Aiの実施率は依然として低調ではあるが――
「周死期画像診断」という概念の提案
Aiを推奨する立場からすれば、わが国におけるCTの普及率を鑑みると、Aiの実施率は限りなく100%に近くあるべきである。病院での死亡はもちろん、CTを有していない精神科単科病院、診療所、介護老人保健施設などであっても、近隣にCTを有する施設が存在すれば、契約や連携によってAiの実施は可能となる。
すなわち、わが国においては「その気になれば」Aiはほぼ100%実施可能な環境にあると言える。しかしながら、現実にはAiの実施率は依然として低調である。精緻な死因調査が求められる医療安全調査機構への届け出事案(事故調事案)でさえ、Aiの実施率は40%に満たない。筆者は2024年6月1日付の「1000字提言」において、この現状を大いに嘆いた。
三重大学病院では、20年近く前から死因究明のためにAiを推奨しており、近年では外来死亡患者の約85%、入院死亡患者の約1/3にAiが実施されている。Ai未実施事例を検討すると、多くの症例で死亡直前に生前CTが施行されていたことが明らかとなった。
2024年1月から6月の半年間における外来死亡患者95件のうち、Ai未実施事例は15件であった。そのうち9件は死亡当日、2件は前日、1件は2日前にCTが施行されていた。Aiも生前CTも未実施だった3件は、明らかな縊死が2件、かかりつけ患者の看取りが1件であった。
一方、同期間の入院死亡患者124名のうち、Ai未実施事例は83件であったが、死亡日から3日以内にCTが施行された事例は32件(38.6%)、7日以内では43件(51.8%)に上った。ここでいうCTは、Aiのような全身撮像ではないが、相当の撮像範囲を有するものであり、頭部CTのみといった限定的な撮像は除外している。なお、最後のCT実施後に臨床的急変から死亡に至った事例は2件あり、いずれも緩和ケア施設への転院調整中の患者であった。
これらの結果から、少なくとも外来死亡患者においては、医学的・社会的にAiが必要な症例にはほぼ全例Aiが実施されていたと評価できる。また、入院患者においても、Aiが相当に必要であったにもかかわらず未実施であったと考えられる事例は認められなかった。
以上を踏まえ、死亡前に一定条件下(死亡7日以内、かつCT撮像後に臨床的急変なし等)でCTが施行されている場合には、Aiを含めた「周死期画像診断」として取り扱うことも吝かではないと考える。死亡直前にCTが施行されていたとしても、Aiとは別物であり、Aiを推奨するという基本的立場は不変である。しかし、画像診断がまったくなされていない状況よりは、死亡直前の画像が存在する方がはるかにマシというスタンスである。
この「周死期画像診断」という概念の導入は、Aiの普及促進や診療報酬の獲得に向けた一手段として、決して遠回りではない。産科領域における「周産期」という概念が汎用されているように、Aiの実効性を高めるための現実的かつ制度的なアプローチとして、今後の議論と制度設計に資するものと考える。