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遺伝性白質疾患ガイドライン

GL大脳白質形成不全症とはどのように治療しますか

先天性白質形成不全症では、現在のところ根本的な治療がないため、各症状に応じて苦痛の軽減を目的とした対応を行う。小児科、内科、神経内科、呼吸器科や整形外科などの専門家、看護師、各療法士からなるチーム医療で対応し、急性期、慢性期を通して、予防的や心理社会的な方針を検討すべきである。中枢神経症状としては、知的障害、自律神経障害、てんかん、不随意運動などがある。各臓器症状としては、呼吸器、消化器、循環器、泌尿器、整形外科、感覚器などの障害があるが、それぞれ患者に不都合が生じないように対応する。

1. 発達の遅れ、知的障害

出生時期に特に問題ないことが多いが、発達の遅れ、知的障害、学習障害として気付かれる。知的障害に、運動障害を伴うことから最も罹患率の多い、脳性麻痺児と同様の療育を受けることが多い。脳性麻痺との違いは、発達退行が脳性麻痺よりもはっきりと現れる点にある。成人発症の場合は、認知症様症状やその他の精神症状で気付かれる。多くは進行していくことが予想されるため、生活、雇用、経済的サポート等、将来設計を見据えての環境整備が必要になる。

2. 自律神経障害

頻度はとても多いが潜在的で軽微な症状は気づかれにくい。各臓器で消化器(便秘、便失禁)、泌尿器(尿閉、尿失禁)、循環器(不整脈、起立性低血圧)、体温調整(発汗減少)などがある。対応は対症療法となるが、存在を認識することが重要である。

3. てんかん

てんかん発作の抑制は難治な場合が多いため、発作に伴う外傷、脳症、誤嚥、入院などを防ぐことを目標にする。治療は発作のタイプにより、部分発作にはカルバマゼピン(10-20 mg/kg分2)を第一選択とし、第二次選択薬としてはレベチラセタム(40-60mg/kg分2)、ラモトリジン(1-15 mg/kg分2)、トピラマート(5-9 mg/kg分2)、ゾニサミド(4-8 mg/kg分2)、バルプロ酸(10-30 mg/kg分2-3)、クロバザム(0.2-1 mg/kg分2)等を用いる。全般発作には第一選択薬バロプロ酸、フェノバルビタール (2-5mg/kg分1-2)を用い、第二次選択薬としてはラモトリジン、トピラマート、ゾニサミド、クロバザム等を用いる。

4. ジストニア、痙直

ジストニアは不随意で持続的な屈筋、伸筋の同時収縮であり、ねじれや異常な姿位となる。随意運動、感情、不快な刺激などで誘発され、本人へ疼痛や整形外科的な障害をもたらす。痙直は、相動性伸張反射の増強を主体とする筋緊張が亢進した状態である。それにより疼痛や歩行などの運動が障害されるようであれば、理学療法や定期的なストレッチ運動などで管理する。薬物療法としては、全身性の筋緊張亢進、ジストニアに関してはエペリゾン(1-4mg/kg分3), ジアゼパム(0.1-0.3mg/kg分1-3)、バクロフェン(0.1-0.3-0.6mg/kg分1-3)、ダントロレンナトリウム(0.5-3mg/kg分2-3)、ジサニジン(0.05-0.1-0.15mg/kg分1-3)、フェノバルビタール(2-5 mg/kg分1-2)を用いる。重症例では、バクロフェンの髄腔内注入、深部脳刺激療法などがある。局所性のジストニア、痙性では、ボツリヌス毒素(1-3U/Kg)を用いる(最大3ヶ月毎)。

5. 呼吸・摂食障害

重症度の高い患者は、早期から咽頭喉頭機能不全のために嚥下困難や誤嚥性肺炎を起こしやすく、注意しておくことが肝心である。経口摂取が難しい症例では経鼻胃管あるいは胃瘻からの栄養補給が行われ、胃食道逆流を伴う場合は噴門形成術を併用する。レントゲン撮影下の嚥下機能の評価をし、適切な栄養や水分の補給をより安全に行うため、経管栄養の適応を検討する。マスクによる非侵襲的陽圧換気療法や機械的な呼吸補助具は他の筋疾患では有効であることが多いが、この疾患群でも症状に応じて検討する。それらを行なっても肺炎などの気道感染や痰による窒息を繰り返す場合には、気管切開による人工呼吸管理が必要な場合がある。しかし筋緊張の異常や感覚過敏の症例では、むしろ分泌物増加や人工呼吸器のケアにより労力を要するなど、状態を必ずしも好転させるとは限らず、適応は慎重に検討する。

6. 泌尿器系機能障害

頻度も多く重要な合併症である。失禁や排尿障害としての症状が主であるが、それらは細菌による尿路感染症のリスクにつながる。尿路感染症は疼痛や不快感の原因となり、時に重篤になり入院加療を要する。複数回の尿路感染症の既往があれば、泌尿器科と連携して診療を行う。自律神経障害、神経因性膀胱、便秘症なども二次的なリスクにつながる。排尿障害の伴う弛緩性膀胱であれば尿道カテーテルの間歇導尿や持続留置も検討する。

7. 側弯・股関節脱臼

側弯は進行性で心肺機能や生活の質にも影響を与える。大切なことは予防することであり、毎回の診察時に確認する。疑われた場合は、レントゲン写真で確認し、装具で調整する。Cobb角が40-50度を超えてくる場合は手術が考慮される。股関節脱臼は筋緊張低下、痙直、けいれん、骨の脆弱性などが原因で、かつ大腿骨が内転・内旋・屈位になりやすいためにおこる。外転位保持夜間装具が必要となる場合がある。高度例では整形外科的な腸腰筋延長・切離術をおこなう。

8. 骨量減少・骨折

体動の少なさ、日光に当たる時間の減少、低栄養などから、骨量減少や骨折のリスクが高くなる。さらにいくつかの抗てんかん薬や逆流性食道炎予防のための長期のプロトンポンプ阻害薬は、骨の脱塩や骨折のリスクが上昇するとされている。骨折予防のためには、定期的な血中カルシウム、ビタミンDの評価が必要であり、DEXA法などの骨密度測定も推奨される。

9. 視覚、聴覚、言語障害

大脳皮質や網膜の障害、白内障、緑内障で視力障害をきたす。聴覚も同様に大脳皮質障害による。急激に意思疎通が不良になった患者では、聴力検査を試みるべきである。視覚障害や聴覚障害のある子どもとのコミュニケーションに際しては、電気的なコミュニケーションツールなどを用いると容易になることがある。

10. 睡眠障害

頻度は多いが周囲に気付かれにくい。原因は、疼痛、行動障害、多剤服用薬剤の副作用、舌根沈下などによる閉塞性呼吸障害、大脳障害による自律神経失調など多岐にわたる。環境調整から開始するが、投薬ではメラトニンが最も安全で忍容性が高く、効果も期待できる。次に鎮静効果のあるベンゾジアゼピン系のゾルピデムやテマゼパムなども用いられるが、過睡眠、筋緊張低下による舌根沈下、分泌物増加があるので、導入や維持は慎重に行う。

【参考文献】
  • Helman, G., Van Haren, K., Bonkowsky, JL., Bernard, G., Pizzino, A., Braverman, N., Suhr, D., Patterson, MC., Ali Fatemi, S., Leonard, J., van der Knaap, MS., Back, SA., Damiani, S., Goldman, SA., Takanohashi, A., Petryniak, M., Rowitch, D., Messing, A., Wrabetz, L., Schiffmann, R., Eichler, F., Escolar, ML., Vanderver, A.; GLIA Consortium. Disease specific therapies in leukodystrophies and leukoencephalopathies.
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  • Van Haren, K., Bonkowsky, JL., Bernard, G., Murphy, JL., Pizzino, A., Helman, G., Suhr, D., Waggoner, J., Hobson, D., Vanderver, A., Patterson, MC.; GLIA Consortium. Consensus statement on preventive and symptomatic care of leukodystrophy patients. Mol Genet Metab 2015; 114: 516-26.
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    Revised consensus statement on the preventive and symptomatic care of patients with leukodystrophies.
    Mol Genet Metab. 2017;122:18-32.
【検索式】
  • leukodystrophy[All Fields] AND ("therapy"[Subheading] OR "therapy"[All Fields] OR "treatment"[All Fields] OR "therapeutics"[MeSH Terms] OR "therapeutics"[All Fields])
    2017, 11, 26. ヒット747件
  • leukodystrophy[All Fields] AND care [All Fields]
    2017, 11, 26. ヒット70件