第43回
2007年3月2日

解剖実習体のCT画像を用いた解剖教育システムの導入を目指して

千葉大学医学部
松野 義晴

肉眼解剖実習は、医師を目指す医学生にとって、将来携わる医療現場において対象となるヒト(人体)の正常構造を充分に理解するうえで必要不可欠な基礎科目であり、後の臨床科目を習熟するにあたり必須の学習領域といえます。本学では、解剖実習を行う医学生に対し、予め実習体の体内情報をCT画像により供覧する教育法の導入を検討しています。そこで、本紙面では、試験的に取り組んだ防腐処置後の実習体のCT画像撮影経緯と解剖教育への実用性について概説します。

本試みは、実習体に提供いただく献体者のご遺骨の早期返還(通常、お預かり後2 年内にご遺骨返還しています)の要請をご家族から受けたことに発します。ご遺骨の早期返還を望む一方、ご家族の心中には故人の献体への遺志を尊重することも肝要との考えもあり、早期返還かつ医学の発展を全うすることが可能となる医学研究に対する提供に決断いただき、“防腐処置後の解剖実習体のCT画像撮影の成否の検証研究” にご協力いただきました。もちろん、献体をお預かりする際、ご家族の献体への同意と医学研究の承諾は得たほか、具体的に“CT画像”の撮影を行う研究に対する承諾を改めて得ております。また、「実習体へのCT画像撮影による体内情報の肉眼解剖教育への供覧」に対する学内倫理委員会の承諾も得ております。

CT撮影にあたり、実習体を保管する解剖実習室と撮影場所は同じ敷地内にあるとはいえ、民間葬儀社の専用車による学内間の搬送を行うことにしました。これは、多少搬送に経費は要すものの、ストレッチャー移動による事故防止等の実習体への安全面に対する配慮によるものです。また、経験的に知られる防腐処置後の実習体から蒸散するホルムアルデヒド等の有機溶剤の臭気に対し、実習体を二重のビニール製パックに密閉することで防ぐことを事前に確認しています。

CT撮影後に、画像の三次元再構築を行い“解剖教育への汎用性”が検証され、防腐処置後の実習体に対するCT画像撮影が骨筋および内臓器官において有用である知見が得られました。医学生に対するCT画像の供覧までには至っていませんが、体内情報を実習前に医学生へ供覧することの有効性について、臨床医師数名に確認したところ解剖教育への汎用性が非常に高いとの意見もいただきました。なお、本試みの詳細については、第4回Ai学会抄録集・発表内容を参照いただければ幸いです。