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  • 遺伝性白質疾患
  • 先天性大脳白質形成不全症

遺伝性白質疾患ガイドライン

HSP60 chaperon病
(Mitochondrial Hsp60 chaperonopathy;MitCHAP60,HLD4,OMIM #612233)

疾患説明; ミトコンドリア内のシャペロニン(heat shock protein)の1つである、Hsp60をコードするHSPD1遺伝子の異常による中枢神経系の髄鞘形成不全症である。常染色体劣性遺伝形式をとる。乳児期早期から痙性、発達遅滞、退行を生じ、重症例では生後1-2年で死亡する。現在、有効な治療法はなく、対症的な治療が行われる。

1. 概要

定義

ミトコンドリア内のシャペロニン(ミトコンドリアマトリックス内の蛋白構築系の主要構成要素の1つ)の1つである、Hsp60蛋白質の異常による先天性大脳白質形成不全症である.原因遺伝子は2q33.1に位置するHsp60遺伝子(HSPD1)で,常染色体劣性遺伝形式をとる.

疫学

これまでに報告されたのは,血族結婚を繰り返したイスラエルの大家系(ベドウィン族)およびシリア人の患者のみである1)2)

病因・病態、

Hsp60はHsp10と共役し、アデノシン三リン酸(ATP)が加水分解した際に生じるエネルギーを利用してミトコンドリア内に取り込まれた蛋白の折りたたみ構築を助ける。また酸化ストレスの存在下で不適切に折りたたまれた蛋白構造を修正する役割を有する。Hsp60蛋白の異常により、ミトコンドリア内に不適切な折りたたみを受けた蛋白の蓄積、およびそれらのアポトーシス増加がみられ、本症を発症すると考えられる。

臨床症状

生直後〜3カ月より筋緊張低下,眼振,精神運動発達遅滞に気付かれる.乳児期早期から顕著な痙性,発達遅滞,退行(頸定不可)をみる.てんかんの合併は約半数に見られる。摂食不良による栄養不良ならびに成長障害をみる。20歳までに嚥下性肺炎や原因不明の突然死により死亡する症例が多い。有熱時には無呼吸や呼吸促迫が生じ、出生後1−2年で死亡する重症例もある.2年以上生存した患者は,進行性の四肢の痙性麻痺と拘縮を認める(長期生存例は14歳)。家族内・家族間での表現型の差異を認める。

検査・画像所見

MRIでは大脳および小脳白質にT2強調画像でび漫性の高信号を示し,髄鞘化がほぼ認められない。脳梁の菲薄化と脳室拡大,脳幹と小脳の萎縮も認める。MRSではグリアの増生を反映し、mⅠ/Cre比の上昇がみられる。聴性脳幹反応ではI波の遅延とII波以降の消失をみる。血液および髄液の乳酸・ピルビン酸の上昇はみられないのが一般的である。

遺伝子診断

Hsp60をコードする遺伝子である、HSPD1のDNA塩基配列決定法による。報告された家系ではいずれもD29G変異のホモ接合体で発症し,へテロ接合体の保因者は無症状である。HSPD1の他の変異は,常染色体優性遺伝形式をとる痙性対麻痺13型(SPG13;OMIM#605280)の原因となる3)

2. 治療、ケア

現時点では、対症的な治療のみである。

3. 食事・栄養

低緊張に伴う嚥下力の低下による摂食障害に伴い、発育不全や栄養障害が生じうる。経鼻胃管等による栄養が必要になることが多い。

4. 予後

2歳未満で亡くなる例から、長期では14歳の生存例があり、幅が広い。

5. 鑑別診断

PLP1遺伝子およびGJC2遺伝子に伴うPMD、PMLDが最も重要な鑑別診断となる。

6. 最近のトピックス

およそ半数の例で、尿中エチルマロン酸,およびメチルコハク酸の上昇がみられる。尿中エチルマロン酸は短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(SCAD)のマーカーであり、Hsp60蛋白機能低下とSCAD蛋白の異常合成との関連が示唆されている。

引用文献

(末尾に記載のないものは全てエビデンスレベル6)

  1. Daniella M, Costa G, Petter Bross, et al.Mitochondrial Hsp60 Chaperonopathy Causes an Autosomal-Recessive Neurodegenerative Disorder Linked to Brain Hypomyelination and Leukodystrophy.  Am J Hum Genet. 2008;83:30-42.
  2. Kusk MS, Damgaard B, Risom L, et al. Hypomyelinating Leukodystrophy due to HSPD1 Mutations: A New Patient. Neuropediatrics 2016;47:332-5.
  3. Hansen JJ1, Dürr A, Cournu-Rebeix I, et al. Hereditary spastic paraplegia SPG13 is associated with a mutation in the gene encoding the mitochondrial chaperonin Hsp60. Am J Hum Genet. 2002;70:1328-32.