ベルン大学での「第1回Virtopsyベーシックコース」に参加して・1日目
Virtopsyはvirtual+autopsyの造語であり,90年代後半にスイス・ベルン大学のProf. Dirnhoferによって提唱された概念である。2006年9月5日から3日間, Virtopsy発祥の地,ベルン大学でVirtopsy Basic Courseが開催された。これは,同大学法医学研究所のグループがVirtopsyに関心のある医師や法律家を対象に開いた初めての講習会で,世界7カ国(ドイツ,スイス,オーストリア,イタリア,トルコ,アメリカ,日本)から10名の法医学者,放射線科医,法律家らが参加した。アジアから唯一参加した法医学者として,講習会の内容と感想を紹介する。
連日,午前中はセミナー室での講演,午後はCT室,コンピュータ処理室での実演・実習が行なわれた。Virtopsyグループのスタッフは,提唱者のProf. Dirnhofer,現在研究室を主宰しているProf. Thaliをはじめ,Virtopsyに関わるスタッフ全員で指導にあたってくれた。
1日目:講演「Virtopsy総論」+実演「MSCT,3D-Scanner」
午前の講演は”Virtopsy”の定義から始まった。Virtopsyは法医解剖事案に関わる多くの対象物をデジタル画像化して画像の共有・統合を行い,事案の詳細を明らかにしていくという概念であり,対象物・手段の制限はない。対象は遺体はもちろんのこと,生体,成傷器,交通事故における加害・被害車両,事故現場状況などあらゆるものに及ぶ。用いる手段は,CT,MRIをはじめ,3D-Surface Scanning(物体表面スキャン), Image-Guided Biopsy/Angiography(画像補助下の組織採取・血管造影)などがあり,将来的には細胞レベルまで描出可能なMicro CT, Micro MRIなども検討されている。これらを駆使することにより,これまでの筆記と二次元写真撮影による「古典的解剖」よりはるかに詳しい所見が得られると同時に,後日,事案の再検討や再評価が可能となる。
Virtopsyの代表的機器は専用の6列MSCT(SOMATOM Emotion 6,Siemens社)と3-D Surface Scanner(3次元スキャナATOSIIおよび3次元点位置測定システムTRITOP,ともにGom社)である。3-D Surface Scannerは,我が国では工業用には用いられているものの,医学領域ではほとんど応用されていない。これはさまざまな物体を立体的にデジタル画像化するものである。たとえば,人体の損傷と被疑成傷器をそれぞれ撮影し,立体画像化して画面上でさまざまな角度から検討することにより,成傷器を特定したり,成傷時の方向などを推定したりすることができる。
1日目の午後は実際の遺体を用いてMSCTによるデモ撮影を見学した。参加者は実際にCTを操作し,その後ワークステーションによる画像処理も体験した。デモに使用された遺体は転落による頭蓋骨粉砕骨折事例であったが,ビニール製のボディバッグに入れたままの撮影であり,実際の遺体を見たり,触れたりすることなくして内部の構造を詳細に診断できることに新鮮な驚きを覚えた(図1)。
この日は,3D-Scanのデモも行なわれ,こちらでは立体物(ハンマー)の撮影を行なった。デジタル化されたハンマーが画面上で自在に動くのは,まさに感動的であった。夜は大学近くのビアホールでスイスの代表的料理,スープフォンデュを囲みながら懇親会が行なわれ,スタッフと和やかな雰囲気で話をすることができた。
2日目:講演「個人識別への応用」など+実習「MSCT,3D-Scanner」
次回へ続く。。。