高度技能専門医合格体験記
肝胆膵外科高度技能専門医取得まで
中沢 祥子 先生
この度、2023年肝胆膵外科高度技能専門医に合格いたしました。
取得までの道のりですが、私は2008年(平成20年)に東京女子医大を卒業し、東京大学医学部附属病院で2年間初期研修を行いました。この時1年目の外科ローテで肝胆膵外科を1.5か月まわらせていただいた時に、肝胆膵外科の手術がとても面白く楽しかったので、2年目の選択期間でも3ヶ月肝胆膵外科を選択いたしました。3年目の進路を決める時に肝胆膵外科に進んでもやっていけるのか、続けていけるのか、本当に悩みました。大変な科ですが挑戦したいという気持ちと、最後は勢いで肝胆膵外科に進むことを決意いたしました。
東大肝胆膵外科入局を前提に卒後3年目から5年目までは関連病院の、せんぽ東京高輪病院(現JCOH東京高輪病院)で一般外科を学び、卒後6年目に東大肝胆膵外科に入局しました。肝胆膵外科チームで14か月、移植チームで9か月学び、2015年4月(卒後8年目)に埼玉医科大学総合医療センターに異動となり、ここで初めて肝胆膵外科高難度症例の執刀を経験させていただきました。埼玉医大に3年間勤務後、卒後11年目に東大に帰局しました。東大では肝胆膵チームに12か月、移植チームに16か月配属され、この時の移植チームではレシピエントの手術も執刀させていただく機会がありとても貴重な経験となりました。その後、2021年1月から2023年3月まで防衛医大に勤務し、2023年4月から日本赤十字社医療センターに勤務しております。
高度技能専門医申請のための症例のカウントは2015年の埼玉医大から2021年の防衛医大までの7年間の症例になりますが、書類審査で申請した高難度症例数は54例(埼玉医大24例、東大19例、防衛医大11例)で、その内一番多く占めていたのはPDの23例でした。
ビデオ撮影を本格的に撮り始めたのは防衛医大からで、1回目の申請は書類審査通過、2回目の申請でビデオ合格(PD症例)となりました。ビデオ撮影後には、どこが悪かったか、もっとこうしたら良かったか、などビデオを見ながら毎回科内でディスカッションを行い、認識の共有を図りました。
今回合格できましたのも私一人だけの力ではなく、東大病院、埼玉医大総合医療センター、防衛医大、せんぽ東京高輪病院でお世話になりました先生方のお陰です。この場を借りて深く御礼申し上げます。
最後に肝胆膵外科を選択した女性医師として、肝胆膵外科に進むかどうか迷っている若手の女性医師に私の経験からお伝えできることは、少しでも肝胆膵外科に惹かれる部分があれば「思い切って飛び込んでみる」という選択肢もあるのではないかと思います。私も諦めずに頑張ってきて良かったなと思っています。この体験記が進路に悩んでいる若手の先生方のご参考になれば幸いです。
高度技能専門医取得の報告
星川 真有美 先生
肝胆膵外科高度技能専門医を取得しましたので、経緯をご報告します。卒後6年目で入局、移植を含めた肝胆膵外科の基本を学び、大学院と並行して9年目から防衛医科大学校病院第3外科にて、高度技能症例術者修練を開始、学位取得。12年目から新東京病院にて、領域を問わず消化器外科腹腔鏡、ロボットのエキスパート手術を間近で学ぶチャンスを頂き、再び大学病院勤務を経て、14年目から現勤務地である茨城県立中央病院外科スタッフとなりました。学会認定施設での修練を再開し、約50症例/7年の申請と共に卒後15年目の執刀症例で専門医を取得することができました。
何よりもまず、ご指導頂いた先生方、環境にとても恵まれていたと思います。初めて『肝胆膵外科』を教えて下さった前間篤先生、入局した私にゼロからご指導下さった竹村信行先生、青木琢先生、國土典宏先生、そして長谷川潔先生。高度技能専門医修練期間の7年間、一貫してご指導頂いた山本順司先生に、深く感謝申し上げます。
当初、主に母校であることを理由に入局したような覚えもありますが、出会えた先生方、症例の多い勤務施設など、以後紡がれた縁は医局ならでは、と実感しています。
専門医制度の詳細も知らず、とにかく一例一例を丁寧に進めることから始めましたが、患者さんに元気に退院して頂くことが一番の目標なのは、今までもこれからも変わらない信念です。執刀以上に思い出深い助手経験、手術記載、周術期管理などの基礎を徹底した上で、審査用の執刀症例撮影に至る7年間を過ごせたこと。ビデオ撮影は意識し過ぎず平常心でできたことが、資格取得に繋がる良かった点だと思います。逆に少し大変だったのは、当時は毎回撮影できる環境ではなかった点で、録画係の人手もなく、山本先生が指導的助手兼カメラ操作役を務めて下さいました。そのかわり、撮影データは貴重なものとなり、見返して十分に復習し、次の手術に臨むようにもなりました。
肝胆膵外科を続けるのだろうか?と揺らぐ日もありましたが、専門医取得を経て、現在は京田有介先生ご指導の下、茨城県内の少なくない難症例とも向き合う日々。資格の先にはより新しく長い道が拡がることを、前向きに感じ始めております。
『女性外科医』を意識することは実はあまりありませんが、「ほっしーが外科医になったら、外科を目指す女子が増えると思う」という学生時代の友人の言葉は今も心に残っています。もし『女性だから…』と迷う人がいるなら、一歩踏み出してはどうでしょうか。
高度技能専門医取得に寄せて
大道 清彦 先生
平成18(2006)年卒の大道清彦です。2023年8月時点では都立墨東病院に勤務しております。東京大学肝胆膵外科・人工臓器移植外科には多くの高度技能専門医の先生がおられます。なのに、なぜ「高度技能専門医合格体験記」の第1弾の執筆者の1人に私が任命されたのか?それはきっと私がすんなり一発合格でないので、きっとその苦労話をしなさいってことなのであろうと解釈しました。長谷川教授に確認したところ、やはりそういう趣旨でした。ということで私の体験記をお読みいただければ幸いです。
高度技能専門医受験資格を得る
そもそも受験資格を取得するには「高難度肝胆膵外科手術」を「修練施設において高度技能指導医または高度技能専門医の指導の下で」直近7年間で50例行わねばなりません。その点では当医局は修練施設に認定されている関連病院が多いので、受験資格を得るチャンスに恵まれていると思います。修練施設である埼玉県立がんセンター・がん研有明病院・墨東病院で働ける機会をいただけたことに感謝しています。
受験1年目(2020年)@がん研有明
この時は書類審査で落ちました。「スケッチの内容に乏しい」が理由でした。過去7年間の手術記載をすべて提出する必要があります。以前の高度技能専門医制度の細則には「絵の稚拙さは問わない」とありました。しかし、私が若手であった頃に一緒に働いていた先生方はすぐ分かると思いますが、絵心が全くない私のスケッチは「前衛芸術」とも評され、カンファで提示しようものなら騒めきが起きていました。そのレベルのスケッチの数々が含まれた古い症例の分が不合格となったと分析しています。多少の絵のクオリティは必要だと思われます。手術記載に関してはがん研有明病院で鍛えられました。解剖の理解・見せ方も含め、全く別人のスケッチに生まれ変わりました。この年はビデオ審査に回らなかったことで、ビデオ症例の苦労が水の泡になってしまいました。ビデオ撮りに携わった先生方には申し訳なく思っています。
受験2年目(2021年)@墨東
無事に書類審査は通過しました。スケッチがpoorな症例を除いても50例には到達していたということになります。恥ずかしくないスケッチが描けるまで私は肝胆膵外科医になって約10年かかりましたが、僕より絵心ない人はほとんど見たことがないのでもっと短い時間で習得できると思います。2020年4月に墨東病院に異動しており、墨東病院1年目での受験となりました。ビデオ審査で不合格になった原因として、web上で全世界に公開できる範囲でお伝えできるところとしては、助手に頼りすぎている箇所があるという点とビデオがアップすぎたりして肝心なところが映っていない箇所があった点です。私たちのチームが高度技能提出用のビデオ撮影慣れしていないというところも大きく、次の1年への課題となりました。既存のビデオ録画装置で撮像することにこだわらず、撮影の際には業者に依頼するのも一策かもしれません(2023年の肝胆膵外科学会の教育講演において審査員の先生方のコメントにもありました)。後方視的に振り返ると手術時間も少しかかりすぎたかなとか諸々の反省がありました。
受験3年目(2022年)@墨東
この年からオンラインでの提出になりました。前年までは手術記載を3部ずつ印刷必要など、申請書類が段ボール1箱分になり宅急便で提出するという手間暇がなくなりました。この年は前年の反動でビデオが少し遠すぎました。なので逆に見えにくかったかもしれません。またこの年は4年目の先生にカメラをお願いしたのですが、カメラ担当する先生は手術の流れを分かっている肝胆膵を専門としている先生にお願いする方が良いと思います。大事な箇所でアップにしたり、全体を映したほうが良い箇所とかの細かいニュアンスがうまいこと撮像できなかったと後日見返して思いました。第2助手よりカメラマンの人選が大事です。仮に業者に依頼したとしても、どこをどの程度アップするかなどは肝胆膵外科医の視点が必要だと思います。そして「助手に指示されている」という指摘をこの年も受けてしまいました。さすがに2年連続でビデオ審査で落ちてしまい、心が折れかけましたが「絶対あきらめるな」と励ましてくださった先輩方に助けられました。
受験4年目(2023年)@墨東
この1年は合格するビデオを撮像するということに注力しました。もう少し早くやれば4年も合格するのにかからなかったとは思いますが。今まで習得してきた自分なりの膵頭十二指腸切除が過去2年のビデオ審査で不合格になっているということは事実であり、やはり修正すべき点が多々あったわけで、前年の不合格はその修正が不十分であったと言わざるを得ません。他大の先生にも聞いたりして、どう不合格に陥りやすいポイントを回避するかを考えました。100人いれば100通りの膵頭十二指腸切除があるとも言われてはいますが、合格しやすい(不合格になりにくい)方法というのはあると思います。手術時間も動脈の破格がある中で5時間台で、出血量も抑えられており、このビデオで落ちたらここまでこんなに複数回チャンスをもらっていて不甲斐なく、受験したくても症例が足りなく受験できない医局員にも申し訳なく、肝胆膵外科医から足を洗おうとは思っていたので、合格出来て本当に良かったです。私と一緒に仕事をしてきたすべての皆様のおかげで、まだこうして一介の肝胆膵外科医として日々臨床に携われることが出来ています。
最後に
この合格体験記は「肝胆膵外科に興味はあるものの実際に進路を決めるにあたって迷っている人」に向けての企画とのことです。これを読んだら逆に肝胆膵を専門にしなくなってしまうのではないかと危惧してしまいます。私がアドバイスできるとしたら、少しでも肝胆膵領域の手術が楽しかったら専門にしてみてみるのも悪くないのかなということでしょうか。仕事は辛いことばかりだし、手術は長時間だし、術後管理も大変だけど、結局臨床が好きなので私は今まで継続できたのだと思っています。この体験記を読んで専門を決めた人とどこかで一緒に働ければ良いですね。