死亡時CT(Ai-CT)診断用チェックシートの活用。
私が初めて、死亡時CTを見たのは、2001年燕労災病院に勤務していた時でした。亡くなられた患者さんの死亡時CTには、頭部の血管内にガスを認めました。「空気塞栓か?!」と主治医のもとに飛んでいきましたが、一般的な心肺蘇生術が行われただけで、病歴・治療歴とも血管内に空気が混入するような特別なことはありませんでした。この時、「心肺蘇生術で血管内に空気が入るんですね。」と主治医と話したものです。翌年赴任した新潟市民病院は、多数の心肺機能停止患者が搬送される県を代表する救命救急施設で、多数の死亡時CTに接するようになりました。
初めてAiに接した時の経験から、Aiに慣れていない診断医が死亡時CTでどのような所見に注目すればいいのか、2009年に「救急領域の死亡時CT診断のためのチェックシート」を作成することを思いつきました。死後CTの所見として発表されている論文(主に塩谷先生(筑波メディカル病院)の論文です)を主体に、法医学の教科書も参考にして、死因となる所見、心肺蘇生術で生じる所見、死後変化として認められる所見を選びました。あまり煩雑にならないように、厳選した所見は以下の通りです。
- 頭部(くも膜下出血、脳出血、硬膜下血腫、硬膜外血腫、血管内ガス、血液就下、脳浮腫)
- 頚部(頸椎脱臼・骨折)
- 胸部(大動脈解離、大動脈瘤、心腔内血液就下、血管・心腔内ガス、心嚢水・血腫、胸水・胸腔血腫、縦隔血腫、冠血管起始異常、冠血管石灰化、気胸、肺びまん性斑状影、肺背側影(肺内血液就下)、肋骨骨折)
- 腹部(腹部大動脈解離、腹部大動脈瘤、後腹膜血腫、胃内容物・空気、腹水、血管内ガス(肝内・門脈)膵腫大)
作成した表を使用して死亡時CTを読影したところ、見落としを減らせ、データベース化するにも都合がいいことに気が付きました1)。 さらに、Ai初心者でも、Aiの読影に有用なのではないかと考え、当院の読影医に協力してもらい、このチェックシートを用いて死亡時CT49例を独立して読影する実験を行いました。すると、Aiに慣れていない放射線科後期研修医や放射線科認定医でも、20年以上の経験のある放射線科専門医と所見の取り上げは良好な一致を示しました2)。
このチェックシートは、1)-5)に掲載されていますので、ご自由にお使いいただくことができます。(海堂尊先生の著作「ゴーゴーAi」「死因不明社会2」「ほんとうの診断学」でも紹介してくださっています。)
全身CTの基本的な読影能力がある医師や放射線技師であれば、表の所見を取り上げることはさほど難しくはないと思います。もちろんこれで死亡時CTをすべて読影できるわけではありませんが、最低ラインとしての役割は果たします。
最後に使用する上での注意点として、日本医学放射線学会の見解として、画像診断報告書の作成は医師のみが行う、としています。放射線技師の皆さんには「文書」として使用せず、読影の補助として活用していただければと思います。
- 1) 高橋直也他; 死後CT読影用チェックシートの開発と使用経験,臨床放射線 2010、55: 334-40
- 2) Takahashi, N., et.al., Effectiveness of a worksheet for diagnosing postmortem computed tomography in emergency departments, Jpn J Radiol, 2011, 29(10):701-
- 706.
- 3) 高橋直也;今井裕他編 Autopsy imaging (Ai) ガイドライン 第2版 ベクトル・コア 2012, 75-78
- 4) 高橋直也;死後CTあれこれ症例集(新潟市民病院編)、臨床画像 2012, 28:77-84.
- 5) 高橋直也;Aiに求められる画像診断とは、インナービジョン 2012、27:8-11