第154回
2024年08月04日

死亡時画像診断(Ai)による公平な死因究明の実現

東北大学大学院 医学系研究科 画像診断学分野
小林智哉

 2023年、日本における年間死者数は157万5936人となり、政府の予想を上回る増加傾向を示している。死者数の増加に伴い、死因究明の地域格差がより顕在化しているが、それを補完するために導入される死亡時画像診断(Ai)にも地域格差が存在している。2020年に施行された「死因究明等推進基本法」では、地方公共団体の責務として「地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する」ことが明示されている。さらに2024年7月5日に閣議決定された死因究明推進計画の変更には、死因究明等推進計画の課題として「人材の乏しさ」と「地域の体制整備の必要性等」が示されており、その改善ポイントが示されている。これらを基に教育研究機関からの私見を示す。

 Ai実施者の人材育成

 Aiの人材育成として教育を受ける対象は、依頼者(医師、警察関係者)と実施者(診療放射線技師:以下、技師)である。現状で技師養成校の学生は、Aiを臨床実習で目にすることはあるものの、教育やトレーニングが不十分なまま現場に配属される(選択科目でAiの講義を履修できる技師養成校は数校ある)。この状況では正しい技術の普及、さらに地域の体制整備に至るまでの意欲を持つことは難しい。最近では、Aiに関わることを志す技師学生や、研究を志す大学院生も増えており、教育機関はこのような学生の志を支える体制整備が求められる。また、現職の技師に対しても継続的な知識のアップデートや情報交換を地域で行う体制整備が必要である。

 深層学習(DL:Deep Learning)技術の応用

 地域の死因究明の均てん化を目指すための技術としてDLの活用が期待される。膨大なデータから得られる有用な情報を基にDLモデルを構築することで、読影医が少ない地域でも画像診断の精度が担保される。DLモデルの構築は、“正解”をどのように付与するか(読影結果?解剖結果?死因?)が問題となるが、世界屈指のAi実施数を誇る日本が研究開発を推進すべきである。

 全ての遺体が公平に高品質な死因究明を受けられる社会の実現に向けて、具体的な行動が求められている。「死因究明等推進基本法」に基づき、関係機関が一丸となって課題に取り組む必要があり、研究から得るエビデンス構築、それを教育して普及させるサイクルを回すことがAiによる公平な死因究明の実現には不可欠である。この活動を推進する技師主体の学会として日本オートプシーイメージング技術学会(JSAiT)にも注目して頂きたい。