第38回
2006年10月2日

医療関連死問題とオートプシー・イメージング・センター

自治医科大学
長谷川 剛

ヨーロッパに妖怪が出現した、と書いたのは『共産党宣言』のマルクスであった。21世紀の日本にはAiという妖怪があちこちに立ち現れている。妖怪はやがて実体となって日本の医療に影響を及ぼすだろう。

その革新性と有用性がゆえにAiはやがて制度化されるだろう。制度としての社会主義は出現から100年で瓦解した。Aiが一瞬のうちに瓦解し海岸の波の泡のように消えてしまわないためには、現実の諸問題に直面し深い洞察を持ってその有り様を考え続けなくてはならない。関係者はこのことを忘れてはならない。

喫緊の課題は医療関連死の第三者機関モデル事業だと思われる。戦後占領軍によって想定された制度設計は全国的に展開された監察医制度であった。しかし日本では監察医制度が全国に拡大することはなかった。このことは日本の医療や法医学の歴史にとって不幸であった。医師法21条を法医学会のガイドライン通りに遵守するには適切に機能する監察医制度が必須である。

司直の介入によって事態が改善されると信じる人たちとそれを嫌う主流派学会とのやりとりがある。しかし現実の制度設計は不備なまま放置されている。多忙な臨床現場での意思決定を求められる医師の本音としては、これは問題の本質をはずしたところでの哀しいやりとりとしか思えない。

厚生労働省が法医も含む各学会からの意向を汲んで作り上げたのが第三者機関モデル事業であった。その最大の欠点は、現在利用可能な医療技術を勘案せず50年前と同じ方法論で思考していることだ。死亡時医学検索に際して従来の解剖に加え画像診断技術を応用すること、経験を有したメンバーによる合議を制度化すること、解剖制度の流れを整理すること、これらを組み合せなくてはならなかったのに、その観点がまったく無かったところにこのモデル事業の悲劇がある。

医療関連死に関する医学的検索経路の整理が必要だ。Aiを医学検索に組み込むこと。地域ごとにセンター化した医療関連死亡医学検索センターを創設し、そのセンターにおいて解剖医、臨床医、放射線科医を含む関係者の合議、諮問等が出来るようにする。得られた情報は医療の質改善のために情報提供され、事故関連の教訓は全医療機関に還元される。充実した監察医制度を構築するためには、既存の枠組みを超えた発想が必要である。

妖怪が出現している。しかしその妖怪を21世紀日本の医療にとっての希望にしなくてはならない。