第144回
2021年5月31日

『老衰』は日本人の死因第3位

日本歯科大学新潟生命歯学部外科
大竹雅広先生

先日、インターネットニュースを見ていたら『老衰』が死因の第3位になったとの記事を見つけた。厚生労働省のホームページを見ると、死因としての『老衰』は2001年から増え続け、2016年には第5位、2017年には第4位となり、2018年以降は『脳血管疾患』を抜いて第3位となっていた。いかに高齢化社会とは言え、そんなに『老衰』が多くなったのか、とふと思った。

厚生労働省の『死亡診断書記入マニュアル』では、「死因としての『老衰』は高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いるが、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入すること」とされている。すなわち、『老衰』を死因として記載するのはハードルが高そうである。死亡診断書が保健行政等の重要な基礎資料となる死因統計に用いられることを考えると、いかに高齢であっても剖検やAi(エーアイ)によって本当の死亡原因を確かめ、診断書にはその死因を記載し、なるべく『老衰』とは書かないようにと実践してきた。

一方で、高齢の患者さんが安らかに亡くなられ、家族がその死を十分に受容されているような時には、解剖や Ai(エーアイ)をお願いしても断られることがある。他に適切な病名がなく、渋々『老衰』だけを死因として診断書を作成することがあった。その時、同僚の医師から「死亡診断書の『老衰』という記載は、患者が天寿を全うしたと思えるので家族にとっては死を受容しやすいのではないか」と意見された。確かに、『老衰』という言葉は残された人にとってはもっとも受け入れやすい死因のひとつであろう。

それでは、本当の意味での「老衰」はいったい何歳くらいなのだろうかと調べてみると、人間の細胞分裂は概ね50回が限界で、理論上の寿命は約120年だそうだ。実際、これまでの世界最長寿も1997年に死亡したフランス女性の122歳だそうである。すると『老衰』という言葉は120歳くらいの人が死亡したときにしか使えず、少なくとも100歳以下では『老衰』という死因を使うのは躊躇されるとの考えが湧いてくる。

ところが、日本の死因統計はWHOの国際統計分類(ICD)に準拠しており、その修正ルールでは「診断書に『老衰』の記載があっても死因統計では他の診断名を使用することもあり得る」とされていた。死亡診断書の『老衰』と『Ai等で判明した死因』は二者択一ではなく、両者を併記することで家族の死の受容を妨げずに死因統計へも貢献できることが確かめられた。すると、死因としての『老衰』の順位は下がるかもしれないが...。