オートプシー・イメージングの大学モデルからの提言
私がご遺体をCTあるいはMRIで全身の画像を取得し、死因の追究に役立てようと思ったのは、ミネソタの放射線科医が趣味のバイオリンをCT撮影してみて、それが楽器の非侵襲的評価となることを示した論文1)を読んだときだった。その時、バイオリンに相当するものは自分にとって何かと考えてみた結果、思いついたのは病理解剖のご遺体であった。しかし、当初、「その撮影台に次ぎにのる患者さまの承諾(インフォームドコンセント)を得る必要があるのではないか」という不安があった。また、最近、ご遺体のMRI撮影中に、救急の患者さまの撮影の要請があった場合の問題も提起されてきている。そこで、私は、Ai学会が主体となって医療機器メーカーにAi専用MRIの試作を呼びかけるべきであると提言したい。このAi専用MRIの導入による利点は大きい。
病院ではなく大学がAiを行う最大の相違点は、教育であり系統(教育)解剖用のご遺体への応用と考えている。つまり、病理解剖や法医解剖で使用されていない時間に、系統解剖用ご遺体の全身MRI画像を撮影することができる。そして、解剖実習の際に、医学生は解剖させて頂いているご遺体のMRI像を参照し、現在観察している臓器・筋肉・脈管・神経などが断面ではどのような位置にあるのかを知ることができる。これは生体の理解を深める上で非常に有効だと思う。まさに、3次元の専用の地図を手に入れることになるだろう。学生が解剖実習で医療に直結するMRI画像に接することは、early exposureにつながり放射線医学への興味もわくと思われる。また、ご遺体の偶発病変がみつかるかもしれない。現在AI学会は、病理学・放射線医学・法医学の3分野が主体であるが、これに、解剖学も加わる可能性がある。
これらのためには、やはり、Ai専用MRIが必要となる。系統解剖用のご遺体を病院のMRI台には載せられないだろう。現在のMRIは医療機器であるが、Ai専用MRIは研究機器に分類される。したがって、Ai専用MRIは、厚生労働省の認可は必要なく、また、撮影中の患者さまに話しかけるマイクは必要なく、このほか不要な装備を取り除くことによりコストを下げることができるはずである。あるいは、生体にはかけられない高磁場での撮影や、照射する電磁波パルスもご遺体用に調整でき、生体用では得ることができない微細な病変を検出できるかもしれない。そのときAi 学会には、さらに医用工学の分野も参加するかもしれない。
このような視点から、私は、Ai学会が主体となって医療機器メーカーにAi専用MRIの試作を呼びかけるべきであると提言したい。そして、Ai専用MRIの開発が長い目でみれば、Aiの普及につながると信じている。
1)Sirr SA, Waddle JR. CT analysis of bowed stringed instruments. Radiology. 1997 Jun;203(3):801-5.
事務局註:Ai学会立ち上げ当初の議論において指摘された、artificial intelligence との混同を避けるという観点から、Aiのiは小文字表記を原則としております。この部分に関しまして、原稿を訂正させていただいております。