第156回
2024年10月01日

理事就任のご挨拶

山王病院放射線科 医長
下総良太

 この度、オートプシー・イメージング(Ai)学会理事に就任いたしました、医療法人社団 翠明会 山王病院 放射線科の下総(しもふさ)良太と申します。

 私とAiとの出会いは今からおよそ20年前、千葉大学の法医学教室において車載CTによる変死体検案の試みが行われた際、画像診断医としてそれらの画像の読影・解析に携わったのがきっかけでした。当時は遺体のCT画像について参考にできるような文献・資料はほとんどなく、手探りでの読影ではありましたが、未開拓の学問領域への挑戦に手応えとやりがいを感じたのを覚えています。この取り組みへの参加をきっかけとして、江澤英史(海堂尊)先生らと出会い、当時設立して間もないAi学会に入会することになったのです。

 翌年には放射線科内での上司であった山本正二先生らとともに千葉大学Aiセンターの設立に関わり、大学病院内・時には院外での死亡症例の画像を読影するようになりました。画像を読影したご遺体が解剖となった際には可能な限り解剖現場に立ち会い、画像と解剖で何が分かるのか、何が分からないのかを病理医と議論しました。画像診断医としてこの経験は貴重なもので、死後画像のみならず一般臨床における読影能力の向上にも大いに役立ちました。

 外科手術前の画像検査などと同様に、病理・法医解剖前にも画像検査をルーチンで行い、放射線科医がその読影に関与する---このようなやり方が全国に広がれば、病理医・法医学者は解剖前のガイドとしてCTやMRIなどの画像を適切に活用することができ、一方で放射線科医は解剖結果のフィードバックから読影能力を向上することができる。Aiの普及により病理医・法医学者と放射線科医の双方にwin-winな関係が構築できるのではないかと夢想していました。

 しかし現実は、病院においては各専門領域の医療従事者の思惑が複雑に交錯し、より上位の政治領域では複数の管轄省庁にまたがる制度の未整備、さらにそれぞれの領域での人員・予算をはじめとしたリソース不足などがあり、想像した理想郷への道のりはたいへん険しいものでした。2020年に死因究明等推進基本法が策定され、死亡時画像診断(Ai)の法的根拠はある程度明確になりましたが、画像の撮像に関わる費用をどこが負担し、撮像された画像を誰が適切に解釈すべきかといった、検査の根幹に関わる部分すら現在に至るまで不明確なままです。

 私は2012年には千葉大学を辞して現在の山王病院に勤務することとなり、普段の業務においてはAiから一定の距離を置くようになりました。院内・院外の心肺停止例などを読影することはありましたが、常勤病理医不在の民間病院において、法的根拠が曖昧で費用負担の主体が明確でないAiを、一放射線科医の意向のみで推進することは困難でした。死因究明等推進基本法や死因究明等推進計画にも記載されているように、画像検査や解剖を手段とする死因検索は、大学病院をはじめとする大規模病院・施設のAiセンターなどが主体となり適切に行われれば良いのでは、と最近までは考えていました。

 しかしながら外から大学病院を眺めていると、特にこの十数年の間の様々な制度改変などにより、残念ながら特に地方の大学(病院)には現在より高度な死因究明を遂行できる程の体力はほとんど残っていないようにみえます。死因究明等推進計画においては死因究明に関わる人員の確保や教育・研究体制の充実を喫緊の課題としていますが、従来の研究・診療体制の維持で手一杯のようにみえる地方大学病院において、これらの施策のほとんどは絵に描いた餅に過ぎないように感じます。

 大学病院で亡くなる事例や法医学教室で検案・検死が行われる事例は、全死亡例のほんの一部に過ぎません。多くの死亡事例はそれ以外の一般病院で生じているのです。全国民に平等かつ適切な死因究明を行っていくためには、そのシステムの頂たる大学病院や検死専門施設の拡充のみならず、中小規模の一般病院を含めた広い裾野の整備が必要ではないでしょうか。私はこのような考えのもとAi学会理事に就任しましたので、理事としてAiの学術的な進歩・成熟とあわせ、Aiをより一般化していくための制度やシステムの整備にも関わっていきたいと思っております。

 皆様、どうぞよろしくお願いいたします。