第84回
2011年1月20日

頚椎、軟部組織の損傷CT

千葉県がんセンター画像診断部
高野 英行 先生
生前CTにおける「頚椎およびその周囲軟部組織損傷」の描出能力は非常に高い。Aiによる死後CTで見えないと言うのは、読影能力の欠如である。

日常臨床における知見は、死後の画像であるAiを撮影、読影する時に非常に重要である。死後変化を別にすれば、Aiにおいても、生前のCT、MRIとほぼ同じ画像が再現されるはずである。死後変化の少ない部位であれば、病変の描出能は、ほぼ同じであると考えるのが妥当である。
法医学の死後CTで頚部の軟部組織損傷が見えないと、法医学関係者により、喧伝されているが、臨床の立場を知る者から見ると、特別な例を誇張していると思われる。

頚部損傷において、その損傷の評価は、CTで十分であるという論文は数多くある。いかに、最近の2つ論文を示す。

臨床側の結論は、死ぬほどでない軽微な骨折においても、CTで88%~95%の確率で否定できる。
手術が必要となるような予後に関連する因子を見逃す確率は0-1%である。
CTで99%以上の確率で手術が必要な「頚椎およびその周囲軟部組織損傷」を否定できるのである。

①Schoenfeld AJ, Bono CM, McGuire KJ, Warholic N, Harris MB.
(Department of Orthopaedic Surgery, Harvard Medical School, Brigham and Women's Hospital, Boston, Massachusetts 02215, USA.) :Computed tomography alone versus computed tomography and magnetic resonance imaging in the identification of occult injuries to the cervical spine: a meta-analysis. J Trauma. 2010 Jan;68(1):109-13
頚部の骨および軟部組織損傷に関して88%は、CTで損傷が無いことが分かる。分からなかった12%のうち、何らかの治療法を変えたものが6%である。 5%は頚部カラー、つまり、軽度の損傷であり、手術が必要となったのは1%である。この論文はメタアナライシスであり、信頼度は高い。

②Steigelman M, Lopez P, Dent D, Myers J, Corneille M, Stewart R, Cohn S.
(Division of Trauma, University of Texas, Health Sciences Center, San Antonio, TX, USA). :Screening cervical spine MRI after normal cervical spine CT scans in patients in whom cervical spine injury cannot be excluded by physical examination.Am J Surg. 2008 Dec;196(6):857-62 ,
頚部損傷を受け、CTで損傷が無いと診断され、MRIを撮った患者120人のうち、6人(5%)にMRI上の異常を認めたが、CT所見にMRI所見を加えても、治療法は変わらなかった。 CTは、100%の確率で手術の必要性を描出できる。

上記2論文では、重症な頚椎およびその軟部組織の損傷において手術が必要な症例において、CTで見逃したものは、0-1%ということになる。 CTで、頚髄損傷を起こす可能性を99-100%は、否定できるということである。
臨床でみる上記の頚椎およびその周囲の軟部組織損傷は、頚髄損傷で死ぬほどの損傷よりも軽微である。
Aiにより死後CTを行う症例における頚椎および軟部組織損傷は、明らかに激しいはずである。生前の頚部CTよりも、激しい所見を見逃す確立は、0-1%より低いということになる。

Aiにおいて、撮影技術が十分でなかったり、軟部組織損傷に伴う小さな剥離骨折や骨化した靭帯の断裂などの情報をしっかりと読影できなかったりすると、診断能力は非常に低くなる。より重症であり、動かない対象に時間をかけて撮影できるAiは、「頚椎およびその周囲軟部組織損傷」の評価においては、生きている時よりも条件が良い。良い条件を与えられながら、低い評価しか得られないと結果を公表することは、社会に誤解を与える。そのため、Aiにおいては、放射線技師による撮影と読影に習熟した放射線科専門医による読影が必要である。