北欧の法医学におけるAiの研究状況
北欧では比較的解剖率が高いことが知られています。最近の画像診断の進歩は北欧の法医学においてもその力を発揮しています。2002年度に私がフィンランドに留学していた際には、銃創では必ず解剖前に単純X線撮影が使用されていましたし、子供の突然死においては全例全身CTが解剖前に試行されておりました。こうした画像診断は、解剖室が病院に併設されていることにより可能となっていましたが、通常の診療が開始される前に撮影せねばならず、朝早く起きて撮影するには解剖スタッフのみならず病院スタッフの協力も欠かせないものとなっておりました。
今回北欧の法医学学会では、画像診断の中でもCTを利用した研究に目を見張る進歩が多数報告されていました。全身CTを施行することにより事前の情報になかった四肢の古い骨折痕等の所見の見落とし防止に役立った、溺死肺の証明にCT値の違いが利用できる、最新の高解像度の3D-CTの特性を最大限利用して頚部に加えられた刺創の方向や深さを創洞に貯留した空気の3次元画像によって推定できる、気管から縦隔への空気の貯留を3次元的に証明することによって小児の気管内挿管による気管穿孔を診断できる、肉眼解剖でも分かりにくい頭蓋骨の骨折線を証明できる、3次元で頭蓋骨のつぶれ方を示すことにより肉眼解剖では推測しにくい頭部への衝撃が加わった方向をも推測できる、などの様々な報告がなされていました。3D-CTの映像は非常に微細で美しいものであり、もはや肉眼解剖を補完するdigital autopsyであるといっても過言ではないレベルのものでした。
digital autopsyについてこれからの重要な問題として・お金問題と・人の問題があげられていました。・のお金の問題に関しては、現在のところは研究費でまかなわれている施設がほとんどでしたが、北欧では医師が必要と認めた検査費用は支払われるのが通常であり、一般的な薬物検査と同程度のコストですむことから、今後CTが使用されていく可能性は高い。・の問題に関しては、解析には高度の放射線科学と法医学の専門的知識が要求される。現在のところ、CTを死因診断の手段として研究しているごく一部の法医病理学者によって画像解析がなされており、一般の法医病理学者や放射線科医がすぐにできるようなものではない。そのため、会場はForensic radiologistの育成が急務であるという結論で一致した。世界有数のCT台数を誇る日本は、digital autopsyの研究分野で世界をリードできる可能性があるが、北欧と同様の問題を解決していく必要があるのかもしれない。