第41回
2007年1月2日

CADのあるAiの未来と無い未来(前編)

東京農工大学
清水 昭伸

「エーアイとシーエーディ」と書くと,人によっては「人工知能と計算機支援設計」を思い浮かべるかもしれません.もちろん,この学会ではエーアイを人工知能と考える人はいないと思いますが,シーエーディは分かりません.本稿で言うシーエーディ(CAD)は,計算機支援診断のことです.すでに2004年の1000字提言で本学の小畑学長がCADについて紹介していますので,併せて読んでいただくと分かりやすいでしょう.以下では,生体画像診断用のCADの特徴とCADのあるAiの未来について述べます.また,現在開発中の死亡時の3次元CT像から骨折を検出する処理(第4回Ai学会総会で報告予定)についても紹介します.

生体を撮影した医用画像に対するCADの研究の歴史は40年以上にもなりますが,実用化の歴史はわずか10年足らずです.そのため,放射線科医の中には現在でもCADを知らない人がいます.また,CADの解釈も人によって区々です.現在この分野の研究者たちの共通の解釈は,「計算機によって抽出された何らかの情報を参照しながら行う診断」です.どの程度参照するかは人に任されていますが,最終的な責任は医師しかとれないことを考慮すると,あくまでも参照であり,最後の診断は医師が責任を持って行うと考えるのが妥当です.それでは,CADを使うメリットは何処にあるのでしょうか?幾つか考えられますが,大きなものは,診断の効率化と高精度化です.効率化の例を一つあげます.例えば千枚以上のCT像を用いた全身検索には大変な労力が必要ですが,CADがあらかじめ画像上の怪しい場所をチェックし,そこのみを診断すれば良いとなれば,随分と楽になります.ただし,これには普通は,「計算機が見落としをしていなければ」,という条件が付きます.確率論の立場からは,見落としの確率を完全にゼロにすることは不可能です.問題は,それが医師による精度よりも高いか否かにあるはずですが,人間は,人にはやさしく機械には厳しい様で,機械による見落としはなかなか許容してもらえません.そのため,コスト削減の恩恵を得られるようになるのは,まだまだ先になりそうです.2つ目のメリットは高精度化です.これは既にいくつかの例で実証されています.ここでポイントとなるのは,CADの出力の性質を医師がよく理解することと,その特性を上手に生かして診断をすることです.例えば,実用化されているマンモのCADの場合には,まずは医師が画像を見て通常通り診断を行い,その後,CADの出力を参照し,必要があれば診断を変更します.確実に診断時間は伸びますが,CADの出力が医師の診断と相補的,かつ,医師もそのことを良く理解していれば,診断精度は向上します.

上記のことを踏まえてCADのあるAiの未来と無い未来について考えてみます.