5. 悪性黒色腫(メラノーマ)
悪性黒色腫はメラニン色素を作り出すメラノサイトが癌化して発生する皮膚癌です。人種差があり、白人で発生が最も多く、日本人は10万人あたり1~2人とされています。
原因
はっきりとした原因は不明です。外的刺激、紫外線などが誘因となることがあります。
症状
多くは黒色調の色素斑ないし腫瘤です。ときにほくろとの区別が難しいことがあります。一般的に左右非対称の不規則な形、病変の境界が不明瞭・不均一、色調に濃淡がある、大きさがやや大きい、表面が隆起しているなどの所見があることが多く、これらの所見を総合的に加味して診断します。まれに無色素性黒色腫とよばれる赤色調の病変があり、診断が非常に難しい場合があります。
病型分類
見た目の所見、顕微鏡の所見、予後から4型に分類されます。
- 悪性黒子型
高齢者の顔面に多く、10年以上かけて水平方向に徐々に大きくなり、病変内に腫瘤や潰瘍が生じます。慢性の紫外線照射が関係するといわれています。 - 表在拡大型
あらゆる年齢層の体幹、下腿に生じます。紫外線照射が関係するといわれており、白人では最も多い病型です。 - 結節型
結節、腫瘤のみで色素斑が生じない病変です。腫瘍の厚さが予後に関係するため、この病型は一般に予後がよくありません。 - 末端黒子型
一般に青年から壮年期以降の足底や手足の爪に生じます。最初は不整形の黒色斑で始まり、数ヵ月から数年を経て色素斑内に結節や腫瘤、潰瘍を生じます。外的刺激が誘因になることがあります。日本人では最も多い病型です。
これら4病型の他に眼瞼、鼻腔、口唇、口腔、外陰部などの粘膜に生じることもあります。外的刺激が誘因となると考えられています。皮膚に生じる悪性黒色腫よりも治療が難しい場所で、血管やリンパ管などが豊富であるため、一般に予後がよくありません。
治療
病変の厚さ、潰瘍の有無、所属リンパ節・他の臓器への転移の有無など病気の進行により治療が異なります。
臓器転移を生じていない例では手術による切除、所属リンパ節の生検ないし郭清、および術後補助化学療法が行われます。病変は境界より0.5~2cm程度離して切除します。所属リンパ節の転移が明らかでない場合は、リンパ節生検を行い転移が判明したらリンパ節郭清を行います。所属リンパ節転移が明らかな場合は同様にリンパ節郭清を行います。病期Ⅲ以上では術後に補助療法を行います。
リンパ節転移が広範囲に及んだり、臓器に転移がある場合は、免疫チェックポイント阻害剤や分子標的治療薬などの化学療法を主体とし、外科治療、放射線治療を加えた集学的治療が行われます。
免疫チェックポイント阻害薬とは
通常、我々の体内では、細菌やウイルス、がん細胞を排除するために免疫が働いています。免疫状態を安定させるために、免疫を活性化する“アクセル”と抑制する“ブレーキ”がバランスを保っています。さらに、免疫を抑制するブレーキの役割の1つに免疫チェックポイント分子があり、PD-1やPDL-1、CLTLA-4などが発見されています。免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫チェックポイント分子を阻害(働けなく)する薬剤で、抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CLTLA-4抗体などが開発されています。すなわち、免疫を抑制するブレーキを開放し、免疫を活性化することで、がん細胞を攻撃、排除することを目的とした薬剤です。悪性黒色腫の治療以外でも、メルケル細胞癌や、頭頚部癌、肺癌、胃癌、腎細胞癌、悪性リンパ腫など、さまざま悪性腫瘍の治療に使用されています。残念ながら、全ての悪性黒色腫に有効ではなく、奏効率は約30-60%となっています。また、副作用には、発熱、肝障害、皮疹などの他に、免疫活性化による独特な副作用として、間質性肺炎や腸炎、重症筋無力症、1型糖尿病、甲状腺炎、下垂体機能障害、血小板減少など、さまざまな副作用が報告されています。ちなみに、2018年のノーベル医学生理学賞は、PD-1を発見した本庶佑先生と、CTLA-4を発見したジェームス・アリソン先生に授与されました。