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遺伝性白質疾患ガイドライン

サラ病
Salla disease(SD、OMIM#604369)

疾患説明;  シアリン(sialin)をコードするSLC17A5遺伝子の異常によりみられる稀な常染色体劣性リソソーム蓄積症である。遊離シアル酸蓄積症として総称され、臨床的重症度から重症型が乳児型シアル酸蓄積症(ISSD)、軽症型がサラ病に分類される。乳児期から体幹運動失調や筋緊張低下、眼振を呈し、精神運動発達遅滞や成長遅延が明らかとなる。その後は成人期にかけ痙直やアテトーシス、運動失調、髄鞘低形成などがみられる。

1. 概要

定義

遊離シアル酸蓄積症は、SLC17A5遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝疾患で、リソソーム内に遊離シアル酸が蓄積することで発症する神経変性疾患である。臨床的な重症度により、重症型である乳児型シアル酸蓄積症(infantile free sialic acid storage disease; ISSD、OMIM#269920)、軽症型であるSalla病、その中間の重症度を示す中間重症型Salla病に分類されている(1, 2)。

疫学

Salla病は、フィンランドを中心にスウェーデンやデンマークなどの北欧に症例が集積しており、中間重症型Salla病23例を含む約200例が報告されている(3)。フィンランドでは、患者の90%以上がSLC17A5遺伝子のp.Arg39Cysの変異を有し、保因者頻度は1:100〜200である(4)。本邦では稀だが、これまでにISSDが1例、Salla病が1例報告されている(5, 6)。

病因・病態

通常、リソソーム内ではシアリダーゼによる糖タンパク質や糖脂質の分解により遊離型のシアル酸(N-acetylneuraminic acid)が生じ、リソソーム膜の輸送タンパク質であるシアリンにより、リソソーム外へ輸送される。Salla病を含む遊離シアル酸蓄積症では、このシアリンをコードするSLC17A5遺伝子の変異により、リソソームから遊離シアル酸を運び出す機能が障害され、リソソーム内にシアル酸が蓄積することで発症する。遊離シアル酸の蓄積がどのように細胞機能の障害につながるかは明らかになっていない(1, 7)。

臨床症状

Salla病は、出生時は無症状で、乳児期に体幹失調や筋緊張低下で気づかれることが多い。小児期早期から発達遅滞や成長遅延がみられ、約1/3は自立歩行が可能になるが、その後成人期にかけて運動失調、痙性、アテトーシスや認知・運動機能の退行が緩徐に進行する。てんかんを合併することがあり、欠神発作の頻度が多い。ISSDは、重度の発達遅滞、粗な顔貌、肝脾腫、骨格変形、痙攣などを呈するが、Salla病では粗な顔貌、肝脾腫、骨格変形は通常みられない(1, 3)。

検査・画像所見

リソソーム内への遊離シアル酸(N-acethylneuraminic acid; NANA)蓄積により、尿中への排泄が増加するため(正常の100倍以上のことが多い)、尿中遊離シアル酸の測定が診断に有用である(8)。多くは髄液中でも遊離シアル酸の増加がみられ、培養線維芽細胞ではリソソーム内に限局した遊離シアル酸の蓄積が確認される。頭部MRIでは、Salla病では異常所見を認めないこともあるが、大脳の髄鞘形成異常を示唆するT2強調画像での白質の広範な高信号(hypomyelinating pattern)や、脳梁の低形成、小脳の萎縮がみられる。MRSではN-acetylaspartate (NAA)の高値がみられ、診断的に有用な所見である(1, 9)。

遺伝子診断

尿や髄液、線維芽細胞中の遊離シアル酸の増加によりSalla病が疑われた場合、原因遺伝子であるSLC17A5遺伝子の病原性変異を同定することにより診断が確定される。遺伝子型と表現型の相関については、創始者変異であるp.Arg39Cysのホモ接合性変異を有する場合、軽症型の遊離シアル酸蓄積症であるSalla病を引き起こすことが報告されている(1, 10)。

2. 治療、ケア

Salla病の治療は対症療法が主体となる。運動やコミュニケーション能力を維持するためのリハビリテーションや、適切な栄養管理、痙攣に対する抗てんかん薬治療を行う。

3. 予後

Salla病は、成人期以降も緩徐に進行し、歩行不能、寝たきりの状態に陥ることが多い。生命予後は短縮されると考えられているが、70歳まで生存する例も報告されている。ISSDでは、胎児水腫、肝脾腫、発育不全、粗な顔貌、痙攣、骨変形を呈し、幼児期に死亡する。

4. 鑑別診断

尿中シアル酸が増加する疾患として、シアル酸尿症、シアリドーシス、ガラクトシアリドーシスの鑑別が必要である。シアル酸尿症は、リソソーム内ではなく細胞質に遊離シアル酸が蓄積し、ISSDと同様に粗な顔貌や肝脾腫を呈するが、骨変形や重度な発達遅滞や退行はきたさない(11)。シアリドーシスはシアリダーゼの欠損、ガラクトシアリドーシスはβガラクトシダーゼの欠損により、糖タンパク質、糖脂質に結合した結合型シアル酸が増加し、尿中シアル酸も軽度の増加がみられる。いずれもそれぞれの酵素活性を測定することで鑑別が可能である(12)。

5. 最近のトピック

遺伝カウンセリング、出生前診断

Salla病は常染色体劣性遺伝疾患であるため、両親が保因者である場合、次子は25%で罹患、50%が保因者、25%で非罹患となる。出生前診断は羊水細胞や絨毛生検標本の遊離シアル酸測定や、SLC17A5遺伝子の病原性変異が同定されている場合には、着床前遺伝子診断をすることにより可能である(1)。

引用文献

(末尾に記載のないものは全てエビデンスレベル6)

  1. Adams D, Gahl WA. Free Sialic Acid Storage Disorders. In: Pagon RA, Adam MP, Ardinger HH, et al., eds. GeneReviews(R). Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2017.
  2. Schleutker J, Leppänen P, Månsson JE, Erikson A, Weissenbach J, Peltonen L, et al. Lysosomal free sialic acid storage disorders with different phenotypic presentations--infantile-form sialic acid storage disease and Salla disease--represent allelic disorders on 6q14-15. Am J Hum Genet. 1995;57(4):893-901.
  3. Barmherzig R, Bullivant G, Cordeiro D, Sinasac DS, Blaser S, Mercimek-Mahmutoglu S. A New Patient With Intermediate Severe Salla Disease With Hypomyelination: A Literature Review for Salla Disease. Pediatr Neurol. 2017;74:87-91.
  4. Aula N, Salomäki P, Timonen R, Verheijen F, Mancini G, Månsson JE, et al. The spectrum of SLC17A5-gene mutations resulting in free sialic acid-storage diseases indicates some genotype-phenotype correlation. Am J Hum Genet. 2000;67(4):832-40.
  5. Nakano C, Hirabayashi Y, Ohno K, Yano T, Mito T, Sakurai M. A Japanese case of infantile sialic acid storage disease. Brain Dev. 1996;18(2):153-6.
  6. Ishiwari K, Kotani M, Suzuki M, Pumbo E, Suzuki A, Kobayashi T, et al. Clinical, biochemical, and cytochemical studies on a Japanese Salla disease case associated with a renal disorder. J Hum Genet. 2004;49(12):656-63.
  7. Havelaar AC, Mancini GM, Beerens CE, Souren RM, Verheijen FW. Purification of the lysosomal sialic acid transporter. Functional characteristics of a monocarboxylate transporter. J Biol Chem. 1998;273(51):34568-74.
  8. Valianpour F, Abeling NG, Duran M, Huijmans JG, Kulik W. Quantification of free sialic acid in urine by HPLC-electrospray tandem mass spectrometry: a tool for the diagnosis of sialic acid storage disease. Clin Chem. 2004;50(2):403-9.
  9. Varho T, Komu M, Sonninen P, Holopainen I, Nyman S, Manner T, et al. A new metabolite contributing to N-acetyl signal in 1H MRS of the brain in Salla disease. Neurology. 1999;52(8):1668-72.
  10. Tarailo-Graovac M, Drögemöller BI, Wasserman WW, Ross CJ, van den Ouweland AM, Darin N, et al. Identification of a large intronic transposal insertion in SLC17A5 causing sialic acid storage disease. Orphanet J Rare Dis. 2017;12(1):28.
  11. Enns GM, Seppala R, Musci TJ, Weisiger K, Ferrell LD, Wenger DA, et al. Clinical course and biochemistry of sialuria. J Inherit Metab Dis. 2001;24(3):328-36.
  12. Gahl WA, Krasnewich DM, Williams JC. Sialidoses. In: Vinken PJ, Bruyn GW, eds. Handbook of Clinical Neurology. Vol 66, chapter 18. Amsterdam, Netherlands: Elsevier; 1996:353-75.
文献検索

PubMed

  • "Salla disease"[MeSH Terms] OR ("Salla "[All Fields] AND "disease"[All Fields])
    279件

医中誌

  • "Salla病/AL " 
    22件