第44回
2007年3月19日

「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と
検討の方向性について」パブリックコメント

千葉大学医学部
山本 正二

「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性について」に関して以下のように意見を述べさせていただきます。参考にしていただければ幸いです。

1. 死因調査のため、必要に応じ、解剖、CTなどの画像検査、尿・血液検査等を実施とあります。

すでにご存じかと思いますが、死後画像検索の研究を行う、病理、法医、放射線科医を中心としたオートプシーイメジング学会が創設されてから、4年以上たちますが、依然として十分な施設で死後画像に対する検査が実施できていないというのが実情です。

私は、千葉大学医学部附属病院で実際に病理解剖前にCTを使用した画像検索を実施しています。この経験から実際にCTを運用する段階でいくつかの問題点が挙げられますので以下のように箇条書きいたしました。

  • 心肺停止状態で搬送される患者などを扱っている病院では、死亡した患者様について画像検査を実施することに対して特別問題はないかもしれませんが、そうでない施設の場合、検査自体に協力を得られない技師さんがいる可能性がある(現にMRIの検査は千葉大で実施できていません。)
  • 医療事故関連死の場合、証拠保全などが必要であるが、通常の病院内の施設を使用する場合、通常検査の時間帯に検査を行うことが難しい。何も知らない看護師さんがエンゼルセットなどの死後処理を実施し証拠保全が出来なくなる可能性がある。また検査時間が通常業務時間帯以降になり、一度霊安室に安置された場合、搬送を誰が行うのか?
  • 撮像した画像のコストは?もちろん、通常保険診療の適応は当てはまらない。
  • 撮像した画像を誰が読影するのか?今回この案が通り、施設が整備される場合は別ですが、医療関連死が発生した病院に、放射線診断医がいる可能性があるか?
  • 子供が小さな大人でないのと同様に、生前に撮像された通常の放射線科医が目にするCT画像と、心肺停止状態で、深吸気で撮像されていない、また造影剤の投与が行えない死後画像は全く違います。死後画像に対しては、わずか一握りの放射線科医以外、読影した経験を持つ診断医はいないというのが現状です。また死後に起こる画像上の変化についても、まだ症例数の蓄積や解析が足りない状態であり、画像上の所見が死後変化であるのか、死因に関連するものであるのか特定することが困難であるというのが現状です。
  • 通常の読影でも同様ですが、単に写真だけ見て読影をするのでは、当てもの診断となってしまいます。生前の診療録、画像、死亡時の状況などについての情報がないと読影の精度が上がりません。これらのデータを取り寄せることはこの委員会の権限で可能であるのか?
  • 作成したレポートは誰に提出し、どの様な法的拘束力があるのか?千葉大法医学教室で撮像しているCT画像も現在読影していますが、CT単体による死因の特定にはかなり制限があるというのが現状です。必ずしも所見にかかれていたものが解剖所見と一致するとは限りません。千葉大で実施している現状からすると、画像検査と解剖は相補的な関係にあり、事前に情報を得た上で読影し、その画像情報を解剖前に、解剖担当医に呈示するという事が、死因究明の精度を上げるために必要かと思われます。
  • ・に関連しますが、画像検索で死因の特定が可能であった症例は、解剖を省略することが可能だと思われます。但し、画像検索によっても死因が不明であった場合解剖が必要になると思われます。解剖に対して遺族などの了解が得られない症例ではこの調査組織に解剖を実施させる強制力があるのでしょうか。
  • いずれにせよ、通常の診断業務で手一杯の放射線科医にとってさらに煩雑な仕事である検査であることは確かです。“生きている患者の読影でも手が回らないのに死んでいる人も読めるか”というのが普通の放射線科医の認識だと思います。調査・評価組織の構成の中に、放射線科医が含まれていません。日医放などの放射線学会に今回の案件について打診はしているのでしょうか。
  • 法医学、病理学双方の解剖に立ち会いましたが、それぞれかなり解剖方法、所見の取り方が異なります。画像診断についてももちろんですが、解剖方法についても教育機関の設立が必要で、統一したガイドラインなどの作成および解剖医の養成が必要かもしれません
  • 監察医務員制度のある東京都は予算などの関係でもかなり特殊です。この組織の運用には、病理学、法医学、放射線診断学の連携が不可欠です。今回の組織を作るのでしたら、我田引水になりますが、病理学、法医学、放射線診断学の各教室の連携がとれている千葉県等の地方都市でまずプロトタイプを実施し、問題点を洗い出す必要があるかと思われます。

以上