第35回
2006年7月3日

銃創とAi-散弾銃による死亡事例

筑波剖検センター
早川 秀幸

剖検の補助検査ないしは代替検査として、Aiの有用性が強調されている昨今であるが、銃創の剖検では、銃弾の検索目的で古くから単純X線による画像診断が活用されてきた。剖検開始前に単純X線とCTを施行し、剖検中ポータブルX線撮影も併用した散弾銃による死亡事例の解剖を経験し、Aiの有用性を再認識するに至ったので、その概略を紹介する。

[事例概要]

実父との口論が高じ、近くにあった散弾銃で胸部を1発撃たれた。病院に搬送されたが心肺停止状態で、蘇生術に反応しなかった。使用装弾は内包弾粒124~132粒、1 粒直径3.5mm。

[画像所見]

単純X線で腹部に散弾と思われる粒状影が131個認められた。腹部CTでは肝臓の高度挫滅と多量の腹腔内液体貯留が確認でき、腹部大動脈・下大静脈は虚脱状だった。下腹部~骨盤内に散弾と思われる微小な高吸収域の集簇が認められたが、アーチファクトの影響で詳細な情報は得られなかった。胸部CTでは大きな異常は認められなかった。

[剖検所見]

前胸部右側下部に射入創が1個あり、射出創は認められなかった。創洞は右肋骨弓下から腹腔内に至り、肝臓下部の高度挫滅、腸間膜貫通創を形成していた。腹腔内に950mlの血液が貯留し、心臓剔出時血量および諸臓器の血量は極めて少なかった。剖検中に摘出した臓器・組織や臓器摘出後の腹部・骨盤部をポータブルX線撮影することで、取り残しの散弾の有無が確認でき、最終的に全ての散弾について回収ないし存在部位を確認することができた。

[Aiの有用性]

剖検前に行われた単純X線とCTの画像より、死因は腹腔内出血による失血であり、主たる出血源は肝挫滅であると判断できた。これらの所見は剖検所見と一致し、死因診断における画像の有用性が確認できた。ただし、散弾によるアーチファクトの影響で下腹部~骨盤内の所見については詳細不明であり、この部位に損傷・病変があった場合、その画像診断は不可能だったと思われる。散弾の局在診断については単純X線の方が有用性が高く、剖検中ポータブル撮影を施行することで全ての散弾についてその存在部位が確認できた。また単純ェ線とCTを併用することで、従来の剖検写真では表現が難しい射創管の状態や散弾の分布状況を明快な画像として記録することができた。

Aiが死因や損傷の診断に極めて有用であることは、さまざまな学術誌や学会で報告されている。それに加えて、画像処理を加えることで万人に理解しやすい画像を得ることができるのもAiの大きな利点といえる。近い将来裁判員制度が開始され、専門知識を持たない人々が剖検記録を含む裁判資料を読み、判断を迫られる日がやってくる。よりわかりやすい剖検記録の作成という観点からも、Aiの果たす役割は大きいと考える。

本事例の詳細は、法医学の実際と研究 47:79-83(2004)に掲載されています。