大阪府監察医事務所にAiが導入され約半年が経過しました
大阪府監察医事務所では2019年4月よりAiの運用が開始されました。そこで、約半年間の運用状況を振り返りご報告させていただきます。
当事務所では大阪市内における異状死体を年間約4500件(解剖は約1000件)取り扱い、毎日2名の監察医がご遺体の検案と解剖を行っています。ここに今年度からはCT車(日立製64列マルチスライスCT Supria搭載)が加わり、検案のみでは死因の決定が困難であるケースについては検案後に放射線技師が撮影を行なうこととなりました。これを解剖前に担当監察医が読影し、Aiの情報を加味して死因決定を行うか、さらに解剖に進むかを選択しています。
取り扱い内訳のAi導入前後での変化を見ると、2018年4-8月は総数1837件のうち検案のみの例が約80%、解剖施行例が約20%であったのに対し、2019年4-8月は総数1655件のうち検案のみの例が約75%、Aiで終了した例が約10%、解剖施行例が約15%となっています。
Aiの導入によって検案のみの例と解剖例がともに減少した原因としては、いままで外表のみから曖昧な死因推定で終了としていた例についてAiを利用した検索を試みるようになったことと、出血性病変や重度の肺炎例などの解剖が減少したことがあげられます。これは死因究明の深化を導くとともに、スタッフの安全衛生、また証拠保全の観点からも好ましい変化です。
さらに、個人的には解剖前に監察医と解剖助手の間でご遺体に関する共通認識を持ちやすくなり、解剖がよりスムーズに進むようになったとも感じます。
このように諸手をあげて歓迎したいAi導入ではありますが、問題点もいくつか浮上しています。
はじめに、読影レベルの問題。当事務所では担当監察医が読影を行いますが、監察医の背景は多様で30-70代の法医学者や臨床医が含まれており、CT検査とのかかわり方は医師間で大きな隔たりがあります。次に、Ai施行例のばらつき。死因決定には医学的な正当性はもちろんのこと、割き得るリソース、社会的必要性なども複雑に絡んだ判断が求められ、各監察医の裁量が強く発揮されることは言うまでもありません。このため、Ai施行率や対象例の傾向についても監察医間でばらつきが出ます。最後に、知識の蓄積について。日々撮影される大量のデータ(単純計算で年間1000件以上のデータが集まることになります)は宝の山ですが、残念ながら整理が追い付いていない状態です。
当事務所のAiはまだまだ試用段階としか言えません。しかしながらこのわずか5ヶ月の運用でも、新たな着眼点やこれまで見逃していたかもしれない点を多数認めることができ、そのパワーには可能性を感じるばかりです。勉強会やデータベース化によるケース集の作成など、今後も施設としてのスキルアップを図りわが国の公衆衛生に貢献していきたいと考えますので、会員の皆様方におかれましては今後ともご理解、ご支援の程よろしくお願いいたします。