第94回
2012年9月14日

救急医療・救急医学はAiを古くから必須のものと認識していた

国立病院機構北海道医療センター 救命救急センター長
(日本救急医学会 診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会Ai作業部会委員)
七戸 康夫 先生

突然死、という言葉がある。外因を含めると年間死亡の10%弱を占めると言われる。そのうち、目撃者がある、あるいは左程時間がたっていない(死体現象の無い)傷病者の場合は救急医療機関(多くが救命救急センター)へ救急搬送されることになる。これが心肺停止(以下CPA: Cardiopulmonary arrest)と言われるもので、年間の搬送件数は約10万件にもなる。その社会復帰率が数%であることを考えると、病院外で突然意識を失い救急車で運ばれそのままお亡くなりになる方が年間に9万人程度いらっしゃるということになる。

CPAで搬入され蘇生中に死因を判断できないまま死亡確認となった場合、監察医制度のない多くの地域では犯罪性がないと判断されれば担当医が検案を行うが、体表所見のみから死亡原因を決定するのは容易ではない。そのため心肺蘇生を断念した後にCT等を撮影し解剖の代替とすることが以前から救急医療の現場で行われてきた。 この様に患者を蘇生し得えず死亡確認をせざるを得なかった後に、自分たちが気付かなかった原因が無かっただろうか、僅かでも救命の可能性があったのではないか、と謙虚に反省し次の診療の機会に何とか生かそうとすることはプロフェッショナルとして本質的な行為である。

日本救急医学会は、診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会の下部組織として2009年にAi作業部会を設置し、救急医療とAiとの関係について議論してきた。ここでは同年に行われた救急科専門医2852名に対して行ったアンケート結果の一部について御紹介する(回答790名/27.7%)。

CT或いはMRIによるAiを現在実施していると答えたのは全体の65.1%であり、既にAiが日常の業務の中で定着していることがうかがわれる。そのAiの年間実施件数はCTが主であり、年間100件以上の施行実績があるとの回答が40.0%に上っている。Aiの対象症例は CPAがほとんどであるが、外来での急死や予期せぬ入院患者の死亡などの院内例、さらに他院で死亡確認された症例や警察の依頼によるものなど多岐にわたっている。

そして実際にAiの読影を行っているのは救急科医師を中心とする救急診療の担当医であることが多く、24時間放射線科医の読影システムが確立されているわけではない一線病院での実情を表している。このことからAiに対する救急医の意識は高く、救急医が関わるべき仕事であるとの回答が半数近く(はい350、いいえ120、どちらとも315)、放射線科医(はい475、いいえ75、どちらとも230)に次ぎ、病理医(はい244、いいえ206、どちらとも326)や法医学者(はい328、いいえ136、どちらとも308)よりも高いという結果であった。事実、本年2月に行われた死亡時画像診断(Ai)研修会においてもやはり放射線科の医師が多数であったが、2番目に多かったのが救急科の医師で参加医師66人のうち8人が救急部門に属していた。

また学術的にもAiという言葉が確立する以前の1990年代から、日本救急医学会総会において、CPA(当時はDOA: Dead on arrivalと呼んでいた)症例の「死後CT画像」の検討、というような演題が毎年発表され議論されていた。そして昨今その数は増加し、2011年の総会では一般演題の実に3セッション(セッション名は「蘇生・Ai」)18演題を死後画像診断が占めるまでになった。前述のように医師としてのプロフェッショナリズムから半ばアンダーグラウンドで行われてきたAiが市民権を得て表に出てきた結果であると言えよう。

これからも日本の救急医療にAiは必須のシステムであり、逆にAiにおいて救急医の担う役割も大きいと感じている。