診療実績
当科では、1996年に生体肝移植を開始して以来、2022年までに生体肝移植799例・脳死肝移植63例を行ってきました。
現在は、成人に対する肝移植を専門に行っております。
2022年は生体肝移植・脳死肝移植あわせて70例の肝移植を行っており、2020年以降は成人に対する日本の肝移植施設の中で最多の肝移植施設となっています。
肝移植手術の概要
手術時間
以前は平均15時間かかっていましたが、現在は8~10時間で終了しています。
出血量
平均5000~10000mLですが、非常に厳しい症例では50000mLを超す時もあります。
それでも、肝移植手術管理に習熟した麻酔科の先生方のご協力により、安全に手術を終えています。
退院まで
肝移植後の平均在院日数は40日程度です。
但し、移植前から歩行困難であるなどADL低下が著しく、肝臓の状態が安定してもリハビリが必要で自宅への退院が困難な場合には、ご紹介いただいた病院などに転院していただく場合もあります。
肝移植後の短期成績・長期成績
上記のように非常に多くの、しかも条件の厳しい患者さんに対して肝移植を行う中でも、1年生存率 91.3%、5年生存率 84.2%、10年生存率 80.4%、15年生存率 73.5%と全国平均を上回る長期成績を保っています。
特に、脳死肝移植後に亡くなられた方は1名のみで、非常に良い成績を得ています。
一方で、カテーテル治療や内視鏡治療などを要する重症合併症は2-3割の患者さんに起きています。
そして、周術期の死亡率は5%程度です。周術期死亡ゼロが目標ですが、どうしても免疫抑制剤投与中の感染症により残念ながら救命できない方がいらっしゃいます。
術後合併症
重症合併症:27%
合併症 | % |
---|---|
肝動脈血栓 | 2.9% |
門脈血栓(狭窄)症 | 6.3% |
肝静脈狭窄 | 2.4% |
胆管合併症 | 24% |
その他 | 14% |
周術期死亡
周術期死亡率:4.9%
原因 | N |
---|---|
感染症 | 17 |
動脈/門脈血栓症 | 12 |
TMA | 4 |
グラフト機能不全 | 3 |
その他 | 3 |
このような厳しい合併症の中でも、他施設と比較して良い成績を得られているのは、
- 当科におけるこれまでの経験による手術手技の成熟
- 移植外科医・移植内科医・移植コーディネーターの連携による術前管理
- 移植外科だけでなく、救急救命科・ICUスタッフ・病棟スタッフによる緻密な周術期管理
- 近隣病院との連携、術後の外来における密な免疫抑制剤管理
などの病院としての総合力によって得られた結果であると考えています。
血液型不適合肝移植の術後成績
レシピエントとドナーの血液型が不適合の場合(=血液型不適合移植)は、抗体関連拒絶という致死率の高い拒絶反応が大きな問題となっていましたが、2016年に保険適応となったリツキシマブという薬によってこれを予防するプロトコルが確立されました。
これにより、現在では血液型適合移植と同等の術後成績が得られています。
生体肝移植ドナーの術後成績
東大病院における生体肝移植ドナーの方の合併症は全国のデータとそれほど変わりません。
Grade IIIa/IIIbという再手術やカテーテル・内視鏡治療といった追加治療を要する重篤な合併症は、どうしても4-5%起こってしまいます。
このような合併症はあるものの、最近行われた移植ドナーに対するアンケート調査の結果では、97%の方がほぼ回復あるいは完全に回復したとおっしゃっており、92%の方が復職など社会復帰をされています。肉体的・精神的な健康面における生活の質(=QOL)についても、概ね平均レベルである50点を上回っており、移植ドナーになっても肉体的・精神的にその方の生活に大きな支障をきたすことはない、ということが示されています。