第42回
2007年2月2日

CADのあるAiの未来と無い未来(後編)

東京農工大学
清水 昭伸

CADの無い未来では,低剖検率を補うべく大量に撮影された画像(1000枚前後の高精細体幹部CT像○○症例)が,画像診断医を只々苦しめていることでしょう.CADのあるAiの未来はどうでしょうか? バラ色で,画像診断医はコンピュータが自動生成した所見を確認するだけで良く,左団扇で仕事を進めている,と書きたいところですが,遠い未来はともかく,近未来ではそうはゆきません.当面は,上に述べた2つのメリットの内のどちらかを選択することになりそうです.例えば,剖検率一桁の現状では効率化こそ至上命令である,ということであれば,精度を犠牲にして効率化を選ぶことになるでしょうし,生体同様見落としが許されないとなると,読影時間が増えたとしてもCADの特性を理解した上で診断精度の向上を目指すことになります.

上記の記事を読んで,「なんだ.CADは思ったほど役に立たないんだなぁ.つまらない」と思われるかもしれません.著者もユーザの立場であれば同様の感想を持つに違いありません.しかし,そうは思わないで下さい.Ai用のCADの研究・開発には,医学,司法の各分野の皆様の協力が不可欠です.これから育てる楽しみがあると考えて下さい.また,近年の生体画像診断用CADの爆発的な成長を思うと,同様のことがAi 用CADでも将来起こると予想されます.是非,長い目で楽しみにして下さい.また, Aiだからこその良い面もあります.生体の場合には倫理上の問題によって画像データを複数の施設で共有しながら共同開発することが極めて困難でした.現在著者が参加している文科省の特定領域研究「多次元医用画像の知的診断支援」でもこの壁に苦められています.しかし,死体画像の場合にはこの問題はかなり軽減されます.場合によってはほとんど問題にならないかもしれません.このことは,Ai用CADの開発の速度を大いに加速させるでしょう.

最後に,著者が現在開発している3次元CT像を用いた骨折検出処理について紹介しましょう.今回骨折に注目したのは,骨が比較的抽出しやすい組織であること,また,骨折は死因に直接繋がる重要な所見ですが,体幹部CT像を精査して微小な骨折を見つけることは難しく,その分,計算機による支援のメリットが得られ易いと考えたからです.最初の処理ではCT像から骨領域を抽出します.この際に,軟骨と硬骨,硬骨はさらに皮質骨とその他(骨髄や骨梁)に分けて認識します.次に,それぞれの骨と隣接する骨との接続部位を自動認識し,各骨にばらばらに分解します.最後に,抽出した骨表面の幾何学的特徴(不連続性など)に注目して骨折の検出を行います.近い将来には,データベースに保存した正常な骨の形状モデルと比較することで骨折のみならず,他の異常(外力や病気による変形など)も含めて検出することを考えています.現在は胸部CT像に対して上記の処理を開発していますが,いずれは全身や,他のモダリティ画像にも拡張する予定です.また,骨の異常だけでなく,臓器の異常変形の程度も重要な情報となることもありますから,そのための処理,さらに,病理解剖の場合には,癌などの疾病に関する情報なども必要ですから,死後画像から病変部を自動抽出する処理の開発も今後の課題です.近い将来,Aiを行う画像診断医は,これらのCADの出力を参照しながら診断することになるでしょう.

上記の未来予想を確実なものとするためには,優れたCADを開発することはもちろんのこと,それ以外にも,AiにおけるCADの使い方についての分野横断的な議論が必要です.もちろん,これは,CADの能力と密接に関係しますが,現状のシステムだけを念頭に議論をしても未来の姿を正確に描くことはできません.Aiの分野でCADをどのように使いたいのか,どういった使い方が考えられるか,あるいは,AiにおけるCAD はどうあるべきか,などを事前に議論することが大変に重要となります.また,Ai 用CADの研究・開発人口が増えることも大切です.Ai用CADの研究は面白い!と感じていただけるよう,研究を始めたものとして,微力ながらお手伝いができればと考えています.

謝辞 本稿で述べた骨折検出処理の開発に際して,画像のご提供,ならびに熱心なご指導を頂いております放射線医学総合研究所の江澤英史先生,神立 進先生,辻井博彦先生,千葉大学の山本正二先生,岩瀬博太郎先生,本学の小畑学長に深く感謝いたします.