第80回
2010年7月21日

「Ai実施に伴う現場からの問題提起」

三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部
兼児 敏浩 先生

一時、忘れられかけていた、医療安全調査委員会におけるAiが「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」として復活した。Aiが公式の場で議論されることは非常に喜ばしいことではある。

小生は医療安全管理者であり、日常診療における医療安全や医療の質の向上のための一手段としてAiを活用している立場である。当施設において公式な統計を取るようになった2006年8月からAi事例(当院のAiは=PMCTである)は300件近くになり、システムとしてはすっかり定着し、懸案であった入院患者の死S事例に対するAiも増加しつつある。

300件のAi事例を整理してみてもAiの特徴は多くの報告と同様で、迅速性・非破壊性・再現性・保存性等々であり、死因を確定できる割合は外傷死で90%以上、内因死で30%弱となっている。当施設において、Aiは医療安全、医寮の質の向上のために一定の役割を果たしている。その一方で当初は予想をしていなかった問題点が明らかになってきた。ここではその問題の提起を行いたい。

①Aiで明らかになる医療過誤の事例が増加する。

医療側も問題ないと考え、患者側も納得している死亡事例でもAiが行われる事例が増えている。若い医師たちに漸く「剖検は無理ならAiだけでも」という意識が根付いてきたようである。さて、遺族も感謝の中でAiを施行、そのときカテーテルの誤挿入など明らかな医療過誤が明らかになった、その後は・・・。 もちろん、事実の全てを遺族に説明することが必要なのはいうまでもない。では、医療過誤による死亡であれば警察は・・・。事実を説明の結果、遺族が訴えるといえば話は別であるが(このようなことは少ないと予想されるが)、過誤が明らかになった時点で警察に届けるべきなのだろうか・・・。小生が医者になったばかりの昭和の時代の地方会などは「○○と思われていたが実は△△であった事例」といった、いわば、誤診の発表会のようなところもあった。情報を発信することによって自己反省とともに他の人に同じ轍を踏ませないようにするといった願いもあったのであろう。ところが、ここ10年ぐらいはこの手の学会発表が激減していると聞く。学会発表を契機に警察の介入を招いた事例があるからだ。善意と熱意と学術的な向上心からAiを行った担当医が何らかの訴追を受けるような事態になればAiそのものがまた行われなくなってしまうフではないかという強い懸念を持っている。組織的なシステムとしてAiを行っている施設では担当医はまだ、相談する場所があり、組織に救われる可能性もあるが、個人的に細々とAiを行っているだけであれば、担当医は事実を隠蔽するか、討ち死にするかの究極の選択を迫られる可能性さえあるのである。

②Aiは医療事故を隠す有力なツールになりうる。

Aiが内因性急死で死因を確定できる割合は30%前後に過ぎないのは周知の通りである。さて、予定手術で入院した患者が手術前に急死・・・。病理解剖は遺族の同意を得られず、Aiを実施。・・・・年に何回かは発生しているパターンである。予想される結果は内因性急死であるから、3割は出血性疾患を中心に死因が確定できる。しかし、その多くは、くも膜下出血であっても、大動脈の乖離であっても、予想あるいは予防困難であるから、仕方がないということになってしまうのである。残りの7割の結果の場合は、死亡に直接繋がる所見はない、だから、医療過誤はないとされることは容易に予想できる。すなわち、入院患者の急変でAiを施行してもどっちにころんでも医療側に有利な結果が出る可能性が極めて高いのである。この事実をAiにかかわるどれだけの人間が気づいているか、あるいは意識しているか甚だ疑問である。

Ai学会として今後もこの2点について何らかの議論や情報発信をしていく必要があると考えられる。

最後に、現在進行中の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」の面々はAiそのものに詳しい人が多いが、臨床の現場でAi実施までのプロセスやAi実施後の最終的なアウトカムについてわかっている人が少ない事実を小生としては相当不安に思っていることを追加しておく。遺族の視点や現実の医療現場の実情がどこまで反映されるのだろう。