった。患者1は、治療前と同じ抗けいれん薬治療を継続し、5歳まで発作はなかった。 患者2は、2歳で抗けいれん薬反応性発作を発症した。著者らは、この研究がテイ・サックス病治療のためのAAV遺伝子治療の早期の安全性と概念実証データを提供したと述べているが、治療よる酵素活性の上昇も画像および臨床症状の改善効果も限定的であったことから、実用化のためには解決すべき技術的な課題があることが明らかとなった。
https://doi.org/10.1038/s41591-021-01664-4
文責:井上 健
アレキサンダー病ラットモデルに対するアンチセンス治療はGFAP病理所見、白質欠損、運動障害を回復させる
(Antisense therapy in a rat model of Alexander disease reverses GFAP pathology, white matter deficits, and motor impairment)
Hagemann et al. Sci. Transl. Med. 13, eabg4711 (2021)
アレキサンダー病(AxD)は、代表的な遺伝性白質変性症の1つである。脳の中にあるグリア系細胞の1つ、アストロサイトに特異的に発現する遺伝子GFAPに変異が起こることで、異常なGFAPタンパク質が過剰に産生され、これがアストロサイトに対して毒性を持つため、大脳白質の変性が生ずる。これまでに有効な治療法がない、難病の1つである。筆者らは、以前、AxDモデルマウスにアンチセンスオリゴ(ASO)を用いてGFAPタンパク質の発現を抑制することで、この疾患に特徴的な脳の病変を軽減することができることを報告した。しかし、このモデルマウスは表現型が軽症で、ヒトのAxD患者に見られるような大脳白質変性や運動機能障害といった症状は見られないため、本治療法が本当にAxD症状を軽減することができるのか不明であった。そこで本研究で筆者らは新たにラットAxDモデルを創出し、ASO治療の有用性について検証を行った。ゲノム編集を用いて、ラットのGFAP遺伝子に重症型AxD患者で見出されたR239H変異を導入した。このラットモデルは、AxD患者脳組織に特徴的に認められる病理学的所見を有する。出生後しばらくは正常であるが、数週間後から運動症状を来たし、14%の動物が2〜3ヶ月で死亡する。このラットモデルにGFAPを標的とするASOを脳室内に1回投与するのみでこれらの症状が軽減することが示された。特記すべきは、ASOによる治療は早期投与によりAxD症状が生ずることを予防するのみならず、すでに症状がある動物に投与した場合でもこれらを回復させることができるという点である。ASOは、脊髄性筋萎縮症やデュシェン型筋ジストロフィーに対する治療薬としてすでに実用化されている。AxDについても国際治験が開始されており、実用化が近いと思われる。
2022.3.4 文責:井上 健
DOI: 10.1126/scitranslmed.abg4711
低分子化合物によってスプライシングを誘導することで制御された遺伝子治療法の開発
(Regulated control of gene therapies by drug-induced splicing)
Nature 2021 Aug 12; 596, 291–295.
これまで、AAVなどを用いた遺伝子治療において、遺伝子の発現レベルを細かく制御することは困難でした。筆者らはこの研究で、ある小分子(薬)を用いた選択的スプライシングの制御が可能な応用度の高いスイッチシステムXon を開発しました。Xonを発現させたい遺伝子の上流に設置することで、AAVからの目的遺伝子の翻訳レベルを薬剤で制御できること報告しています。重要な点は、Xonをオンにするために用いる薬剤LMI070は、ヒトで安全に使用することができ、経口投与が可能で、末梢組織のみならず脳にも分布することです。Xonは、LMI070により選択的スプライシングが変化し、翻訳開始コドンを含む新たなエクソンが挿入されることで、目的遺伝子の発現が可能になるシステムです。遺伝子発現の誘導は、LMI070の単回経口投与で可能であり、発現量は薬物投与量に依存的です。繰り返し投与によって1回目投与と同レベルの発現を繰り返し誘導できます。筆者らは、LMI070単回投与による肝臓でのGFP発現誘導(1900倍)、繰り返し投与によるエリスロポエチン遺伝子治療を介した赤血球増産の長期維持、そして中枢神経系においても神経細胞特異的プロモーターとの組み合わせでプログラニュリン遺伝子の2300倍の発現を誘導することができることを報告しています。AAVからのタンパク質発現の時間的制御を可能にするXonシステムは、細胞生物学や動物を用いた研究への応用が期待されます。さらに使用される薬剤LMI070の経口バイオアベイラビリティと安全性は、Xonスイッチシステムをヒトにおける遺伝子治療に即座に応用することを可能にしますので、今後の遺伝子治療の幅が広がると考えられます。この技術は、例えば適切な発現量の調節が必要な疾患の遺伝子治療法の開発や、一時的にだけ目的タンパク質を発現したい場合(例えばゲノム編集)など様々な分野での応用が期待されます。
2022.1.7 文責:井上 健
doi.org/10.1038/s41586-021-03770-2.
マイクロRNAを用いて導入遺伝子を抑制することで霊長類でのAAVベクターによる後根神経節毒性を軽減する
(MicroRNA-mediated inhibition of transgene expression reduces dorsal root ganglion toxicity by AAV vectors in primates.)
Sci Transl Med. 2020 Nov 11;12(569):eaba9188.
難病の遺伝子治療のためのツールとして期待されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、他のウィルスベクターに比較して安全性が高いことが知られている。しかし、近年非ヒト霊長類(NHP)の中枢神経系に血液または脳脊髄液を介して送達すると、高い確率で後根神経節(DRG)の毒性を引き起こすことが知られるようになり、ヒトに対するAAV遺伝子治療法の安全性に関する懸念材料の1つとなっている。このDRG毒性は、免疫抑制薬では抑止できないことから、筆者らはこれがDRGニューロンに対する高い形質導入率と過剰な導入遺伝子産物のよる細胞ストレスによって引き起こされるのではないかと考えた(Fig.S2a)。この仮説を検証し、さらにこのDRG毒性を排除するアプローチを開発するために、DRGニューロンに限定して発現しているmicroRNA(miR)183複合体の内因性発現を利用して、DRGニューロン特異的に導入遺伝子発現を抑制した(Fig.S2b)。すなわちmiR183の標的配列をベクターゲノム内の導入遺伝子メッセンジャーRNAの3 '非翻訳領域内に導入した。このベクターをNHPの大槽に注入したところ、未修飾のAAVベクターの投与は、DRGへの強力な形質導入とステロイド抵抗性のDRGニューロンの毒性をもたらした。一方でベクターにmiR183ターゲットを含めると、脳の他の場所での形質導入に影響を与えることなく、DRGニューロンでの導入遺伝子の発現と毒性が低下した。このアプローチにより、AAVによる遺伝子導入がもたらすDRG毒性とこれが関連する罹患の発生率を低減できる可能性があり、多くの中枢神経系疾患に対するより安全性の高いAAV遺伝子治療法の開発を促進するであろう。
文責:井上 健
DOI: 10.1126/scitranslmed.aba9188.

shRNA搭載AAV9による遺伝性ニューロパチーの遺伝子発現抑制治療法の開発
(AAV2/9-mediated silencing of PMP22 prevents the development of pathological features in a rat model of Charcot-Marie-Tooth disease 1 A.)
Nature Communication. 2021 Apr 21;12(1):2356.
Charcot-Marie-Tooth病1A型(CMT1A)は、最も頻度が高い遺伝性疾患の1つで、常染色体優性形式をとる。17番染色体に位置するPMP22遺伝子の重複が主な原因である。これまで有効な治療法は開発されていない。そこで筆者らは、組み替えアデノ随伴ウィルス(AAV)にGFPとPMP22遺伝子を標的としたshRNA(RNA干渉により遺伝子の発現を抑制できる小さなRNA)を組み込み、CMT1Aのモデルラットの坐骨神経への直接投与においてその安全性と有用性の検討を行った。血清型はAAV9が用いられた。投与されたAAVは坐骨神経に分布するシュワン細胞に広がり、過剰発現されたPMP22を正常量に修正し、ミエリンを再生し、電気生理学的所見や運動感覚神経機能を改善させた。オフターゲット効果も免疫反応も限定的であった。さらにヒト患者皮膚から同定されたバイオマーカーが、ラットにおいても治療の有無の判定に有効であった。
文責:井上 健