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遺伝性白質疾患ガイドライン

MCT8欠損症(Allan-Herndon-Dudley症候群)

疾患説明 ; MCT8特異的甲状腺ホルモン細胞トランスポーター異常症は、重度知的障害、言語障害、筋緊張の低下、異常運動などを特徴とする遺伝性疾患である。MCT8は特にT3のトランスポーターであり、この機能不全によりT3が細胞に取り込まれず、結果として血中濃度が上昇する。患者においては大脳白質における髄鞘形成が遅れるため、頭部MRI検査によって髄鞘形成不全が疑われる所見が認められることによって鑑別に挙がる場合が多い。MCT8をコードするSLC16A2遺伝子はXq13.2に位置しており、X連鎖劣性遺伝パターンを示す。従って患者は基本的に全て男性であり、母親は多くの場合無症候性保因者である。

1. 概要

定義

1944年、AllanとHerndon、Dudleyらは6世代に亘り、計24例の男児において重度の知的障害を示した家系を報告した。その後、同様の報告があり、Allan-Herndon-Dudley症候群とする疾患概念が確立した。2004年、Dumitrescuらは重度の知的障害に甲状腺T3の上昇を伴う血縁のない2男児例において、SLC16A2変異を明らかにした[1]。その後、これまでに100近い遺伝子変異が報告されている。

疫学

非常に稀であり、日本ではこれまで10例程度が報告されているに過ぎない[2, 3] 。

病因・病態

甲状腺ホルモンは神経細胞の活動において必須である。T3のトランスポーター機能が損なわれ、血中のT3が神経細胞に取り込まれないことで神経症状を来す。細胞に取り込まれず、血中でT3が高い値を示したままであると、他の臓器に影響を及ぼすと考えられている。

臨床症状

乳児期から筋緊張低下と発達の遅れを示す。著しい成長障害も認められる。てんかん発作を来すこともある。発達の遅れは重度であり、しばしば寝たきりの状態である。徐々に嚥下障害や側彎等による呼吸不全が進行し、予後に影響する。

検査・画像所見

血中T3高値も他の甲状腺機能に異常がないことが特徴的である。大脳白質の髄鞘形成が進む1歳から3歳頃に頭部MRI検査を行うと、しばしば髄鞘形成不全の所見(T2-high)が認められ、このことが診断の一助となる。ただし、その後髄鞘形成は改善するため、髄鞘形成とは言えず、単に髄鞘形成が遅れるだけと考えられる。

遺伝子診断

Xq13.2に位置するSLC16A2遺伝子のミスセンス変異、あるいは欠失等が原因となるため、全エクソンのサンガー法が適応となる。欠失の場合はPCRで増幅されないことから診断できる。

2. 治療・ケア

甲状腺ホルモンの補充は効果がない。海外では新たな治療薬開発の研究が進められているが、今のところ根本的な治療法はない[4]。そのため、てんかんに対しては抗てんかん薬、経口摂取不良に対しては経管栄養や胃瘻、呼吸不全には気管切開、など対症療法が中心となる。

3. 食事・栄養

特に推奨される食事や栄養はない。

4. 予後

呼吸不全が生命予後に影響する。

5. 鑑別診断

頭部MRI検査によって髄鞘形成の遅れが認められると大脳白質形成不全症としてPMDが鑑別に挙げられる場合が多い。ただ、血中T3高値が認められれば比較的診断は容易である。

6. 最近のトピックス

海外では治験の試みがあるようだが、定まった評価はない。

引用文献

(末尾に記載のないものは全てエビデンスレベル6)

  1. Dumitrescu AM, Liao XH, Best TB, Brockmann K, Refetoff S. A novel syndrome combining thyroid and neurological abnormalities is associated with mutations in a monocarboxylate transporter gene. Am J Hum Genet 2004;74:168-75.
  2. Yamamoto T, Shimojima K, Umemura A, Uematsu M, Nakayama T, Inoue K. SLC16A2 mutations in two Japanese patients with Allan-Herndon-Dudley syndrome. Human Genome Variation 2014;1:14010.
  3. Shimojima K, Maruyama K, Kikuchi M, Imai A, Inoue K, Yamamoto T. Novel SLC16A2 mutations in patients with Allan-Herndon-Dudley syndrome. Intractable Rare Dis Res 2016;5:214-7.
  4. Braun D, Schweizer U. The Chemical Chaperone Phenylbutyrate Rescues MCT8 Mutations Associated With Milder Phenotypes in Patients With Allan-Herndon-Dudley Syndrome. Endocrinology 2017;158:678-91.
文献検索

PubMed

  • slc16a2[All Fields] OR mct8[All Fields]334件