第21回
2005年4月27日

オートプシー・イメージングとVirtopsy が中東で邂逅した・・・
「第1回法医放射線医学国際シンポジウム」に参加して

重粒子医科学センター病院
江澤 英史

「第一回法医放射線医学の進歩に関する国際シンポジウム」が、シリア・ダマスカスで開催された。 (1st Congress of Radiology & Forensic Medicine, 1st international Symposium on Advances in Forensic Radiology. Damascus, 29-30/3/ 2005)

本シンポジウムではスイスのVirtopsy と、日本のオートプシー・イメージング(Ai)が、現時点において、この分野における世界の2大潮流であることが認知された。

大会運営会長の一人で、ドイツ法医学会副会長Puschel教授は、閉会の辞の中で宣言した。

「スイスのVirtopsy, 日本のオートプシー・イメージング、フランスのVirtual autopsy, そしてドイツで展開されるRadio-autopsy。用語も中身も違うが、われわれはすでに共通のゴールを目指して歩き始めていることは確かである。」

注目は、Virtopsy (Virtual とAutopsy を融合させた造語。スイス・ベルン大学のグループが提唱している)である。彼らによるとVirtopsy とは、CTとMRI に限定した死後画像診断にて3次元画像を取得し展開することで、剖検の代替にしようという試みなのだそうである。Virtopsyは、CT,MRIに限定した死後画像展開によるバーチャル死体の再構築が主眼である。つまり画像診断に重点を置いている。

AiとVirtopsyは、基本概念と目的は似ている。しかし相違点もある。オートプシー・イメージングは、病理診断に画像診断を組み込むことにより、新しい診断クライテリアの構築を目指す。つまり重心は剖検にある。Aiの目的は、死亡時に剖検の他に死後画像診断も加味し相関させ、新しい次元の死亡時医学検索を達成することである。

現段階では、オートプシー・イメージングはVirtopsyを包括している。Virtopsy はMRIとCTに限定しているが、オートプシー・イメージングは、適用可能な画像検査を用いると規定されているためである。また、オートプシー・イメージングは死亡時画像(PMI, = postmortem imaging)の概念を内包していることは、すでに論証されている。見方をかえれば、Virtopsy はPMIと同一平面上に存在するPMI進化型である。

Virtopsy グループメンバーと議論し、はっきりしたことがある。もはや、死体に対して画像診断をするべきだという世界的な潮流を押しとどめることはできないこと、そうした検査は単なる死亡時画像(PMI)という旧来の言葉には収まりきらないために、新しい概念用語を必要とするということ、の2点である。スイスではVirtopsy、ドイツではradio-autopsy。フランスではvirtual autopsy。そして日本ではオートプシー・イメージング。こうした用語が、世界中で同時多発的に派生してきていることがその何よりの証明である。もはや彼らは、PMIという用語を象徴として用いようとしない。

こうした概念の先進国である日本でも、旧態依然としたPMIという用語にしがみつき続けたがる人たちが見受けられる。こうした傾向はAiを含めた死後画像診断という概念を実際に行っていないか、あるいは概念をはなから受容しようとしない人たちの間で特に顕著である。

グローバルな観点からすると、PMIという用語は時代遅れである。日本が一所懸命PMIと言い続けたとしても、結局いずれは他国で主張された概念に呑み込まれていくことになる。

オートプシー・イメージングは国際活動のフェーズに入ったのである。

Virtopsy の概念展開の部分では、シンクロニシティが認められた。プレゼンテーションの中で、江澤、Virtopsy Group のAghayev氏(スイス・ベルン大学)、ハンブルグ大学のOesterhelweg氏、フランスのVirtual Autopsy(F.Dedouit氏) らが立て続けに関連研究の国際協調を言及したのは、決して偶然ではない。シンポジウムでは、死亡時医学検索に対する画像診断導入は必然であり、法医学や病理学、放射線医学の積極的な協力が必要だという共通認識が形成された。用語統一ではなく、緩やかな医学情報ネットワーク(Moderate medical information union of diseased)を構築するべきだという私の主張は、参加者の多くから賛同を得た。国際的にこの合意は重要である。これからしばらくは、こうした業績の報告が世界中から続々と押し寄せてくるに違いない。

発表の中から、興味深い演題をいくつか紹介する。

幼児虐待に関する死亡時画像の有効性が、複数施設から報告された。ハイデルベルク大学のRuf氏は、死亡乳児の脳血管造影を行い、Shaking baby syndrome における脳底動脈破裂検出を行った経験を報告した。オートプシー・イメージングの現状では、造影診断は難しい。しかしここにAi造影という新しい診断分野が確立されたことになる。世界は広いものだ。

ハイデルベルク大学Stein 氏は、遺体に対し経時的PMCTを施行し、死後画像変化を追跡するという画期的な研究を発表した。こうした基礎研究は、社会的背景を考えると実施困難である。こうした知見が確立されると、PMCTから死亡時刻推定が可能になる。これは画像法医学の基礎になるだろう。

今秋ドイツ・ハンブルグにて日独共催の国際法医学会が開催されるが、大会会長Puschel教授によると、Virtopsyが中心トピックだそうである。本シンポジウムがひとつのエポックを形成し、それが今秋の国際法医学会で集約されるという流れの中にある。今秋、新しい医学の枠組みの国際標準が確立される可能性は十分ありうることである。


余談であるが、このシンポジウムに参加した研究者から、最も発せられた日本人研究者の名前は、Dr. Shiotani であった。論文をきちんと積み上げていけば、国際社会では評価されるのだ、ということを身をもって実感させられた。塩谷先生を紹介してほしい、とか、何故彼はこなかったのか、などとあまりに口うるさく言われたものだから、途中から面倒くさくなって、秋のハンブルグにはきっと行くと思う、と勝手に約束してきた。塩谷先生、あとは宜しくお願いします。

本シンポジウム招聘にあたり日本大学医学部社会医学講座法医学部門内ヶ崎西作先助教授には大変お世話になった。シンポジウム参加を決めたとたん、アメリカ大使館がシリアから撤退したりして、一時は本気で心配していたが、実際に行ってみたら、全く危険を感じなかった。しかし、そうした印象も、ドイツ・ハンブルグ大学法医学教室の諸先生方、ならびにドイツより参加された諸先生方からの暖かい配慮によるところが大きい。内ヶ崎先生のご配慮と併せ、この場をお借りして深謝したい。