なぜ、放射線科医がAiを行わねばならないのか
虐待や骨の診断における放射線診断の優位性Battered Childという言葉を初めて使った”The Battered child syndrome”とい論文は、1962年The Journal of the American Medical Association(JAMA)に掲載された。共著者の放射線科医Frederic N. Silvermanはそれ以前に”The roentgen manifestation of unrecognized skeletal trauma in infants. “AJR(1953;69:413-427)において、原因がはっきりしていない特徴的なレントゲン所見の患者群を発表している。つまり、画像の読影に習熟した放射線科医であるから、画像から事件性のあると判断し、のちのBattered child(小児虐待)という概念を導き出した歴史的な論文である。それに関わってきた放射線科医の鑑定が法廷で重要視されるのは、当然のことと思われる。骨の病理診断は、プレパラートのみでは難しいことは、病理医の先生方も賛成していただけるであろう。一般病理医では、疲労骨折と骨肉腫を間違えることもある。私の恩師に当たる放射線科医は、病理診断を鵜呑みにせず放射線診断を行うことの重要性を教えてくれた。多くの事件に関連するであろう骨折の診断をするのに最も適している方法は、レントゲン写真や薄いスライスのCTである。病理による全身検索は不可能であり、CTでは、全身検索したことが容易に証明できる。
機械の知識がないと見えるものも見えないと思い込んでしまう。CTやMRIの撮影方法や表示方法も重要で、見え方が変わります。生体の反応と違うことにより期間は断定できないが、数日間AiのCTで、出血は、高信号に見えるはずです。使っている機器が古かったり、線量調整などが適切でない機器であったりすれば、出血の濃度差が見えない可能性はある。また、CTでは、慢性血腫は、液体としか見えず、剖検により始めて分かる場合もあると思われる(MRIであれば、古い出血の検出は、剖検レベルまで可能)。ただし、剖検はその部位を切開するという前提があります。皮膚所見があまり顕著でない時津風部屋事件の様な外傷では、切開が行われない場所に出血があるかもしれません。
インターベンショナルラジオロジーの応用により、低侵襲剖検へ放射線科医は、イメージガイド下にピンポイントに針を刺すことは可能です。それにより、変性した血液を容易に判定できる可能性は、十分にあります。しかも、客観的に、採取時点のCTを記録することも可能です。この方法は、異常部位の異常組織だけを検査することも可能にし、剖検の敷居を低くし、剖検率の向上に寄与する可能性もある。
日本放射線科専門医・医会 AiワーキンググループAiは、過去の放射線診断の知識を集めれば、単独でも確信できる部分もある。脳幹部出血はCTで十分である。また、Aiが独立していないと、救急車で運ばれてきた心肺停止状態の患者?遺体?の画像診断を行った患者を全て剖検しなければならない。しかし、Aiによる画像の診断能力は、剖検と比較検討することにより向上する。一方、Aiにより低侵襲に病変部位のみを取り出し、病理診断をすることは、病理診断の効率化につながり、死因究明率を向上させる手段にもなりうる。また、事件性が高いと判断された場合には司法解剖も必須である。Aiと剖検が、システムとして独立しながらも両者を有機的に活用する社会的なシステム作りが必要と考える。
追記。以下は大切な情報だと思われますので、高野先生のメーリングリストを転載し、1000字提言に入れさせていただきました。
「CT、MRIは本来生きている患者さんに使用するものだから、認可の下りていない病院でAiで使用する場合は、保健所に届けなければならない」との事ですが・・・その先生はAiを否定しているわけではなかったそうですが、どうなのでしょうか?ご教授頂ければ幸いです。
千葉県がんセンター高野です。
Aiの撮影に関する見解ですが、東京大学の大友教授によれば、厚労省医政局医事課・総務課の担当の方との面会で、医療機関で適正な管理(衛生・被曝・ご遺族の了解)のもとに行われるのであれば、死亡時画像診断について現時点では法律面での裏付けは必要ないと考えられること。(死体損壊の危険がないので、剖検対する死体解剖保存法にあたる法規は不要との解釈)という意見をいただいたそうです。