対象疾患
人工臓器・移植外科
当科では、肝機能が著しく低下して様々な内科的治療でも改善を期待できない方に対して、最終的な治療法である「肝移植」(=肝臓全体もしくは一部を移し替える)を提供します。
そして、肝臓は様々な原因で機能不全に陥り得るため、肝移植の対象疾患は多岐に渡ります。
しかし、後述のように、肝移植レシピエントの手術適応には施設間で差があるのが現状です。
東大病院・人工臓器移植外科では「諦めない、見捨てない」をモットーに、どんなに重症の肝不全の方でも肝移植による救命の可能性を模索します。
他施設で肝移植適応ではない、と断られた場合でも、是非とも一度ご相談ください。
全般的な条件
まず、以下の条件を満たすことが必要です。
肝移植の治療は、患者さん本人だけでは完結できるものではありません。
本人のみならず、ご家族のご理解・サポートが必須であることをご理解ください。
- 肝不全の原因疾患が肝移植の適応条件を満たす。(後述)
- 年齢:69歳以下(65歳以下が望ましいです)
脳死肝移植の登録は、登録時点で65歳以下であることが必要です。
- 悪性腫瘍(=癌)の併存がない。
- 肝臓以外における重篤な感染症がない。
- 必要な費用を負担できる。
- ご本人・ご家族から、 病状および肝移植に対して十分な理解とサポートが得られる。
肝移植の方法と対象疾患
肝移植には大きく分けて生体肝移植と脳死肝移植の2つの方法があります。
- 生体肝移植
- 生体ドナー(=健康な近しい親類縁者)から一部の肝臓を提供していただき、これを移植する。
- 脳死肝移植
- 脳死ドナーから提供いただいた全ての肝臓を、移植する。
稀に、分割した形で複数施設への提供となる場合もあり。
肝移植の対象疾患は以下の通りで、生体肝移植・脳死肝移植ともに対象疾患自体は変わりません。
ただし、脳死ドナーは日本全体で年間100件に満たない程度のため、他のレシピエントとの公平性を考慮する必要があり、生体肝移植と比較して適応の幅がより狭くなります。
- I群(緊急に肝移植が必要となる急性肝不全や代謝異常症など)
-
- 急性肝不全昏睡型、遅発性肝不全
- 尿素サイクル異常症
- II群(慢性疾患の進行による非代償性肝不全)
-
- 非代償性肝硬変
- ウイルス性肝炎(B型・C型)
- 自己免疫性肝炎
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
- アルコール性肝硬変
脳死肝移植では最低18ヶ月、生体肝移植では最低6ヶ月の断酒の確認が必要 - 特発性(原因不明)
- Budd-Chiari 症候群
- 原発性胆汁性胆管炎(PBC)
- 原発性硬化性胆管炎(PSC)
- 肝細胞癌:脈管浸潤がなく、かつ下記いずれかの基準内に収まる場合に限る
- ミラノ基準:腫瘍径≤3cmかつ腫瘍個数≤3個
- 5-5-500基準:腫瘍径≤5cmかつ腫瘍個数≤5個 かつAFP≤500ng/ml
- 肝芽腫
- 肝移植後のグラフト機能不全
- 先天性肝・胆道疾患
- 胆道閉鎖症
- 多発性肝嚢胞症(Polycystic Liver Disease)
- 先天性門脈欠損症
- 先天性代謝疾患
- ウィルソン病
- 家族性アミロイドポリニューロパチー など
- 非代償性肝硬変
非代償性肝硬変は、脳死肝移植はChild-Pughスコア ≥10点(Cに分類)に限られます。
一方、下図に示す通り、Child-Pughスコア 7-9点(Bに分類)であっても、高度の黄疸・難治性腹水/胸水・食道静脈瘤・・繰り返す胆管炎・制御不能な痒み、といった症状(非代償性要素)がある方は、Child-Pugh分類Cの方と同様に1年後の生存率が50%かそれ以下というデータがあります。
したがって、Child-Pugh B相当であっても上記のような非代償性要素が存在すれば、救命という観点では肝移植を実施することが望ましいです。
このため、当科ではこのような方々も積極的に生体肝移植の適応としています。
肝移植適応疾患のより詳細については、日本肝臓学会のホームページ(https://www.jsh.or.jp/medical/transplant/indications/criteria.html)もご参照ください。
Child-Pughスコア・MELDスコアについては、https://www.g-station-plus.com/forpatient/hcv/scoreで算出することができます。
脳死肝移植と生体肝移植、生体肝移植ドナーの条件
生体肝移植は脳死肝移植と比較して小さい肝臓を提供していただくことになりますが、日本における今までの結果を比較すると、両者に差はありません。
前述の通り、肝移植の適応となる方は1年後に生存している確率が半分以下という緊急性の高い状況です。
脳死ドナーが少ない現状では、もしも肝臓を提供いただける生体ドナーの方がいらっしゃるのであれば、生体肝移植の方が救命に繋がると考えています。
そして、生体肝移植ドナーとなられる方に必要な条件は下記の通りになります。
最も重要なことは、生体肝移植ドナーは「全くの自発的な意思(=他人に頼まれるわけではない)に基づいてなるもの」かつ「全くの健康体であること」です。
この上で、肝臓の解剖等の検討を行い、最終的にドナーの適格性を決定します。
この最終的な適格性の判断は施設によって若干の違いがありますので、他の施設で不可と言われた場合にも、よく説明をお聞きください。
生体部分肝移植ドナーの条件
- 自発的な臓器提供の意思があり、報酬を目的とするものであってはならない。
- 親族に限定する。親族とは6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族をいう(ただし施設によってはより厳しい基準を設けている)。
- 年齢:原則20歳以上の成人(上限は特に規定はないが、60歳あるいは65歳を上限とする施設が多い、下限については18歳、19歳についても一定の条件下で認められる)。
- 血液型は一致もしくは適合が望ましいが、不適合でも移植可能。
- 肝機能障害、ウイルス性肝炎を認めない、生来健康である(日本移植学会倫理指針)。
- 合併症、感染症がない。
- 造影CT、MRCPなどで部分肝グラフトの提供に関し、ドナーおよびレシピエント双方の安全性の観点から、解剖学的に不適格な点を認めない(肝臓のサイズや解剖につき、適格性の判断は施設による若干の相違がある)。
当科ではドナーの安全性を最優先します。生体肝移植においては患者の救命よりドナーの安全性が最優先事項です。ドナーを希望される方でも、僅かでも安全性に懸念がある場合はドナーをお断りします。
なお、生体肝移植ドナーの合併症・安全性については、「診療実績」の項で述べていますので、そちらをご参照ください。
患者さんへのメッセージ
上述のように、肝不全に対する肝移植の適応判断には施設間で違いがあります。
特に、非常に重度の肝不全に陥って日常生活の活動度(=ADL)が低下してしまった(歩けない、起き上がれないetc.)ために他施設で肝移植適応が無いと判断された患者さんが、当科に多数紹介されてきます。「重症過ぎる」「適格な生体ドナー不在」などの理由で、他施設で“門前払い”となった患者さんが当科には多く訪れ、再評価の上生体肝移植可能と判断して、肝移植により救命し得た方が多数います。
どんな患者さんでも、当科は「決して諦めない、見捨てない」をモットーに、肝移植による救命の可能性を模索いたします。
他施設で肝移植を断られた後、当科での肝移植により元気に日常生活へ戻られた患者さんを多数経験してきました。
患者さん・ご家族も決して諦めることなく、当科へご相談ください。
ご紹介いただく消化器科・肝臓科の先生方へのメッセージ
肝移植は、多くの科の協力を要するために限られた施設でしか行い得ない、まだまだ特殊な治療法です。
当科でも、外来においてtoo sickな状態での紹介をいただくケースが多数あり、肝移植という選択肢の周知・普及がまだまだ不十分であると痛感しています。
肝移植は、適切な状態でご紹介いただければ、より安全に肝不全患者を救命することが可能な治療法です。
非代償性肝硬変・肝不全の患者さんをご覧になった際、肝移植という選択肢を念頭に置いて当科にご一報いただければ幸いです。