第39回
2006年11月2日

バーチャル・オートプシーとオートプシー・イメージング(後編)

筑波メディカルセンター病院
塩谷 清司

(後半)

死後CTは三つの役割を果たしています。一つ目の役割は、死因のスクリーニングです。剖検の承諾が得られない場合でも、死後CTは断られることはありません。また、思考にかかる時間も、移動やセッティングを含めて五分程度です。死後CT二つ目の役割は、必ず剖検しなければならない症例のスクリーニングです。最初は剖検の承諾が得られなくても、死後CTで得られた所見を説明しながら説得すると、承諾を得やすくなります。また伝えられた情報と死後CT所見に隔たりがある場合には、必ず剖検する必要があります。死後CT三つ目の役割は、剖検のガイドとなることです。死後CTでの疑問点を剖検で確認していくというやり方で、剖検を効率よく思考することができます。

死後CTによる内因性死のスクリーニングでは、脳出血、くも膜下出血、大動脈解離、大動脈瘤破裂といった出血性病変が診断できます。これにより来院時心肺停止状態で搬送された患者さんの三割弱程度は死後CTのみで死因を確定することができます。また、これらの所見がない場合には、それらの死因は除外できます。しかし、死因として最も多い、いわゆる急性心不全は、死後CTで冠状動脈内の血栓や虚血性心筋梗塞といった直接死因を描出できません。それでは実際の救命救急現場ではどのように診断しているかと言いますと、狭心症や心筋梗塞などの既往歴、突然の胸痛を訴えたのち倒れてしまったというような原病歴、死後CT上の間接所見、例えばポンプ失調による肺水腫、著しい心拡大や左室肥大、冠状動脈石灰化などの所見を総合的に判断して、虚血性心疾患疑いと死体検案書に記載しています。いわゆる急性心不全以外に、肺動脈血栓塞栓、脳幹梗塞も死後CTで診断困難ですが、これらの診断にはCTよりコントラスト分解能の優れる死後MRIで診断加納であるという証拠が集まりつつあります。しかし死後MRIは死後CTと比較すると施行に非常に時間がかかるため、その施行数はまだわずかです。

ここまで、死因の確定、推定における死後CTの有用性とその限界を述べましたが、死後CTを施行していくにあたり、御遺体専用のCT装置がないこと、費用、読影という三つの課題が残っています。死後CTは日常診療に使用しているCTを利用しますので、日中であれば、通常の予約検査の間に施行しなければならないことがあります。しかし、死後CTを外来の混雑時に割り込ませるべきではありませんので、廊下に検査待ちの人がいなくなる時間を見計らって施行したり、検査待ちの場所自体をずらして、できるだけ人目に触れない形で施行できるようにするなど、各施設で工夫されているようです。

死後CTの費用に関しては、病院負担、遺族負担、死亡直前の画像診断として診療報酬請求と施設によってばらばらです。死後CTの有用性が認識され、広く施行されている現状を考えれば、国が費用拠出する何らかの仕組みを作るべきと考えています。

死後CTの読影をする際、死後変化、蘇生後変化といった所見の解釈が難しいことがあり、いくつかの事件や事故の裁判では、死後CT所見の解釈が問題となっていました。これは死後CTと剖検が対比検討されることが少なく、死後CTの正常像が確立されていないために起こる問題です。

これらの問題を解決するために、戦略としてのシステムであるオートプシーイメージングに、戦術としての死後CTを含むようにし、2004年にはオートプシーイメージング学会が設立されました。ヨーロッパを中心とするバーチャルオートプシーと日本のオートプシーイメージングそれぞれの研究者たちは、いくつかの国際学会を通じて、今後国際協力関係を保っていくことを確認しあっています。

最後になりましたが、正確な死因の把握は、当事者や医学のみならず、社会の安寧秩序、死者の尊厳保持、公衆衛生の向上といった国民全ての利益につながります。オートプシーイメージングというシステムで、死後画像と剖検所見をより多くの症例で対比し、得られた知識を蓄積、社会へ還元することで科学的に死因を救命していくことが、国家を救うことにつながると考えています。