家族をつくる
恋人との付き合い・結婚・子どもを持つ力(妊よう性)
更新・確認日:2022年3月30日
若い世代では、病気と診断されたときに恋人がいなかったり、いたとしてもお互いの信頼関係が十分深まっていないことがあります。心が不安定になると、恋人との付き合い方にも迷いが生じるものです。そんなときには、立ち止まって考えてみましょう。
いつ伝えるか
いつ病気について伝えるかは、それぞれのタイミングだと思います。あなたと相手との関係にもよるでしょうし、あなたの心の準備状況にもよります。相手との関係が、クラスメートなどの友達から始まって恋人へ発展した場合、友達関係のうちに自分の病気を相手に伝える人もいれば、つきあいが深まって恋人になるとき、あるいは恋人になってから伝える人もいます。伝える理由もさまざまで、相手が病気を知らない状態は「後ろめたい」と話す人もいます。これは、相手には正直でありたいと思うあらわれでしょう。「この人には病気も含めて自分を丸ごと理解してもらいたい」と思ったときが、伝えるタイミングかもしれません。
自分だけで決めていないか
病気のことを恋人と話し合うには、勇気がいります。病気がわかったあと「相手に迷惑をかけたくない」「きっとうまくいかないだろう」と考え、二人で話し合う前に、自分のほうから別れを切り出してしまう人もいます。理由もわからず別れを告げられた相手は戸惑うでしょう。しかし、相手の気持ちは聞いてみないとわかりません。現在の恋人でも、これからの新しい出会いでも、あなたが心配していることを正直に相手に話し、一緒に考えてみることが大切です。
うまくいかなかったとしても
恋人とうまくいかない理由は、病気に限らず色々です。病気のことを話して関係が続かなかった場合、とても残念なことですが、ひょっとしたら、相手は、あなたの病気を受け止めることができなかったのかもしれません。あなたと同年代の相手であれば、病気について理解することが難しかったかもしれませんし、先を見通すことができなかったかもしれません。「パートナー」とは、病気にかかわらず、あなたという人間を丸ごと受けとめてくれる人のことです。そして、病気があっても、恋人と幸せな関係を築いている人たちもいます。
結婚を考えるとき
お互いの気持ちを確かめあって結婚を考えるとき、将来子どもを持つことや、相手の親族への病気の伝え方などについて、戸惑うこともあるでしょう。一番大切なのは、お互いを思う気持ちです。決定版の答えはありませんが、二人が夫婦として、どのような人生設計を描くかは、二人が話し合って決めるとよいでしょう。
患者グループのウェブサイト、集会、講演会などで、がん診断後の結婚の体験談を知ることも参考になるでしょう。若年性がん患者の会STAND UP!!が発行するフリーペーパー6号(2015年発行)には、座談会「結婚した若年性がん患者が語る本音(外部リンク)」が掲載されています。
妊よう性
がんの治療の内容や使用薬剤によっては、男性も女性も不妊になる可能性が知られています。そのため、思春期・若年成人(AYA)世代の人は妊よう性(子どもを持つ力)に関する正確な情報を得て対策をとることが重要です。しかし、病気の診断を受けてつらい気持ちの時に、将来子どもを持つかどうかについて考えが及ばないかもしれません。また、病状やがんの種類によっては、がんの治療が一刻を争い遅らせることができない場合があり、治療方法の選択までに十分な時間がないこともあるかと思います。
まず、がんと診断されて、将来的に子どもを持つことを望む場合には、がんの治療開始前に、主治医から妊よう性に関する情報を得てよく考える時間を持つことが大切です。妊よう性を保つ治療方法を選択できる場合もあるので、主治医や医療者とよく相談してみましょう。具体的な妊よう性を保つ方法や相談窓口などについては、以下のウェブサイトを参考にしてください。
- 特定非営利活動法人日本がん・生殖医療学会(外部リンク)
- 国立がん研究センターがん情報サービス「妊よう性 男性患者とその関係者の方へ~がんの治療と生殖機能への影響について~」(がん情報サービスへリンク)
- 国立がん研究センターがん情報サービス「妊よう性 女性患者とその関係者の方へ~がんの治療と生殖機能への影響について~」(がん情報サービスへリンク)
以下に妊よう性温存療法の要点を簡単にお話しします。
妊よう性温存療法とは
男性の場合は、これから抗がん剤治療を受ける予定の人は、治療前に精子を凍結保存しておくことが勧められています。ただし、思春期以前では精子の採取ができません。がん治療開始までの時間的な猶予(ゆうよ)について、治療開始前に主治医とよく相談してみましょう。すでに抗がん剤治療を受けた人でも子どもを持つチャンスはありますので、主治医とよく相談して対策を考えてみましょう。
女性の場合は、がん治療の影響で早期に閉経する可能性が高くなることが知られており、年齢や婚姻状況に関わらず、卵子を凍結温存しておく場合もあります。希望があれば受精卵(パートナーがいる場合)の凍結温存も可能です。また、ごく一部の施設では卵巣組織の凍結保存が実施されていますが、まだ研究段階であり、対象者は限られています。女性の妊よう性温存療法は男性よりも身体への負担が大きく、時間もかかるため、がんの治療が遅れるというデメリットがあることも理解しておく必要があります
妊よう性温存療法は自由診療になるため、経済的な問題もありますが、ごく一部の地域では、治療費の一部助成を行っています。
がん治療後であっても妊よう性について、婦人科や泌尿器科で詳しく説明を受けたり、検査が可能な場合もあります。
妊よう性温存療法にかかる費用については、以下のウェブサイトが参考になるでしょう。
生殖技術の成績については、医療者向けですが、以下の書籍を参考にするとよいでしょう。
- 『乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン 2021年版 第3版』日本がん・生殖医療学会編, 金原出版, 2021
がんの遺伝について
一部のがんは遺伝することが知られていますが、多くのがんは遺伝しません。もし自分のがんが子どもに遺伝するのではないかと不安に思うのであれば、まず主治医から正確な情報を入手しましょう。インターネットにあふれている不確かな情報に惑わされてはいけません。場合によっては遺伝相談(カウンセリング)を受けることもできます。以下のウェブサイトを参考にしてください。
胎児への薬の影響について
がんの治療に関わらず、多くの女性が妊娠に気づかない妊娠4週~7週までが過敏(かびん)な時期といわれています。それは、この時期に、胎児の体の原型が作られるためです。胎児への薬の影響がどれくらい続くかは、薬の種類にもよりますが、男女問わず、抗がん剤治療をうけている場合には、治療終了後一定期間の避妊が推奨されています。ホルモン療法をうけている場合にも同様の推奨がされています。
疑問に思ったことや迷っていること、不安なことがあれば、一人で悩むのではなく主治医や看護師とよく相談した上で決めるのがよいでしょう。
胎児への薬の影響については、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」で相談してみてもよいでしょう。詳細は国立成育医療研究センターのウェブサイト(外部リンク)を参考にしてください。
妊よう性について主治医へ相談の仕方
AYA世代のがん患者は、薬物療法や放射線治療などによる妊よう性(子どもを持つ力)への影響について知っておくことが大切です。最近では妊よう性温存療法といって精子や卵子を凍結して保存する方法が行われています。妊よう性温存療法を受けるかどうかの決断は、がんと診断された直後にしなければならない場合が多いです。しかし、「がんと診断されたばかりで、今後のがん治療の方が心配」「まだ人生の先のことまで考えたことがない」「医師と話しづらい…などの理由で、主治医への相談が後回しになってしまうこともあるかもしれません。
がんの治療を行う医師は、AYA世代のがん患者の妊よう性温存療法について勉強していることが多いと思います。しかし、医師によっては妊よう性温存療法の知識があまりない場合もあるかもしれません。その場合には、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターを利用してみましょう。がん相談支援センターはその病院に通院している患者さんでなくても無料で相談が可能です。がん相談員が、妊よう性についての相談に乗ってくれることでしょう。
あなたが疑問に思ったことを、以下の質問例を参考にして主治医またはがん相談員に尋ねてみましょう。
<質問例>
Q:これから受けるがん治療によって、どのくらい妊よう性に影響がありますか?
Q:妊よう性温存療法には、どのような方法がありますか?
Q:妊よう性温存療法は、身体に負担がかかりますか?
Q:これからがんの治療を受けますが、妊よう性温存療法は、どのタイミングで行います
か?がんの治療開始前ですか?終了後でしょうか?
Q:妊よう性温存療法は、この病院で受けることができますか?
(受けることができない場合)病院を紹介してもらえますか?
Q:妊よう性温存療法の費用はどのくらいでしょうか?
2021年から全国で妊よう性温存療法の助成事業が開始されています。妊よう性温存療法の助成を受ける場合は、助成制度の対象施設で妊よう性温存療法を受ける必要があります。対象施設の詳細は、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターや各都道府県の自治体のウェブサイトなどで確認してみましょう。
参考文献
- 日本癌治療学会編. 小児, 思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン2017年版. 金原出版; 2017.
- 日本がん・生殖医療学会編. 乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療の手引き 2017年版. 金原出版; 2017.
- 日本がん・生殖医療学会(ウェブサイト). 妊孕性/妊孕性温存について(閲覧日2018年9月5日)