第157回
2024年11月01日

病理解剖におけるオートプシーイメージング実施割合の把握に向けて

福井県立大学・看護福祉学部
法木左近

 日本病理学会では、1960年から日本全国で病理解剖された症例の剖検診断をまとめた「日本剖検輯報」を刊行している。その第1輯には、当時の日本病理学会の総務幹事である吉田富三が序文を記している。(ちなみに、私の好きな言葉である「顕微鏡はモノを見る道具ではない、モノを考える道具である」は、吉田富三の言葉である。)

 「日本全国で1 年間に行なわれる病理解剖の例数は、ここ数年来、毎年10,000 例ほど少しずつ多くなる傾向である。この全部の記録をまとめたものが欲しいというのが日本病理学会員の長年の願望であった。これはまた、ひとり病理学者だけの願望ではあるまい。死因に関して、病理解剖に基づく統計的考察の資料の要求は、臨床各科はもとより、医学の総ての分野の人々の要求だと思う。」

 最初、「毎年10,000例ほど少しずつ減っている傾向」の間違いでないかと二度見をしてしまったが、当時、病理解剖は増加傾向であったのだ。ちなみに、今年の7月に刊行された最新刊の第65 輯(2022 年度剖検症例収載)には、866施設から6557 例の症例が登録されている。

 オートプシーイメージング学会でも、オートプシーイメージングが日本全国でどのくらい実施されているのか実施状況を把握すべく、Ai実施施設の登録制度を運用しているが網羅しているわけではない。将来的にオートプシーイメージングの実施に際して、その費用が社会保険の適用となれば、実数の把握が容易になる可能性がある。しかし、これはまだまだ先の話である。

 そこで、ここからが私の提言となるが、剖検輯報の登録の際に病理解剖の前にオートプシーイメージング実施の有無を入力する項目を追加することを提案したい。現在、剖検輯報の登録は、NCD(National Clinial Database)を利用し、コンピューター上での入力するようになっている。したがって、解剖前にオートプシーイメージングを実施したかどうかの項目を加えるだけで実現可能である。

 病理解剖前にオートプシーイメージングをすることで、解剖の精度は各段に上がる。これは経験した病理医であれば異論はないだろう。そのような精度の高い病理解剖の割合(件数)はどのくらいなのか、これはまた、ひとり病理学者だけの願望ではあるまい。医学の総ての分野の人々の要求だと思う。