第58回
2008年2月02日

Aiセンターが拓く医療社会の未来(第5回 Ai学会特別講演要旨)

千葉大学医学部放射線科講師
山本正二

従来千葉大学では、法医学教室に設置された車載式CT装置を使用して司法解剖前にCT 検査を実施している。

千葉大ではこの活動に加え、千葉県下の各病院から千葉県医師会を通して病理解剖依頼がある症例について、死後画像検査のみ、および病理解剖前に画像診断を実施している。こちらの業務に関しては、病院内のCT装置および解剖室を使用している。司法解剖前の画像検査が、外因死の特定を目的とした、裁判での証拠保全などを目的としたものであるのに対し、病院内で死亡した症例に対して行われる死後画像検査は、正確な死因究明を目的とした医療行為の一つでる。この目的は、精度の高い死亡診断書の作成、医療事故などが起こった場合の公平公正な証拠保全であり、医療側のself defenseとしての役割を持つことになる。また病理解剖前に実施される場合には、病理解剖の補完、解剖前のガイドなどの役割を果たすこととなる。

このように、刑事罰の証拠保全を目的とした司法解剖前の画像検査と、医療行為の一部としての死後画像検査という大きく大別される。この二つの点を分離しているものは病院内で亡くなったか、病院外で死亡したかという点に他ならない。このため現時点での当院の活動は、CT検診車を使用した司法解剖前の画像検査と、附属病院内のCT装置を使用した病理解剖前の画像検査という大きな2本柱で成り立っているということになる。現段階では、新しい施設、設備などはなく、実際の窓口は放射線科の読影室の電話番号であり、業務やコーディネートは放射線診断医が実施している研究的トライアルでもある。そして現在、大学としてもこの制度をセンター化しオーサライズすべく、病院長の支持を受け事務方を含めたワーキンググループが正式に立ち上げられた。

今後の展開であるが、日本医師会などでの検討会を通して、まずは医療領域が中心となって、Aiセンターの確立を目指していく方針である。このためには、現在行っている、病院内での死後画像検査、および病理医が不在で解剖などが実施できない外部からの症例に対する死後画像検査が大きな2本柱となる。また医療関連死など遺族が死因に不満を持った場合に、その意見をくみ取る遺族外来を経由した死後画像検査が今後重要な検討項目になってくると考えられる。

このためには、初動検査としての画像診断が重要であり、この結果を基として解剖を実施するかどうか振り分けを行う。つまり、通常の病死については、病理解剖、異常死が疑われる症例のうち事件性がある症例に対しては司法解剖というような振り分けを行なうことが重要である。もちろん画像を読影する放射線科医は必要であるが、外因死などの可能性がある場合、速やかに警察などと連携がとれることも必要であり、近年問題になっている医療関連死などの医療事故が疑われる場合は、病理解剖をする場合でも、客観性を保持することが重要となってくる。この他に、今後事件や訴訟などに対応すべく、血液などの検体の保存業務なども必要になるだろう。

もう一つ重要な役割は、地域の中核施設として、症例からのデータを蓄積し、解析することである。現在でもまだ、画像検査で死因が特定できる割合は30%程度であり、得られる所見についてもそれが、死因と結びつくものであるか、あるいは、死後の経時的変化なのであるか不明な点も多い。これらを解決するためにもデータのセンターによる集中管理は必要と思われる。限られた人的資源をより効率的に運用できるであろうAiセンターは、各々の大学病院などを中心とした中核病院に必要であると思われる。