第71回
2009年4月8日

Aiに関する都議会の質疑について

重粒子医科学センター病院
江澤英史

東京都は死因究明制度に関しては唯一問題のなさげな町だと考えてきたが、どうやらそれすらも誤解らしい、ということがわかります。以下、そうした問題を重視した都議会議員・田代ひろし先生の第4回定例会一般質問 2008年12月10日の議事録を再録します。現在の死因究明制度の問題点がきわめて明瞭に質問によって浮き彫りにされていることがわかります。みなさま、ご一読を。

http://www.tashiro-hiroshi.jp/report_gikai/ippan/20081210.html

第4回定例会一般質問 2008年12月10日

明らかな病死、老衰死、交通事故死などを除いた変死体の死因究明と、犯罪の有無を見抜くための制度は、昭和23年制定の医師法第21条と、24年制定の死体解剖保存法第8条に基づくところの、検視による検案を基盤としています。検視とは、江戸時代から変わらず、死体の外表から見て、異常や事件性の有無を判断することであり、監察医制度のない地域では、警察官と一般開業医に任せているのが現状です。近年幼児虐待が社会的な問題として、マスコミに取り上げられています。死亡時に外傷などがあれば、虐待を疑い、司法解剖の手続きを行うことは可能ですが、乳幼児の体をはげしくゆさぶることで、脳内出血などを起こす「シェイクン・ベイビー・シンドローム」、いわゆる「揺さぶられっ子症候群」など、体表に全く異常がないケースも数多くあり、監察医制度のない地域では、遺族の承諾がなければ解剖が出来ないのが現状です。虐待された幼児の親の80%以上が、救急病院搬送時に、虐待を認めなかったという報告もあり、現在の制度では、幼児虐待を見逃す危険性が大いにあります。千葉大学、法医学教室の岩瀬教授も「解剖や中毒検査無しに、死因を特定しようというのが、そもそも無理な話。犯罪などの見逃しが生じるのも当然で、国際化が進む中、犯罪や流行病も多様化しており、今のシステムでは到底、太刀打ちできない。」と、嘆かれています。監察医制度を政令で指定された23区は、全国で実動している3箇所の内の1つであり、その「東京都監察医務院」には、法医学者の監察医をはじめ、多くの専任スタッフの英知を結集し、日本一の死因究明制度が敷かれています。一昨年、我が党の宮崎章議員が、「三多摩での死体検案は、検視官と警察医が行っており、三多摩格差は深刻で改善が必要である」と代表質問を行い、それに答えて、昨年、政令指定以外である、立川でのモデル事業を行うという、意義ある第一歩を踏み出し、また来年度からは施設改築など、日々努力がなされています。

しかし、問題はこのすばらしい制度が、23区及び一部のみに限定されている事であり、いまだ三多摩格差は解消されていません。23区と三多摩で、異常死の発生する割合は、当然のことながら、同率であるにも関わらず、三多摩で解剖される割合は、23区と比べると4分の1でしかありません。23区であれば、きちんと解剖されるはずの、残り4分の3に、犯罪などの問題が紛れ込んでいないと決めつけるのは、あまりにも無責任です。多摩地域の死因究明体制の強化に向けて、今後どのように取り組むのか所見を伺います。昭和55年には年間検案数が、5000体であったものが、現在はその2倍以上に膨れ上がっている上、モデル事業いう新たな業務が増えたにも関わらず、監察医務院の職員数は昭和55年から全く増えておらず、もはや職員の負担は限界を超えております。さらにここ十数年、新規採用もなく、最年少の技官が40歳を越えるなど、高齢化も深刻です。ベテラン揃いなのは、誇るべきことですが、業者外注は倫理的にも避けねばならず、業務維持のため、職員増員と後継者育成の取り組みを伺います。公衆衛生向上、医学の発展、犯罪抑制に不可欠である、死因究明の為、この監察医制度の有用性を示すことが出来るのは、東京都だけであり、一部地域のみに限定された政令の改正を求める責務があると考え、所見を伺います。このように、監察医務院の整備・拡充が急務であることは明白でありますが、法医学の専門医は全国に120名程度しかおらず、マンパワー不足は否めません。その結果、解剖率は先進国中最下位であり、日本は死因究明後進国と云われています。後継者育成に努めるのはもちろんですが、解剖だけにすべてを任せた制度づくりは、もはや時代に即しておりません。経験を積んだ法医学の専門医でさえも、4割の誤診の可能性を指摘されている難しい検視を、現在のシステムでは、警察官や医師に行わせるため、若手力士死亡事件の真相解明が遅れるなど、問題が多数発生しています。

そこで、現代医療機器の進歩を踏まえ、この検視制度に、CT・MRIなどの、画像診断を加えるAiシステムの導入を提案致します。Aiとは、オートプシーイメージングの略であり、直訳すれば「画像解剖」となります。検死・検案に関しては、昭和23年から時が止まっており、これを医療現場に置き換えてみれば、現在の状況のお粗末さと後進性は明らかです。例えて言えば、かつて胃癌手術適用は、外科医の触診で決定されていました。しかし今日、外科の教授といえども、腹部触診だけで「異状なし、手術不要」と決定すれば、医学生でもその判断には従わないでしょう。Ai導入は、以前から現場の警察官や警察医からも、切望の声が上がっている事を、併せて申し上げておきます。検視のみに頼る制度の弊害の一例としては、一昨年、障害致死事件の捜査で、銃弾による傷を、イノシシの牙による傷跡と誤認するなど、信じがたい事例も実際に起きているのです。Aiにより全ての死因が判明するわけではありません。しかし、画像診断でスクリーニングすることにより、犯罪の見逃しが避けられるだけでなく、解剖のガイド機能、また解剖では分からない所見の発見にも繋がり、Aiと解剖を併用することで、その効果は飛躍的に上がります。また、Aiシステムは、異状死体に限定すべきではありません。近年、医療訴訟が急増しており、患者と医師の間で、正に正確な死因をめぐって激しい論争が繰り広げられています。しかし、訴訟を起こした遺族からは、「裁判は問題解決どころか、悪化しかねないシステムと感じた。我々遺族は、医療への制裁や対立ではなく、真相解明と誠意ある対応を求めているのだ。」という声があり、医療訴訟の原因を紐解いてみると、遺族が納得のいく説明を得られていない、という一点にたどり着きます。その一因は、現在死亡時に検索がおこなわれておらず、遺族に病理解剖を拒否されると、医学的データは残らない為、結果として、証拠不在の魔女裁判が生まれるのです。病理・行政解剖では、報告まで数ヶ月以上かかる上に、司法解剖では所見が公開されず、さらには裁判中、両者の接触が禁じられることにより、ミスコミュニケーションが発生するなど、司法と医療の狭間で様々な問題が噴出しています。Aiを行えば、死亡時、遺族へ医学的データに基づいて、迅速な対応と科学的説明が出来るだけではなく、解剖の承諾率の上昇にもつながるでしょう。このAi導入では、インフラ整備に必要な財源確保が、最大の障害となりますが、幸いなことに我が国は、全世界の5割を超える1万台以上のCTと、2割を超える4000台以上のMRIを保有しております。ちなみにこれはセブンイレブンの普及率と同程度で、この既存の機器を利用するAiセンターを各病院に設置し、業務時間外に、週2体のペースで検索するだけで、日本の年間死亡者数、100万体に充分対応できる計算です。

都立病院の試験的施行も含め、早急に取り組まれるよう強く要望し、所見を伺いますまた、在宅死亡者や変死体のAi施行には、阪神大震災で活躍した、CT搭載検診車が必要と考えます。他の先進諸国では「死因究明は社会のため」というのが常識となっているのに対し、我が国では「死者にメスを入れるなんてかわいそう」といった感情が先行している背景があり、死因究明の利点を広く国民に啓蒙する必要があるでしょう。死因究明制度の拡充と犯罪の抑制効果などについて、知事のお考えを伺います。なお、御協力頂いた重粒子医科学センター病院・江澤先生、元監察医務院長・上野先生、千葉大学・山本先生に衷心より感謝申し上げ、次の質問へ移ります。

新型インフルエンザ対策には、都議会からの意見書提出後、ようやく国も動き始めました。しかし、最大の被害者と予想される小児の対策が抜け落ちており、引き続き、強く国へ働きかけると同時に、さらなる、都独自の対応を求めるものであり、所見を伺います。

次に、我が党の提案を受け、都は国へ先駆けて、ウイルス肝炎の医療費助成制度を開始しました。都内には、高度先進的医療機関も多いことから、癌診療拠点病院の仕組みに倣って、拠点病院と、それをアシストする専門医療機関を、複数指定するような、重層的な診療対策を要望し、所見を伺い、質問を終わります。

[知事回答]

田代ひろし議員の一般質問にお答えいたします。死因究明制度の拡充などについてでありますが、監察医による検案、解剖は、死因究明の向上に欠かせない業務でありまして、また、隠れた狡知な犯罪の発見など社会秩序の維持にも寄与しております。ゆえにも、監察医務院の機能を充実するとともに、多摩地域のモデル事業の成果を通じて、死因究明体制の充実に結びつけていきたいものだと思っております。アメリカにも、検屍官というんでしょうか、それを主人公にした、たしか女性の主人公だと思いましたけど、長い推理小説のシリーズがございまして、非常に社会的にも大きな意味を持つ大事な仕事だと思います。お話のAiシステムにつきましては、重要性は認識しておりまして、今後その効果などを十分研究して適用していきたいと思っております。

[福祉保健局長回答]

五点についてお答えをいたします。 まず、多摩地域の検案モデル事業についてでありますが、都は、多摩地域の検案体制の強化を図るため、監察医務院の医師による検案モデル事業を昨年の十二月から立川警察署管内で開始をいたしました。一年を経過し、解剖率の向上などの成果があらわれております。今後、多摩地域全体での検案体制の強化が図られますよう、引き続きモデル事業を実施しながら、その成果を生かし、地域の医師に対して、死因究明のための法医学的見地からの研修等を行ってまいります。次に、監察医務院の職員の確保と育成についてでありますが、監察医務院におきましては、全国的に法医学の医師が少ない中で、検案、解剖の業務の増大に対応するため、常勤医師に加え、大学医学部の協力を得て非常勤医師を確保しております。今後とも、監察医務院の業務の充実に向けて必要な監察医を確保するとともに、監察医務院みずからも後継医師の育成に努めてまいります。次に、監察医を置くべき地域を定める政令についてでありますが、監察医制度は、死因が不明の死体への検案、解剖を通して死因を確定するものでありますが、政令で監察医を置くべき地域として、東京都二十三区など五つの地域が定められております。政令改正につきましては、全国衛生部長会で、地域を限定しない一元化した制度とすることを国に対して要望しております。次に、新型インフルエンザ対策についてでありますが、新型インフルエンザが発生した場合、抵抗力の弱い小児は健康被害を最も受けやすいと想定をされております。また、マスクの着用や手洗いなどの感染予防策の徹底が困難であり、抗インフルエンザウイルス薬の投与方法を初め、治療法や予防法にも多くの課題があります。しかし、小児への対策は、現在国が改定を進めているガイドラインにも示されておりません。都といたしましては、今後、国に対し、専門家による議論を十分に尽くし、小児の特性を踏まえた対応方針を示すよう強く求めてまいります。また、都民の生命を守るため、保健医療体制の整備など、これまでの都独自の取り組みを一層推し進めてまいります。最後に、ウイルス肝炎対策についてでありますが、都では、肝炎患者が安心して質の高い医療を受けられるようにするため、肝臓専門医療機関と地域のかかりつけ医との連携の推進に向け、肝炎診療ネットワークの構築を図ってまいりました。診療体制の充実については、以前より議員からご指摘をいただいたところでございますが、今後、中核的な肝臓専門医療機関の連絡会議を設置し、最新の医療についての意見交換や治療効果の検証等を行い、そこで得られました知見をネットワークに参加する医療機関に提供する仕組みを検討してまいります。

[病院経営本部長回答]

Ai、オートプシーイメージングの都立病院での取り組みについてお答えいたします。Ai、いわゆる死亡時画像病理診断は、ご指摘のとおり、病院で亡くなられた患者さんの病気と死亡の因果関係を調べる上で、病理解剖と併用することにより病理診断等の質の向上が期待されるものであります。また、病理解剖を敬遠するご家族においても、画像診断であれば受け入れやすくなると思われ、患者死亡時における検査の選択肢の幅が広がるものと考えられます。しかしながら、実施に当たっては、病理医、放射線科医、コメディカルスタッフ等との連携協力体制のあり方や、治療中の患者さんとの優先順位をどうつけるかといった課題があるほか、診療報酬の請求ができないといった問題もございます。今後も、こうした課題等について、病院現場の実情や意見も踏まえながら研究をしてまいりたいと考えております。