医学・医療の発展に貢献するAiセンター設立から学ぶもの
-新たな診療放射線技師の役割-
私がAiという言葉に最初に出会ったのは「Ai 放射線科医はどう関わるか?」のテーマで開催された「第14回つきじ放射線研究会(2008年10月18日、聖路加看護大学)に診療放射線技師の立場で出席してからである。このような背景のもと、(社)日本放射線技師会ではAi活用検討委員会で診療放射線技師としてAiにどのように取組むかを議論しながら今日に至っている。
時を同じくして当院では病理学、法医学教室を含む院内各部署のスタッフで構成されるAiWG(オートプシー・イメージングWG)にてAi運用体制について検討をはじめた。この度、当院のAiセンター設立の経験をもとに、Ai活用検討委員会の活動報告とともに「新たな診療放射線技師の役割」について述べる。
1.佐賀大学医学部附属病院Aiセンター設立から学ぶもの <設立の目的>死因不明でなくなられた方のご遺体をX線CT装置で撮像すれば、死因の検索とともに解剖の必要性の判断や解剖の必要部位の絞り込みなどもでき、正確かつ迅速な死因解明につながる可能性がある。また、犯罪捜査や法医学的研究への応用、並びに、病理学・解剖学教育にも貢献できることが期待される。さらに、本院Aiセンターが地域医療において死因究明のための中核的役割を果たすことが期待される。
<運用に向けての取組み>日常診療で使用するX線CT装置には使用時間や運転要員に制限があり、救急搬送された心肺停止患者や病棟での死亡患者の死因究明に応用できないことは多々経験していた。そこで、本院では病院病理部の1室を改修して新規に専用X線CT装置を導入し、CTによる画像診断を行うAiセンターを2010年4月1日より稼働した。安全管理担当副病院長をセンター長とし、Aiセンター運用規定を定め、院内のみならず、地域の医療機関や警察からも依頼があれば対応することとし、料金も設定した。Aiの料金については、院内医師よりの診療上の要請である場合は無料、患者家族や外部施設よりの依頼の場合は有料とし、1)CT撮像のみの場合、2)CT画像の読影のみの場合、3)CT撮像と読影の場合に大別して料金体系を定めた。Aiセンター開設後4~8月の実績では、心肺停止状態(CPAOA)で救急搬送され死亡後に死因究明のためCTが行われた例が大部分であった。院内死亡例では病理解剖を勧め拒否されたもののAi-CTが行われた例があった。また、解剖学・u梃、究上の撮影依頼も受けた。CT画像データ管理については、院内と院外とを切り分けて画像ネットワークを構築し、Aiのワークフロー、HIS-RIS連携と画像データ管理、DVDによる画像データの取得等の初期課題を克服しつつ運用してきた。
<今後の展望>Aiは遺族と医療従事者との間で死因究明にかかる情報を共有することができる有用なツールと考えられた。さらには解剖学的研究協力も経験し、教育・研究に活用できることが明らかとなった。専用CT装置を備えたAiセンターを持つ施設は全国的にもまだ少数であるが、解剖とは異なり、ご遺体を傷つけずに診断に必要な医学情報を取り出すことができ、「死亡時医学情報」蓄積の上で、他の方法では得がたい貢献が期待される。今後とも、症例を重ねながら地域医療に貢献するとともに、医学・医療の発展と医療の安全と質の向上に寄与すべくAiセンターを運用するのが責務と考えている。
2.新たな診療放射線技師の役割 1)(社)日本放射線技師会Ai活用検討委員会の取り組み(社)日本放射線技師会では、2008年10月にAi活用検討委員会を立ち上げ、委員長として平成21年度まで活動してきた。最初に会員へのAi実施についての実態調査、講演会の開催、「Aiにおける診療放射線技師の役割―X線CT撮像等のガイドライン―(院内Ai実施編)」を策定した。また、日本放射線専門医会・医会Aiワーキンググループと共同編集にて、「Autopsy imagingガイドライン」を発刊(詳細についてはAi学会第75回1000字提言)。次のステップとして診療放射線技師の教育・研修を目的にした「よくわかるオートプシー・イメージング(Ai)検査マニュアル」を発刊した。
2010年には第26回放射線技師総合学術大会(東京、2010年7月3日)市民公開シンポジウム「死因究明―Aiによる開かれた医療に向けて」を開催、多くの市民の参加を得て、幅広いディスカッションができた。
2)Ai認定制度構築が新たなAi時代の幕開け「X線CT撮像等のガイドライン」の中でも、Aiに従事する診療放射線技師の教育・研修については重要な課題であると述べている。
「X線CT撮像等のガイドライン」 教育・研修システム<抜粋>Ai検査を実施するにあたり、診療放射線技師として必要な教育は、まず、通常の診療で求められている画像と、Aiが求めている画像の違いを理解することである。検査技術や画像処理・画像管理技術においても、Aiに特化した部分の理解と技術習得が必要である。さらに、Aiに関係する基礎知識や関連分野についても教育されていることが望まれる。死亡後に実施されるAiでは、診療放射線技師は高い倫理観を持ってAi施行に臨まなくてはならない。そのためには個人の取り組みが重要なことはいうまでもないが、各施設においての教育・研修システムも検討されるべきである。
そこで、特にオートプシー・イメージング学会および日本放射線科専門医会・医会AiWGに教育・研修システム構築に向けての協力をお願いしたところ、 2010年6月12,13日 札幌医科大学で「Aiに従事する医師・診療放射線技師の教育・研修会」が開催されたことに対し、札幌医科大学兵頭秀樹先生のご尽力に対し深甚より謝意を申し上げるところです。
さらに2010年度、厚生労働省の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討委員会」では、Aiの急速な普及に伴い、 Ai撮像技術向上のために教育・研修制度の構築が模索されている。多くの診療放射線技師が参加してAi認定制度を構築することにより新たなAi時代の幕開けに期待する。
3)診療放射線技師養成機関でのAi関連科目の学習強化に向けてかねてから、教育機関でのAi教育の必要性を痛感してきた。診療放射線技師がAiにおいて、さらに高い社会的評価を得るため、学生時代からAiの基礎知識、検査技術・画像処理・画像管理・画像読影などの専門的な技能、そして医療倫理学などの関連分野の知識を学べる機会を設けるとともに、臨床現場と教育機関との連携による、幅広い医療人としての診療放射線技師養成教育の拡充に期待する。
4)海外との学術交流台湾、韓国と日本の診療放射線技師が輪番制で開催する東アジア学術交流大会にて「日本におけるAiの現状」(ソウル、2009年)、「AiCTシステムの構築」(ソウル、2010年)で発表して海外の診療放射線技師と情報交換を行ってきた。この度、塩谷清司先生のご尽力で北米放射線学会(RSNA)の中でアメリカ放射線技師会(ASRT)主催、Byron Gilliam Brogdon教授講演「Forensic Radiology and Radiography: Historical Perspective, Current Status, and Future Challenges」を聴講して直接お話する機会を与えて頂き、多くのご助言を受けるとともに、アメリカ放射線技師会の会員とも情報交換できたのは非常に有意義であった。Brogdon教授には「オートプシー・イメージングの検査マニュアル」を献本させていただいた。それにしても佐賀ー日本ー米国(シカゴ)へと展開してきたことに驚くともに、 Brogdon教授との出会いから、日本のAiの現状を海外に情報発信する必要があることを痛感させられた。
診療放射線技師がAiにおける医療・医学の発展に寄与するとともに活躍する機会がさらに広がり、ひいては国民の保健・医療・福祉の向上につながることを切望する次第である。
<最近の海外での活動報告>- Kazuyuki Abe, Kenji Ino : Introduction of Autopsy imaging (Ai)in Japan.
13th East Asia Conference of Radiological Technologists : Seoul ,Oct 16th ,2009 - kazuyuki Abe : Introduction of Autopsy imaging (Ai)in Japan.
International Medical Imaging and Radiological Sciences. Taiwan May 29th,2010 - Kazuyuki Abe: Construction of Autopsy imaging (Ai) CT System. 16th East Asia Conference of Radiological Technologists.
Seoul,Octber,8th 2010 - Kazuyuki Abe : The problem of Ai (Autopsy imaging )CT data management. Korean Medical Imaging
Information Administrator Association(KMIIAA) Annual Meeting Seoul ,Octber,8th 2010
- Autopsy imaging(オートプシー・イメージング)ガイドライン、 ベクトル・コア. 2009
- これで安心! 診療放射線技師のためのよくわかるオートプシー・イメージング(Ai)検査マニュアル~死亡時画像診断における教育・研修内容のすべて~、 ベクトル・コア.2010