Ai(エーアイ)が自殺を予防する?!
先日「新潟いのちの電話」設立40周年の式典に出席した。「いのちの電話」は自殺予防を目的に1953年にロンドンで始まり、日本でも1971年にスタートした完全ボランティアによる電話相談だ。新潟では1984年4月14日に全国で17番目に開設された。電話相談だけで自殺を予防できるのかとの意見もあるが、心理学的には悲嘆を抱えている人には話を聴くことが最も重要で、それなりに効果はあるそうだ。現在では行政による同じような電話相談も行われている。
令和5年の警察庁の統計によれば、全国の自殺者は21,837人で、15歳~39歳では死亡原因の第1位となっている。この数字は主要先進7カ国では最も多い。自殺は「避けられる死」と考えられ、その予防についてはいろいろな対策が実施されている。厚生労働省の事業として行われた岩瀬らの「死因究明制度と連動した死亡情報データの活用による自殺対策の推進に関する研究」によれば、スウェーデンの個人識別番号には医療情報も含めた個人データも結びついており、一定の資格を得れば個人を特定することなくその情報に容易にアクセスできるそうだ。そして、生前情報と死亡原因との関連を導き出すことによって、自殺予防の研究にも利用されている。例えば、自殺者と抗うつ薬の服用については明確な関連性は認められないが、向精神薬の服用とは関連があるそうだ。一方、本邦では自殺事例の薬半数からは薬毒物が検出されており、自殺時に薬物摂取の割合が高いことや催眠効果のある薬物を摂取していたケースが多かったことが報告されている。日本でもマイナンバー制度が導入されたので、個人を特定することなくそれらのデータが利用できるのであれば、わが国でも自殺者の生前の医療情報を分析することで有効な対策が立てられるかもしれない。
また、同研究によれば同国では死亡した後の埋火葬には医師の死亡証明書が必要だが、そこには死因に関する記述は必要ないそうだ。そして死因を記載した死亡診断書は死後3週以内にあらためて提出される必要があり、その両者から死因統計が作成されるとのことである。正しい対策を立てるためには正しい統計が必要との考えからこのような制度になったそうである。確かに、死亡直後に書かれた死亡診断書の死因を基に作成される日本の死因統計よりはより正確なものと考えられる。ただ、このような制度を日本に導入するとなると、医師や行政の負担は増えるだろう。しかし、自殺予防に貢献できるのであれば、賛同してくれる方も多いのではないだろうか。
言うまでもなく正確な死因の記載には解剖が必要だ。しかし、解剖の同意が得にくい日本では死亡時画像診断、すなわちオートプシーイメージング(Ai)がそれに代わる役割を担うことになる。本学会が提唱するように全ての死亡にAiが実施できるようになれば、「Aiのおかげで日本の自殺が減り、他の健康対策もおおいに前進した」と言われる日が来る、、、かもしれない。
以上